番外編4


※これは箱に入る少し前のお話です




「あ、アルミン!こんにちは」
「エイル、来てたんだ?こんにちは」

昼食を終えたアルミンが兵団宿舎に戻ってきた時、正面からエイルが歩いてきているのに気づいた。
そんな彼女がアルミンに気づき、小走りで近寄ってくれたのである。
自分よりも身長が低いエイルはまるで小動物のように可愛くて、年上だとわかっていても思わず頭を撫でたくなってしまう程だ。

「今日はどんな用事で?」

工具箱を抱えていることから、仕事で来ているには間違いないのだろう。

「今日はね、リヴァイ班の装備品を見てほしいって呼ばれたの。で、エレンを探してるんだけど……どこに居るか知ってる?」
「エレンならさっきまで一緒に居たけど……まだ食堂の方にいるかもしれないな」
「ほんと?じゃあちょっと行ってみるね、有難う!」
「どういたしまして。もし見つからなかったらまた僕に声かけてくれれば一緒に探すよ」
「重ね重ね有難うアルミン。じゃあ、またね!」
「うん、頑張ってね」

エイルと手を振って別れ、少しすると「アルミン」と呼ばれた。
振り返るとそこには声の主であるエレンが。

「あれ?エレン、エイルとすれ違わなかった?」
「エイル?いや、会ってないけど。来てるのか?」
「なんでもリヴァイ班の装備品を見るように頼まれてたらしいけど」
「あっ……!そうか、そういえば言ってたっけ……ヤベェ、忘れてた」
「食堂の方にいるんじゃない?って言ったから、そっちに行ったと思う。僕も一緒に行くよ」
「ああ、悪い」

こうして二人でエイルを探しに食堂へと行ったのだが、時既に遅く、彼女の姿はどこにも見当たらない。
きっと食堂でエレンの所在を確認して再びどこかへ探しに行ってしまったのだろう。

「もうこれはここでじっとしていたほうがいいかもしれないね。こうやって行き違う日は移動すればするだけ出会えないような気がする」
「ああ……そうだな。後でエイルに謝んなきゃ」
「ふふっ」
「?何笑ってんだよ、アルミン」

アルミンは先程のことを思い出していた。
駆け寄って来た時も小動物みたいで可愛いけど、きっとエレンに謝られても可愛い素振りで許すんだろうな、と思うと思わず笑ってしまったのだ。

「いや、エイルって可愛いよねって思って」
「うん?」
「エレンもまんざらでもないでしょ」
「え、や、まあ……そりゃあ、オレも可愛いとは思うけど」
「あんなに可愛いのにさ、男だと思ってる人もいるっていうのが不思議じゃない?」
「うーん……そうだな。確かに帽子とか深くかぶってるから少年のように見えなくもない……けど、でも可愛い顔してんのにな」

考え込むエレンの顔は、真面目そのものだ。
こんなに真面目に話さなくてもいいのにな、と思いつつ、アルミンはそんなエレンに対しても少し笑ってしまいそうになった。

「顔だけじゃなくてもさ、行動とか見てるとかまいたくなっちゃうんだよね」
「年上って感じはゼロだよな」
「……うん、申し訳ないけど僕もそう思う」

アルミンも幼く見える方だが、そんなアルミンよりも幼く見えてしまうあたり、どう考えても年上には見えない。
ここにエイルが居たら怒りそうだな、とエレンは思った。

「そういえばこないださ、オレ見ちゃったんだよ。エイルが転んだとこ」
「転んだ?」
「帰ろうとした時に、派手に躓いて工具ばら撒いてた」
「ぶっ……!」

想像したら物凄く可笑しい。
普段はしっかりしてるように見えるし、機械を弄ってる時なんかは知的そのものなのに。
ひとたび仕事から離れると、ちょっと抜けてる部分があるから余計に可愛い。
だがしっかりしてるだけのパーフェクト人間なんてつまらないし、そのほうがよっぽど人間味があっていいと、アルミンは思った。

「それで、エレンは手伝ってあげたの?」
「いや、それがさ、オレが手伝う間もなく近くに居た奴らが手出ししてて」
「入るに入れなかったわけだ」
「ああ、そんな感じ」
「エイルは色んな人から好かれてるからなあ」
「ああ……そうだな。人を惹きつける何かがあんのかもな」
「へえ、エレンからそういう言葉が出てくるなんて」
「アルミン……オレの事バカにしてんのか?」
「そうじゃなくて。なんか意外だったってだけ」

普段二人で異性に関する話などは滅多にすることもない。
それこそエイルに関することが専らの話題だ。
そりゃあミカサとか、サシャとかアニとか104期生の中には女性もたくさんいるけれど、彼女達は仲間であって、そういう浮ついたことを考える対象ではなかった。

そこへ現れたのが整備士のエイル。
自分達と置かれている立場が違うから惹かれる、っていうのもあるのかもしれない。

「アルミンはエイルの事が好きなのか?」
「え?うん、好きだよ」
「っ!?」

ストレートに返ってくると思ってなかったのか、エレンは逆に吃驚した。

「恋愛としてのそれかはまだわからないけど、少なくとも一番一緒に居て楽しいって思える女の子だなとは思うよ」
「まだって……まあ、そうか。そういうことならオレも似たようなもんだな、きっと」

そんな彼らも、これから呪いの箱事件に巻き込まれるなど未来のことが予想できるはずもなく、当然ながら後々今以上に彼女に惹かれていくということは知る由も無い。
なんとなくもやもやっとした感情が心の中にぽつんと置かれている状況だった。

呪いの箱事件が起きなければ、彼らの気持ちがどこまで育っていたかは謎である。

「あ!エレン!!ようやく見つけたー!」
「「エイル!」」

二人して無言になった瞬間、食堂の入り口から元気な声が聞こえた。
肩で息をしながらエレンをビシィ!と指差すエイル。
そんな彼女に二人は駆け寄った。

「ごめんねエイル、行き違いになっちゃってたみたい」
「探してもらって悪かったな。時間大丈夫か?」
「アルミンもエレンもちっとも悪くないよ、ちょっと探しちゃったってだけで。間違ったことは教えてもらってないんだから。それに時間も大丈夫だよ」
「そう言ってもらえると助かるよ、ね、エレン」
「ああ、そうだな。じゃあ今から見てもらえるか、オレの装置」
「うん、任せて!」

そんなエイルの元気な返事に、アルミンとエレンは顔を見合わせた。
そして彼女に向きなおり、微笑む。
つられてエイルも二人に向かって微笑めば、その空間にほのぼのとした空気が流れたのだった。




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