5

エイルは意外にも順調に役割を果たしていた。
腕時計は残り9時間となっている。
つい先程4つ目の刃を見つけたところで、時間ギリギリまで他にも無いか探そうとしているところだった。

「おっ!エイル!」
「エレン!」

目の前を横切ろうとしたエレンがエイルに気づき、方向を変えた。
エイルも地面へと降り立ち、エレンに向かって走る。

「どうだ?刃は見つかってるか……って、スゲェじゃん。もう4つ集めたのか」
「うん、昔から運だけは良いみたい」
「そうなのか、羨ましいな」
「そういうエレンの方が私より集まってるじゃない。あとひとつ?」
「ああ、とりあえずはな。時間が余ればもちろん余分に探そうとは思ってるけど……ってか普段から訓練してるオレ達がエイルより少なかったらカッコつかないだろ。エイルもまだ探索するんだろ?」
「そのつもり。本拠地に戻るにはまだ早いかなって」
「まあ、最初から飛ばして無理はすんなよ」

言いながらエレンはエイルの頭をくしゃりと撫で、元々行こうとしていた方向へと走って行った。
頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど、子供扱いされてるみたいでなんだか悔しいな。
エイルはそう思いながら、エレンとは反対方向へと向かう。
実際子ども扱いというよりは、気になる異性に対するアクションだという事には気づかずに。



それから20分後、5つ目の刃を手に入れたエイルはそろそろ本拠地に帰ってみる事にした。
もしかしたら誰か帰ってきてるかもしれない。

しかし、立体起動装置のガスが無限に使えるというのは本当に有難い事だった。
ガス切れで行動不能になる心配がない安心感は絶大だ。
壊したら自動的には直らないと書いてあったが、整備士であるエイルなら直す事など大変な問題ではない。
それ以前に壊れなければいい話なのだが、巨人と戦うには少なくとも多少の破損は覚悟の上だろう。
実際、調査兵団が壁外調査から帰宅した直後は修理依頼がわんさか来るのだ。

本拠地付近まで戻ってくると、丁度同じタイミングで帰ってきたナナバと出会った。

「ナナバさん、お疲れ様です!」
「ああ、お疲れエイル。その様子だと順当ってとこかな?」
「はい!5枚集めました!」
「よしよし、偉い偉い」

エレンが撫でる手つきとは違い、ナナバのそれは優しい。
エイルは常日頃からナナバの事を頼れるお兄さん的な存在だと思っていた。
調査兵団の年上の中で、一番懐いていると言っても過言ではない。
それだけナナバに対する信頼度は高かった。リヴァイやハンジが密かに羨むくらいには。

「ナナバさんは全部集まったんですね、流石です」
「うん、意外と簡単なところにあったりしたからね。私が出来るくらいだから、きっとリヴァイも全部集めてるんじゃないかな」
「エレンも途中で会いましたけど、あと一枚だったのでもう集まってるんじゃないかな……リヴァイさんはほんと凄いっていう噂ですもんね。実際巨人と対面する所を見てみたい気もしますけど……」
「何言ってるのさ、これから嫌でも見る事になるだろ?」

そうだった。
今は準備段階だが、この後は巨人との戦いが待っているのだった。
それを思い出したエイルは顔を青くさせた。

「そういえば……そうですよね。ああー、私、足を引っ張る自信しかない……!」

そんなエイルの様子を見て、ナナバは柔らかく微笑んだ。

「だから、危なくても私が守ってあげるって言っただろう。忘れた?」
「い、いえ。忘れたわけでは……」

ないんですけど、と続けようとした言葉は、恥ずかしさからか尻すぼみになってしまった。
誰だって、守ってあげるなんて言われたら恥ずかしいに決まってる。
エイルは恥ずかしい気持ちを誤魔化すように頭をぶんぶんと振った。
それを見てなんて可愛い子なんだろう、と思ったナナバが再び笑った事は下を向いているエイルにはわからなかった。

「ま、そんな心配しなくても大丈夫だよ。きっと、皆でこの箱から脱出できるさ」
「……はい、有難うございます」
「で、話は変わるんだけど。エイルって料理は出来たりするのかな?」
「料理、ですか?できると言えばできますけど……大したものは作れませんよ」
「いや、出来るんなら十分だ。リヴァイは食事と睡眠の時間、って言ってたけど、その食事って自分達で作らなきゃならないだろ?」

エイルは巻物に書かれていた文章を思い出した。

『食事の材料は無限にあるし、お風呂も設置しておいたので好きに過ごしてください。』

材料という事は、その材料を使って誰かが料理をしなければならないのだ。
だとすれば必然的に女性である自分に回ってくるのは考えられる事。
エイルは、諦めたように肯定の返事をした。

「……私がやるしかないですよね。食器洗いとかは当番制にしてもらおう」
「そのくらいなら皆喜んで手伝うだろうね。他にも出来ることがあれば言ってくれたら嬉しいな」
「じゃあ、その時助けて欲しい事があったらお願いする事にしますね」
「ああ、遠慮なくどうぞ」

二人は話しながら本拠地の中へと入った。
エイルは言われたとおり、食事の準備に取り掛かる。
ナナバには野菜を洗ってもらったりしながら作っていると、アルミンとエレンが帰ってきた。
それから程無くしてジャンも。
最後に残り7時間となったところでリヴァイが帰還し、これで再び全員が揃った。

「なんだ、随分良いニオイさせてんじゃねえか」
「リヴァイさん、お帰りなさい!今丁度食事が出来上がったとこです」
「エイル、お前が作ったのか?」
「はい!ナナバさんや他のみんなにも盛り付けとか手伝ってもらいましたけど」

ニコニコと微笑みながら出迎えるエイルを見て、こいつと結婚すればこんな毎日が続くのか、と思ったリヴァイは、ニヤけそうになるのを堪えるのに必死だった。
もちろん、傍から見ればそんな事を考えてる等とは誰も思わない。

「では、冷める前に食事にするとしよう。手を洗ってくる。おい、テメェ等はきちんと洗ったのか」

突然話を振られたエレン、アルミン、ジャンの三人は肩をビクリと震わせた。
きちんと手を洗っていたアルミンはYESと答え、それ以外の二人は慌てて洗面所へと駆け込む。
当然ながらエイルと男共ではリヴァイの態度は違う。
だが、誰もそんなリヴァイに対して文句など言えるはずがなかった。
何故なら相手は人類最強、文句のひとつでも言えば肉を削がれること間違いなしだ。


全員が綺麗に手を洗ったところで、適当に席に着く。
今回の献立はシチューだ。
材料をざっくり切って煮込んだだけだが、それでも美味しそうな匂いは空腹を刺激した。

「どうぞ、召し上がってください」

エイルがそう言うと、それぞれ『いただきます』と言ってからシチューを口にする。

「うま!これ普通に美味いな!」
「エイルって料理上手なんだね」
「美味いと言えなくもない」
「エイル、私の嫁に来る?」
「おいナナバ、エイルは俺の嫁になる予定だ。手を出すんじゃねえ」
「「「「ブッ!」」」」

ナナバとリヴァイの発言にはそれ以外の全員が思わずシチューを吹き出した。
ちなみに、ツンデレっぽい台詞はジャンのものだ。

「冗談はやめてくださいよ、からかわないでください」

顔を真っ赤にしたエイルがそう言うと、二人は満足したのか顔を見合わせながらニヤリと笑った。
本心は決して冗談ではないのだけれども、真っ赤なエイルが可哀想になってきたので、止めた。

「ごめんごめん、エイルの料理があまりにも美味しくてつい」
「毎日食っても飽きねえと言う意味だ。理解したか?」
「あ、そういう事ですか……ほんとにビックリしました。でも美味しいって言ってもらえるのは嬉しいです」

勘違いだったのねとニッコリ笑うエイルに対し、104期生三名は絶対冗談に聞こえない、と、無言を貫き通した。

それにしてもリヴァイと対等に張り合えるナナバ……さすが、ツワモノである。




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