■ 2:知らぬが仏

中学に入学したときに誘われたバレーボール。
なんとなしに続けていたけれど、意外にもそれは私に合っていたようだ。
私たちの代では最高でも県内ベスト4。
強いのかそうでないのかよくわからない位置にいたのだが、私の通っている高校……海南大付属の監督に目を掛けてもらったらしく、推薦をもらえることになった。
本当は高校ではスポーツをやめて普通に過ごしたいな〜なんて思っていたんだけど。
先生の押しも強く、結局そのままバレーを続けるハメになってしまった。

体を動かすのは嫌いじゃなかったし、何より中学二年からずっとレギュラーでいることが出来たから私も高校でも続けてみようかなっていう気にもなったんだけど。

しかし中学と高校は違うもので、さすがに高校生ともなると厳しかった。
推薦入学が決まっていた私は、入学前の春休みの合宿とかも強制参加で既に逃げ出したい気持ちが湧き上がっていた。

そうして辛い練習に耐えた春休みの後、気分の浮かれていた私に彼氏ができ……そして、すぐに破局となった。


それが、一年前の話。


「ありがとうございましたっ!」
「「「「「ありがとうございましたっ!!!」」」」」

部長の挨拶の後、みんなで一斉に頭を下げる。
これが部活終了のいつもの合図。

顔を上げ、部室へと戻るみんなに混じって私も部室へと向かう。
隣のコートでは男子バスケ部が未だ練習を続けていた。
そのコートを極力見ないようにして足早にその場を去る。

「いやー、今日も疲れたねぇ!しっかし……うちらも結構遅い方だと思うんだけど、男バスもよくやるよね。さすが県内トップクラス!」

「そうだねー、もうへとへとだよね。でも、男女の体力の差って違うしさ!」

「あはは、それもそうか!まあ、うちらはさっさと帰りますかー」

隣を歩くのは入学当初からの親友の佳苗。
佳苗も推薦入学で入ってきて、入学前の合宿から一緒に頑張っている。

そのおかげか、今の二年のレギュラーは私と佳苗の二人。
佳苗はセッターで私はレフトアタッカー。

気が合う彼女とはコートの中でもかなり合う。
だから、先輩からは『二人揃うと最強だね』なんて言われてたりもする。


部室で着替えた後、私達はいつも学校近くの駄菓子屋に寄って帰るのがお決まりのパターン。
学校の近く、というより目の前にあるので、昼休みなんかもたまに買いに来たりしている。

「今日はなんにしよーかなー」

「私いつものスイカバー!」

「またぁ?真砂、あんたほんとにスイカバー好きだねぇ」

「ハマると続いちゃうんだよね、同じものが」

佳苗は未だに決めかねているようで私は先に会計に向かった。

その時、ざわざわと聞こえてきた声。
その方向を見れば、男バスの数人がこちらに向かって歩いてきていた。
無意識に体が反応してしまい、すぐに目を目を逸らしたんだけど。

いくつか聞こえる中、聞き覚えのある声がする。
やばい、すっごい気まずい……

男バスもこの駄菓子屋をよく利用するのは知ってた。
だから絶対に鉢合わないようにタイミングを見計らっていたのに。

「ごめん、真砂!決まった!会計してくるから、ちょっと待ってて!」

「あ、うん」


ドンッ

一瞬佳苗の方に目をやると、余所見をしていたらしい男バスの一人とぶつかった。

「ってーな、どこ見てやがる!」

「え、あ、ごめんなさい」

元気が有り余っているような人。
そして、その後ろには。

「コラ、信長。お前がぶつかったんだろ?」

「えぇ!?この女がボーっとしてるから……!」

「この女じゃないだろ、先輩に向かって」

「は、年上なんすか!?このおん……人」

「そうだよ、オレと同じ、二年生」

私をスルーしてのやりとりをぽかんと見ていたら。

「ああ、ほら、彼女びっくりしてるじゃないか。ごめんね、注意しておくから」

「……すんませんっした」

「あ、いや、えと……」

「真砂!おまちどー!って、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ、じゃあ帰ろっか!」

「じゃあ、さよなら」

「あ、うん、またね、神くん」

そそくさと駄菓子屋を出てきた私たち。
明らかに不自然だろう、と自分にツッコミを入れたくなった。

「ごめんね、あたしがのんびり選んでたからだね」

神くんは私の元彼。
高校入学当初に付き合っていた人。

「佳苗のせいじゃないよー、ああ、びっくりした!今日はまだ練習してたから、絶対会わないと思ってたのに……はあ、あの一年のせいで話すハメになっちゃったし」

「まあまあ、そう言うなよー!嫌いってわけじゃないんでしょ?」

「別に嫌いじゃないけどさー……」

「はいはい、不器用なんだから、真砂は」

「ぬぅ……」



佳苗は私と神くんの事を知ってる。
だから、いつも私に合わせてくれて気を使ってくれる。
そんな彼女に申し訳ないと思いつつも、甘えてしまっているのが現状。

そして、そんな彼女は私の事を良く理解してくれていると思う。

たとえばさっきの『不器用なんだから』という発言。

佳苗の言うとおり、神くんの事は嫌いじゃない。
彼を好きになったきっかけが『かっこいい』だったから、最低かもしれないけど顔は好みなわけで。

もし、ちゃんと友達から始まって、仲良くなってから告白したのなら……私達の関係はもっといいものになっていたのかもしれない。
だけど今更何を言おうと結局はダメだったわけだから、どうしようもないんだけど。

要するに、嫌いじゃないけど会っても何を話していいかわからないし、気まずいのもイヤだから自然と避けてしまっている状況。




駄菓子屋から出た私は、神くんが私の事を目で追っていたなんてこれっぽっちも知ることはなかった。

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