■ 2:何にでも背を向けて、見ない振りして

あの後、俺は花形や高野に不審な目つきで見られたのは言うまでもなく。
結局俺が疲れてるという事に収まり、二人とも心配してくれたようだ。

実際問題、あれは一体なんだったんだろうか。
なんで俺だけに見えたんだ、っつーか、突然消えるとか、どういうことだよ。

佐原は入院してて、その入院しているやつが幽霊になって……もしかして、あいつ、死んだ……、のか?


朝一での出来事を頭の中から消去しようと、練習を始めたのだが。
消去しようと思えば思う程、色々考えてしまって駄目だった。
逆効果ってやつだ。
そりゃ、誰だってあんなの見たら気にしない方がおかしいだろう。
俺が悪いことしたわけじゃないのに、なんだか胸糞悪い。

今日一日、何か悪いことでも起きんのかな。

そんな事を思いながら、自分の教室へと向かったわけだが。


「………………花形」

「ん?どうした、藤真」

朝練を終えると、同じクラスである花形と俺は、いつも一緒に教室に来ている。
その花形の背中に隠れるように、俺は教室に入るのをためらった。

だ、だってさ。

「なんか、いる」

「……なんか、って?」

「なんか、って、なんかだよ。あれだよ、あれ。ほら、朝の!」

「佐原の事か?」

ああ、コイツ口にしやがった!!
出来ることならば少しでも思い出したくなかったのに!

だが、思い出すも何も、佐原は教室中の、自分の席へと座っているのだ。
しっかり、前を向いて。

もしかして、と思った俺は、教室に入る前に確かめようと、花形の後ろに回ったわけで。
案の定、花形は教室内をきょろきょろと見渡した後、俺に向かってこう言った。

「…………お前、本当に大丈夫か?」

やっぱり!
やっぱりか、俺以外に見えてないのか、あいつが!!

「う、うわ!どうしよう花形!俺怖い!」

「お前、様子も変だぞ」

「そりゃそうだろ、幽霊なんて見たことねえもん!!お化け屋敷なんて全然怖かねーけど、実際いると思ったらやべーんだよ、何がやべーのかわかんねーけどとにかくやべーんだよ!!」

相も変わらず花形の後ろでボソボソ呟いて。
そ〜っと教室を覗き込むと、バッチリ目があってしまった。

うわわわこっち見んなよマジで!
勘弁してくれよ!!!

「邪悪そうな雰囲気なのか?」

「あ?」

「佐原、いるんだろ?お前にだけ見えてるって事だよな。何か悪霊的な感じはするのか、と聞いてるんだ」

「……お前、俺の言うこと信じるのか?」

「藤真はそういう類いの嘘は嫌いだろう」

「まあ、な」

普通に邪悪とか悪霊とか、そんな事を口にしてきた花形に驚いたが、俺の言う事を信じ、どうにかしてくれようとしての事のようだ。
確かに、このままでは俺は教室に入れないもんな。

佐原から邪悪そうな雰囲気は感じられない。
今のところ、悪さをするような感じでもないし……ただ、目が合ったときは悲しそうな顔で微笑んでいた……そんなイメージ、だな。

それをそのまま花形に伝えると、なら大丈夫じゃないか、と、俺の背中を押した。

やっぱり教室に入るのは気が引けたが、流石にこのままここにいても仕方ないしな。
いざとなったら花形がついてる、という事を頭の中に押し込み、俺は自分の席についた。

って、花形は俺の彼氏か何かか!?
いやいや、でも今はそんなくだらないことを考えている場合じゃねえよな。

人間の心理って不思議なもんで、誰だって、怖いもの見たさについつい見てしまうこともあるだろう。
俺にもその心理は例外なく備わっていて。

佐原の席は、左の一番後ろ。
俺の席は、右の後ろから三番目。

チラ、と、少し振り返って視界の端に彼女を入れてみた。

すると、佐原は肩肘をつき、外の様子をただボーっと眺めているようだった。
こっちを見てなかったことに安堵したのか、俺はそのまま顔を向けて、佐原を見てしまった。

ボーっとしているようで、やはり悲しそうに見える。

……何とも言えない気持ちが込みあがってきてしまった。

あいつ、本当に幽霊なのかな。
だって、しっかり全身あるじゃん。

確かに、周りのクラスメイトは誰もあいつの事見えてない様子だ。
けれど、ちゃんとクラスの一人って感じに、その風景にハマッてんじゃん。

何で、俺にしか見えないんだろう。

言い方を変えれば、何で、俺だけに見えるんだろう。



ガラガラと前の扉が開いて、担任の先生が入ってきたことで俺は前に向き直った。

さっきまでの怖いという気持ちが少し和らぎ、普通に話を聞いていることが出来た。
……が、それも途中までのこと。

「今日はな、みんなに残念なお知らせがあるんだ。先日入院した佐原香弥……だが……昨日の夜な、亡くなったそうだ」




再び、俺の全身に鳥肌が。



ま、マジ……で……?


思わず振り向き、佐原を見た。

相変わらず、自分の席に座っている。
ふと、目が合った。

相変わらず、悲しそうに笑っている。


あ、有り得ねぇだろ……!!

「先生、すんません!!すっげぇ気分悪いので早退します!!」

「あ、おい藤真!!」

担任の止める声も聞かず、俺は鞄を抱え込んで、教室からダッシュで逃げ出した。

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