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「まあ、この内容が全て本当の事だとしたら、私達が最初にやらなきゃいけないのは立体起動装置を装備する事かな?」

エイルから巻物を借りたナナバが再度内容に目を通しながら言う。
ジャンは顔を赤くしたまま肩を震わせていたが、その件に関しては最早放置だ。
いつまでも構っていたら話が進まない。

「立体起動装置は何処にある?」
「あ、もしかしてエレンの後ろにある大きな箱ですかね」

リヴァイとアルミンが部屋を見渡すと、エレンの後ろに大きな箱が置かれている事に気づいた。

「これか?」

後ろを向き、箱を開けるエレン。
蓋を取り除けばそこには予想通りに立体起動装置が人数分収められていた。
早速その内のひとつを手にとってみれば、その瞬間に立体起動装置の側面に文字が浮かび上がる。
それはエレンからは見えていないようだったので、エイルが声を掛けた。

「エレン、そこ、何か文字が書いてある」
「ん?」

言われてその場所を見れば、そこには『火』の文字が。

「立体起動装置には属性があるとか言ってたな……つまりエレンの属性はたった今、火になったってことか」

一人納得をしながら、リヴァイもエレンに続いて装置に触れた。
今度は『金』の文字が浮かび上がった。

「なにそれ、ちょっと面白いな」
「僕の属性はなんだろう」
「ちょ、お前ら楽しんでる場合じゃ……!ああ、もう!オレの属性は何だよ!!」

次いで手を伸ばすナナバ、アルミンの様子を見ながら言ってる事が支離滅裂なジャン。
しかもアルミンだけならまだしも、ナナバに対してもの言葉なのにも関らず敬語が抜けてしまっている。
エイルはそんなジャンの姿に「女でごめんね。でも不憫な人だ」等と思っていた。

ナナバの属性は『水』。アルミンは『木』。ジャンは『土』と、それぞれ浮かび上がった文字を確認していた。
残るはエイルだけだ。
最後の立体起動装置に手を伸ばしながら、エイルの頭の中にはひとつの疑問が浮かんでいた。

確か、属性は陰陽五行を参考にしたと書いてあったはず。
それならば、属性の種類は五個しかないのでは?

そう思いながら触れてみると、案の定エイルが持つ装置には何の文字も浮かび上がってこなかった。

「これは一体どういうこった」

その様子を見ていたリヴァイが呟く。

「なんだ、エイルの装置には何の文字も出てないじゃん。ハズレとかあるのか?」
「でもゲーム自体は6ターンって書いてあったんだし……何か意味はあるんじゃないのかな。それって普通に使えそうかい?」

エレンとアルミンが、エイルの持っている装置に触れながら言う。

「んー、見た感じは普通に使えそうだけど……試してみない事にはなんとも言えないかも」

その言葉に、再びジャンが反応する。

「え、もしかしてお前立体起動装置も使えんのか?!」
「使えるって言っても、どんな具合か試す程度だよ。自分で整備や改良したものを他の人に試させて怪我されても困るし……」
「……まさかの連続すぎてもう頭が痛ぇ」
「安心しろ、これ以上馬鹿になることはねぇよ」
「リ、リヴァイ兵長酷いっすよ……!」

リヴァイの言葉にジャン以外の全員が確かに、と頷きながら笑った。

「とりあえず今は準備時間という事らしいから、外に出ても巨人はいないんでしょ?試してみたらいいんじゃないかな」

ナナバはエイルの背中を軽く押し、外へ出ようと促した。

「そうですね。刃も探しに行かなきゃいけないし……使えないことにはただの役立たずになっちゃいますから」
「でも、エイルは巨人と戦った経験はないだろ?だったらここ……本拠地で留守番してた方がいいんじゃないのか」
「忘れたのかエレン。エイルがそのターン内で必要な属性だったらどうする。装置に何も浮かび上がらない以上、正確なことはわからんが……あのゼノフォンとかいう野郎……謎を残していきやがって」
「あ、そうか……そうですよね。今は文字がなくとも、エイルの装置にだって何らかの属性があるのかもしれないですよね」

要は、自分が彼女を守ってあげればいい話だ。
誰もがそう思いながら、男達は全員一斉にエイルを見た。

「エイル、オレ、精一杯サポートするからな!」
「僕も、できる限りの事をするよ!」
「ちゃんと守ってあげるから、私よりも前に出たりするんじゃないよ?」
「お前は俺の後ろに居れば心配ない」
「女と解った以上、オレだって面倒みてやるかんな!」

先程まで動揺していたはずのジャンは、すっかり立ち直ったようである。
割り切ってしまえば問題ない!
自分でそう言い聞かせて、エイルに対する見解を改めたのだ。

「あ、ありがとうございます……私も足を引っ張らないように頑張ります」

男達の剣幕に少し怖気づいたエイルだったが、彼らが一緒に居るならそんなに心配することもないかな、と軽く考えていた。

立体起動装置が入っていた箱には、人数分の腕時計も用意してあった。
腕時計といっても時間を表示するものではなく、残り時間を表すもの。
既に時計の数字は11:30となっていた。
あと11時間半後にはゲームが開始されるという意味だ。
それぞれの腕に嵌めれば、いよいよ準備完了である。

「いいかお前ら、良く聞け。最悪準備時間に全部の刃が見つからなくても、巨人との戦闘中に見つかるかもしれない。だから今回はそれぞれ4枚見つけることを目標とする。最低でもターン開始6時間前までには本拠地へと帰還すること。疲れが取れずに巨人を倒せませんでした、なんてことにならないように、ちゃんと食事と睡眠を取れるようにするためだ。わかったか」
「「「「「了解!」」」」」
「では、各自分散して刃を探しに行くぞ!」
「「「「「はい!」」」」」

リヴァイの言葉に、全員が引き締まった返事をする。
その空間から外へと出てみればそこにはシガンシナ区と同じ風景が広がっていた。
立体起動装置を利用し、全員で屋根へと上がった。
普段ならば賑わっているはずの町の様子は、とても静かだ。

「なんか、不思議な感じだね。ここはシガンシナ区のようでも実際には別の空間で……しかも、私達しか居ないんだよね」
「そう……ですね。ちょっと不気味です」
「こんなくだらねえゲームはさっさと終わらせて、早く箱から出るぞ」
「はい、頑張りましょう!」

エイルの両脇からナナバとリヴァイがアンカーを打ち出し、飛び出していった。
それに続くようにエレンとジャンとアルミンも、それぞれ顔を見合わせた直後にアンカーを打ち出す。
同じ場所を探索しても時間が勿体無いだけなので、誰もいない所を目指しながらどんどん本拠地から遠ざかっていく。
エイルも、戦闘に関してはどうなるかわからないけど準備時間だけは絶対役に立てるはず、と意気込みながらアンカーを打ち出した。

立体起動装置をただ使うだけならば得意であるエイルは、他の精鋭達にも負けず劣らずのスピードでぐんぐん進んでいく。
早すぎても見つからないと思ったので、次第に速度を緩めた。

この空間は、どのくらいの広さなのだろうか。
壁の位置からすれば、実際のシガンシナ区よりは小さく思えた。
刃の置いてある場所にヒントなどは無く。
万が一シガンシナ区と同じ広さであるならば、薄っぺらい刃を探し出すのは困難ではないのか。
そう思っていた矢先、左斜め前の民家にキラリと光るものが見えた。
すかさず目標を変更し、その民家に向かってアンカーを打ち込む。
トリガーを引き、体勢を整えながら着地したエイルは駆け足で民家へと入っていった。

そして光ったであろう場所を探すと、机の上に堂々と剥き出しの刃が置かれていた。

「これは……なんというか、もっと丁寧に置いといて欲しいっていうか……」

思わず一人ごちたが、ここにはエイル以外誰も居ないので反応は返ってこない。
他の刃もこんな風に適当に置いてあるんだろうか。
ゼノフォンの性格が掴めない……。
溜息を吐いたエイルは、机の上の刃を手に取り自分の装置に補充する。
それから次の刃を探すために再び外へと飛び出した。




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