■ 9:この想いが大切なあの人を守ってくれますように

今日はいつもよりもHRが長引いてしまって、部活に遅れたくなかったオレは、体育館までダッシュした。
ギリギリで間に合ったことに安心し、アイツも間に合ったかな、なんて思いながら隣りのコートに目をやる。

……?
あれ、おかしいな。
アイツ、着替えるの遅いほうじゃねぇはずなんだけど。

何かもたついてんのかな?
間に合わない、なんて焦っている姿を想像したら、なんか笑けてきた。

ああ、オレって、ほんと美加子が好きだ。

…………美加子、か。

美加子、美加子…………美加子。

うん、名前で呼ぶって、親しげで……なんか、すげーイイ。
ちゃんと付き合ってるって、実感できる。

オレの名前を呼んでくれた時も嬉しかったけど、アイツの名前を呼んだ時も、嬉しかった。
オレは美加子の特別だ。

「なーんてな!!かっかっか!!!」

「ノブ、ご機嫌じゃん」

「じ、神さん!!」

やべえ……オレ、変に独り言とか言ってなかっただろーな。
妄想が言葉に出てしまってる、なんて、よくある事だ。
神さんに聞かれてたら、恥ずかしいことこの上ない。

「そんなご機嫌なところ悪いんだけど……、良くないニュース。」

「え、なんすか?」

真面目な顔の神さんに、思わずオレも引き締まる。
だって、神さんからの良くないニュースって、多分美加子に関する事だ。

「今日、例の人を学校で見かけたって、が言ってた」

「!それ、マジっすか?」

「ああ、しかも、様子が普通じゃなかったって。目つきが明らかにおかしかったって言ってたよ」

そう聞いた瞬間、オレは再度隣のコートに目をやった。

……アイツ、まだ来てねえのかよ……!!

嫌な予感が胸を過ぎる。
まさにこれから部活が始まろうとしていたところだったが、それどころじゃねえ……!!

「神さん!嫌な予感がします!もしオレが戻って来なかったら、警察呼んでください!!」

「あっ、信長!?」

神さんの引き止める声を聞かず、オレは体育館を飛び出した。
警察なんて、大げさかもしれねー。
けれど、万が一アイツに何かあったら、オレは……!!

頼む、どうか何事もあってくれるな……!!


そう祈りながら、部室棟に向かって走った。
女バレの部室の前に到着すると、ドアは開きっぱなし。

そんでもって、アイツのタオルと思われるものが、入口付近に落ちている。
瞬間、オレの体から血の気が引いた音がした。


……美加子!!!!!


何処に行きやがった!
何処へ連れていきやがった!!

体育館まではそんなに距離がないから、大丈夫だろうと思ってたオレが馬鹿だった、どんなに短い距離でも、アイツを一人にするべきではなかった……!!

体育館と部室棟の間にはいなかったっぽいし、そうなると校舎か……!?

手当たり次第に走って。
そして、かすかに聞こえてきた、女の高笑い。

本能で、声の方向に切り返し、全速力でその場所を目指した。


確かにこっちから聞こえてきたハズ……っ!!

いた!!

「美加子!!」

女が美加子に向けてナイフを振り下ろしたと同時に、オレは叫んだ。
すると、女の手はピタリと止まって。

〜〜〜〜〜〜あっぶね!!
ギリギリじゃねえか……!!
何てことしてやがんだ、この女!!

「あれぇ、清田くんじゃぁん……なんだぁ、アタシに会いに来てくれたのぉ?こんな女よりアタシの方がいいんだよねぇ、そうだよねぇ」

ゆらりとオレの方を振り返りながら、狂ったように呟く女。
何言ってんだ……意味わかんねえ。
マジで、普通じゃねぇ。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ、テメーなんか知るもんか」

「……っふふ……あはは、あはははは!!それならアンタも死ねばいい!!」

そう叫んで、女はオレに向かって走ってきた。
当然、右手のナイフは持ったまま。

この状況、やべーんじゃねーか!?

どうする、逃げるか?!
けど、ここでオレが逃げたら美加子が……!!

避けようと、一歩踏み出した瞬間、女のすぐ後ろに、美加子の姿が目に入った。

「やめて……!」

「っ!?何すんのよ!!」

「っあ!!」

「美加子!!!」

女が振りかざした右手を、美加子が両手で必死に掴んだ。
しかし、それは女によって振りほどかれ、その反動でナイフが美加子の腕を掠めた。

女が一瞬怯んだ隙に、オレは美加子の手を掴み、走り出した。
美加子の手が痛々しく視界に入ってきたけれど、今は逃げないと!
狂ったようなあの女は、オレ達の手に負えねえ……!!

だから、人がいる体育館に行けば、きっとなんとかなる……!!

美加子の手を離さず、ただひたすらに体育館を目指して走った。

後ろを振り向く余裕なんてなかった。
繋いだ手だけは絶対に離すもんか、と、力を込めて。

そして、オレ達は体育館へ到着し、周囲に目もくれず、二人で思い切り飛び込んだ。

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