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食事を終え、片付けはアルミンが名乗り出てくれたので任せることにした。
あとは風呂に入って寝るだけだ。
ちなみに、お風呂のお湯は既にナナバが用意しておいた。
替えの洋服は風呂場に置いてあったみたいで、全員に配布された。
こんな細かいところまで気を配ってあるなんて、ゼノフォンは一体何がしたかったんだ。
誰もがそんな疑問を浮かべたが、考えた所でもう本人は姿を現すかどうかもわからない。
呪いの箱の中にいるという感覚が薄れる瞬間が多々あって、緊張感が続かないのが難点だ。

「エイル、とりあえず先に入って来いよ」
「え、私は最後で大丈夫だよ」
「男の浸かった風呂に入るなんざ、嫌じゃねえのか。いいからさっさと入ってそのすすだらけの顔をなんとかしろ」
「……はい、わかりました」

整備の仕事をしたままの状態だったので、エイルの顔は相変わらずすす汚れたままだった。
気を使ってもらって申し訳ないと思ったエイルだが、お言葉に甘えて一番風呂を頂く事にした。

彼女が風呂に入ってる間に順番争奪戦が行われた事は、知る由もなく。

シャワーで汚れを洗い流し、身体の隅から隅まで丁寧に洗う。
まっさらで綺麗な湯船は、一日の疲れが癒されるくらいに気持ちよかった。
うっかりしていたらそのまま湯船で眠ってしまいそうだ。
だが、いつまでも他の人たちに待たせるわけにもいかないので、エイルはいつもより短めに風呂を出た。


「お先に頂きました、有難うございます」

風呂上りと言えば、濡れた髪に艶っぽい肌。そして石鹸のいい香り。
そんなエイルの姿を見た男達全員の動きが、一瞬止まった。
ジャンに至ってはマジで女だ、しかもか、かわ……!と、心の中でまでちゃんと言葉に出来ていないというヘタレ具合。

「いいお湯だった?」

そんな中、いち早く我を取り戻したのはナナバだった。
リヴァイは当然の如く平然を装っているが、内心ではまだエイルに見とれていた。

「はい、とっても気持ちよかったです!」
「そう、それは良かった。さ、次はエレンだったよね。後が支えるから早く入って」
「はっ、はい!」

雰囲気こそ優しいものの、エレンを見るナナバの目は笑ってはいなかった。
差し詰めエイルの次に風呂に入るなんて羨ましいんだよコンチクショウといったところだろうか。
順番争奪戦に見事勝利したエレンだったが、嬉しい筈なのに素直に喜べなかった。
しかし勝ちは勝ちだ。
リヴァイの視線にも堪えて、風呂へと向かった。




全員が風呂を出た頃には、残り時間が5時間となっていた。

「さて。後は寝るだけだが……ここで問題がひとつ浮上した」
「え、何かあったんですか?」
「ベッドがね、三つしか用意されてなかったんだよね」
「「「「…………」」」」

リヴァイの補足をするように、ナナバの口から信じられない言葉が聞こえた。
現在この場にいるのは六人。
当然、ベッドが三つでは足りない。

「ということは、半分は床で寝なきゃいけないって事……すかね」
「それがさー、ベッド以外に布団もないし布団代わりになるようなものもないわけだ」
「ハァ!?それじゃ、眠れねえって事ですか!」
「違う、睡眠はちゃんと取れっつっただろうが」

二度も言わせるな、と、リヴァイの睨みにジャンは肩を竦ませた。

「では、二人でひとつのベッドを使うしかない……、ですね」
「その通りだアルミン」
「っていうか、エイルはどうするんですか、女一人で…………まさか、それも一緒に!?」

顔を赤らめながら言うエレンに、リヴァイは頷いた。
そうするしかないのだという意味を込めて。
エイルはどうしよう、と困っていたが、こんな所で我侭を言えるわけもなく。

「ムサイ男と一緒に寝るなんてゴメンだぜ!エイル、オレと一緒に寝よう」
「その言い方……なんか、卑猥だよジャン」
「なっ、ばっ、馬鹿アルミン!!卑猥な言い方なんかしてねえ!!」
「ジャンは危ない、私と一緒に寝よう」
「ナナバさん抜け駆けズルイっす!」
「もう順番でいいじゃねえか」
「え!?兵長ももしかして一緒に寝たいんですか?!」
「で、エイル、お前は誰と一緒に寝るんだ」
「え!?」

最早誰が何を喋っているのかごちゃごちゃだ。
しかもリヴァイは最後のエレンの質問を華麗にスルーした。
あくまでも胸中を悟られないようにしているつもりらしい。

突然話を振られ、更に困惑するエイル。
しかも全員が自分に注目してるということもあり、とても口を開き辛い状況だ。

「えと、その……」

エイルが一番懐いているのはナナバ。
兄のように慕っているのであれば、彼を選ぶのは妥当かもしれない。
一人ひとりの顔を見渡してみると、リヴァイは至って無表情だし、ナナバは笑顔だし、アルミンはちょっと恥ずかしそうで、エレンは顔が真っ赤で、ジャンなんか鼻血でも出そうなくらいエレン以上に顔が真っ赤だ。
やはりナナバかアルミンあたりを選ばせて貰った方が良さそうな気がする。

考えを纏めた所でそう発言しようとすれば、それよりも先にリヴァイが口を開いた。

「決められねえならくじ引きでどうだ」

手には何時の間に作られたのか、5本の紙が握られている。
だが、くじ引きで決まったことなら文句も言えないと思い、リヴァイの意見に賛同する事にした。

「じゃあお前ら、早く引け」

ズイ、と差し出されるくじを、それぞれ一本ずつ引いていく。

「オレ、2」
「僕は1だ」
「えーと、私は4だね」
「オレは3です」
「……となると、俺が5だな」

紙の先に書いてあったのは、数字だった。
1番アルミン、2番がエレン、3番ジャン、4番ナナバ、5番がリヴァイだ。

「この数字って、なんの意味があるんですか?」

アルミンがリヴァイに問いかけた。
他の誰もが同じ事を質問したかったようで、みんなの視線がリヴァイに集まる。

「これは順番だ。今日はアルミン、お前が一緒にエイルと寝ろ」
「順番!?ってことは、オレにもまわってくるってことですよね!?」
「ジャン……お前はほんとうるせえな。だからそうだと言ってるだろう。一応公平を期したつもりだが文句でもあるのか」
「いえいえ滅相もありません!」
「エイルを独り占めっていうのもズルい話だもんな。リヴァイの案にしちゃまともじゃないか」
「ナナバ、喧嘩売ってんのか」
「いえいえ滅相もない」

ジャンを真似たナナバだったが、ジャンよりもはるかに余裕が見えていた。

「で、エイルはそれでいいの……?」

恐る恐るといった風にアルミンが聞けば、エイルは諦めたように頷いた。
自分と一緒に寝る事の何が楽しいんだ、とも思ったが、男同士で寝るよりはマシなのかな、と自分に言い聞かせた。

「あれ、でもこれだと5ターン目の後は誰になるんですか?」
「よくぞ気づいたエレン。それはエイルに選ばせようと思っている」
「あ、なるほど……わかりました」

という事は、最大で二回、エイルと一緒のベッドで寝るチャンスが回ってくるというわけだ。
これは一度目のチャンスで絶対に気に入られたい……!!
と、男達は密かなる闘志を燃やすのであった。

その闘志を巨人にぶつければいいのに、無駄な方向に行ったものである。




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