■ 7:極上に微笑む

「オレと付き合わね?」

そう告げると、あいつの目は面白いくらいに見開いた。


昨日、家に帰ってから色々考えた。
けど、オレのバカな頭じゃ、絞ったところでなんも出てこなくて。

ただ、アイツを守ってやりたい。

その言葉だけが、頭ん中を支配していた。
結局考えすぎて眠れず、完全な寝不足。
そんな状態で朝練に挑んだって、ボロボロだった。
それでも、やっぱり隣りのコートは気になる。
女バレの練習風景を盗み見しつつ、自分の練習を続けていたのだが……アイツがいねえ。

何度目を擦っても、見えないもんは見えない。
やっぱり、アイツ、来てねぇ。

……まあ、昨日あんなことがあったなら仕方ねーのかもしれねーけど……。

アイツは神さんに憧れを抱いてるって言ってた。
けれど、神さんには真砂さんっていう人がいて。

それなら、アイツは誰に守られたらいいんだ?

決まってる。

オレしかいねーじゃんか。
例えアイツが神さんを好きでも、構わねえ。
一人にしたくないんだ。

今頃、沼田が一人で心を痛めてんのかな、なんて思ったら、今すぐにでも迎えに行ってやりたいと思った。




朝練が終了して、神さんから小耳に挟んだことが一つ。

「例の人も、今日は休みらしいよ」

例の人、というのは、沼田にくだらねえこと言ったヤツ。
名前を聞いたけど、覚える気もしねえ。

《嫌なヤツ》

この認識だけで十分だ。

その事を知って、教室へ向かうと、沼田の姿が目に入り。
一応大丈夫な様子に安心し、昼休みになったら神さんから聞いた事を教えてやろうと、沼田を連れ出した。

沼田とオレが揃って教室を出て行くことなんて別段珍しくないことで、一部のヤツらはオレらが付き合ってるとまで思い込んでいるらしい。
ちょっと前に、噂で聞いたことがある。
それなら、その噂を本当にしてやろーじゃねーか。

そう思ったら、

「……なあ、お前さ。オレと付き合わね?」

オレの口から自然と出てきた、その言葉。
沼田が黙ってしまったので、オレはそのまま話を続ける。

「お前さ、神さんの事が好きなのかも知れないけどさ、でも神さんには真砂さんがいるし……だったら、オレがお前を守ってやるから……だから、オレと一緒にいろよ」


言い切った……オレは、言い切ったぞ……!!


緊張に汗が滲むなんて、らしくない。

けれど、止まってくれない汗は、オレの手を湿らせた。

その手に力を入れて、ぎゅっと握る。

「……あたし、神先輩が好きなんて……言ってないんだけど……」

沼田からの第一声は、否定の言葉。

「は!?でも……!」

「憧れ、とは確かに言ったよ?でも、神先輩のことが好きっていうのとは違う。神先輩と真砂先輩がお似合いとも思ってるし」

「そ、そうなのか……?」

オレの勘違いってヤツ?
やべえ、オレ、すっげーダサくね?
好きな女の目の前で、こんなバカな発言しちまうなんて……!

ここはもう、開き直るしかねえ!

「……お前が神さんの事を好きじゃないっつーのはわかった。オレが聞きたいのはそれじゃねえ。オレと付き合うか、付き合わないか、だ」

「……えと、きよ「ノブ」

「え」

「オレと付き合ってもいいって思うなら、そう呼べ!」

オレの精一杯の譲歩だった。

無理、とか、嫌だ、とか、こいつの口から聞きたくないし。
それなら、清田って呼ばれたことでダメだったんだなってわかった方が、まだ落ち込む度合いも低い……はず。
それに、断られたって、オレはこいつを守ってやるって、勝手に決めてるから。

「…………」

「…………」


沈黙が妙に痛い。
何か言えよ、このやろう。

「…………きよ、のぶ?」

一言目が《き》だったことに一瞬ビクつき、全ての言葉を聞いたときには脱力。

「はぁぁぁぁ!?何だよそれ、誰だよ《キヨノブ》って!!」

「え、だって……付き合ってもいいって思うなら、そう呼べって!」

「バカ!清田って言いそうになったお前の台詞を遮っただけだよ!繋げたわけじゃねーよ!!」

こんな時にボケかましてる場合かよ!
人が真面目に告白してるッつー時に……って、ちょっと待て。


「お前、今……」

「うん、あたし、付き合う。ノブと!っていうか、付き合いたい!」

目の前のこいつは、満面の笑み。

今、ハッキリ《ノブ》って言ったよな?

「……今度はボケじゃねーんだろな?」

「こんなことでボケてどうすんのよ!さっきのだって、あたし、ボケたつもりないもん!!」

「マジ……で、か!?…………おおっしゃ!!やったぜ!!」

思わずガッツポーズ。

昼休みの屋上ということもあって、他に人もたくさん居たけれど。
そんな事は気にしねえ!
どうせ他のヤツラにオレ達の会話なんて聞こえてるわけじゃねーし。

それよりも、オレは沼田に付き合うって言ってもらえたことが嬉しくて、子供みたいにはしゃぎたい気持ちだった。

「ちょっ、そ、そんな大きな声で……!!」

「だって嬉しいもんよ、ずっと好きだったんだぜ?お前の事」

「…………!!バカ!!」

心境を素直に言っただけなのに、バカ呼ばわり。

でも、今のオレは頗る機嫌がいい。
だから、何言われたって構わないぜ!

それに、好きって言われて、顔を真っ赤にしている沼田が可愛すぎる。

これで、堂々とコイツのことを守ってやれる。
先輩にいびられようと、コイツが泣いてようと、オレがなんとかしてやれる。

なんたって、オレはこいつの彼氏なんだからな!
彼氏が彼女を守るのは、当たり前なんだからな!


…………そうだ、浮かれている場合じゃねーんだ。


一つ目の難関はこれでクリアしたけれど、問題が片付いたわけじゃねーんだ。
そう思ったら、オレのヒートアップしていた気分は次第に落ち着きを取り戻してきた。

「なんかあったら、すぐにオレを呼べ。絶対、守ってやる。オレがお前を泣かせたヤツを、逆に痛い目見せてやる。」

沼田の頭をくしゃっと撫で、そう告げた。
すると、沼田は照れくさそうに微笑んで。

「痛い目見せるのはダメだよ。でも、嬉しい。ありがと、ノブ」

そう言うもんだから、オレは思わず抱きしめた。

「お、お前はさ……そうやって笑ってるほうがいいよ」

「……うん」

さりげなくオレの背中に回された沼田の手が、熱を帯びている様に感じた。

緊張してるのはオレだけじゃないと思ったら、すっげぇ幸せだと思った。


ちきしょう、マジで好きだ!

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