番外編3

「え、理想の旦那様、ですか?」

何故そんな話を急に振られたのか。
それはエイルが風呂に入ってる時の話だ。

きっかけはナナバのこの一言である。

「エイルってほんといい子だよなあ。お嫁さんにしたら最高だと思わない?」

誰に問いかけるでもなく、独り言に近い喋り方で発せられたその言葉に、当然他の面子が反応しないわけもなく。
それぞれがエイルと自分が夫婦生活をしている姿を想像し、それから最終的に彼女の理想はどんなんだろう、という話に至ったのだ。

「うん。将来の話してたら、エイルはどんな人と結婚するんだろうねって話になって」

アルミンの機転の利いた話の振り方はとても自然で、彼女もそれなら、と疑うことなく話に参加することとなった。

「どんな人と結婚できるんでしょうね。そもそも私、ちゃんと結婚できるのかな」
「それは問題ないだろう」
「エイルはいいお嫁さんになるよ」
「っていうかエイルが結婚できないわけないだろ」
「なんならオレが貰っ「エイルみたいにいい子は絶対いい人が見つかると思うよ」

ジャンの言葉をあえて遮ったアルミン。
そんなアルミンの後頭部をジャンは恨めしそうな顔で見ていた。
そして全員に自分は結婚できると言われたものだから、エイルは嬉しそうにほんのりと頬を染める。

「そう言ってもらえると嬉しいです」

そんな彼女を見て、男性陣の妄想が膨らんだのは言うまでもないだろう。
エイルの理想を知りたいと、エレンが口を開いた。

「そんで、理想論とかあるのか?」
「理想論?」
「どんな人に旦那になって欲しいとか、将来どうしたいとか」
「ああ……うーん。そうだなあ……」

考え込むエイルを見守る5人。
傍からみたら女性一人を囲んで何してんの、という状態である。

「平和に過ごせれば何でもいい……とは思うんだけど」
「それじゃ無難すぎるんじゃない?もうちょっと掘り下げて語ってみようよ」

何故そんなに掘り下げないといけないのか。
エイルはそんな疑問をもつこともなく、折角話を振られたのだからそれもそうか、と素直に自分なりに色々考えてみることにした。

「ええと……そういうのってどこから話したらいいんでしょうか」
「じゃあ一人ずつ質問するから、それに答えるっていうのはどう?」

ナナバの提案にみんながコクリと頷く。
エイルもその提案を受け入れた。
最初に質問をするのは、言いだしっぺのナナバから。

「そしたら私からね。えーっと、エイルは年齢制限とかある?」
「年齢はそこまで関係ないと思ってます。年上だろうが年下だろうが、好きになったら問題ないもの」
「じゃあオレ。顔は?イケメンがいいとかあるか?」
「顔かあ……確かに好みはあるかもしれないけど、喋ってて楽しいなって思ったらやっぱり顔がどんな感じの人でも好きになっちゃったりすると思うし……顔よりも雰囲気重視です!ジャンは顔、気にするの?」
「えっ」

まさか質問返しがくると思っていなかったジャンは、一瞬怯む。
だが次の瞬間即答しそうになった「オレはエイルの顔が好きだ」という言葉は喉の奥へと押し込めた。
そんな事を言ったら彼女の顔だけが好きみたいに思えるが、ジャンはエイルの顔だけでなく性格も好ましく思っているのだからそんな事言えるはずもなかった。

「オレも雰囲気とか性格重視だな」
「だよね、顔で選ぶ人って大概失敗すると思う」
「強さは気にするか」

話が終わったと踏んで、続いて踏み込んだのはリヴァイ。
強さに関して言えば自分よりも強い人物はそうそう思い当たらない。
強い人が好きだと言えば、自分はここに居る誰よりも優位に立てるはずである。
普段そんな事を考える人ではないのだが、エイルのことに関してだけは欲がわくのだから仕方が無い。

「強い人はもちろん好きですよ!でも、弱くても頑張ろうっていう気持ちがあればその人は絶対強くなれると思うんです。だから強い人よりも努力する人のほうが好ましく思います」
「強くて努力するヤツはどうだ」
「あくまでも理想の話だからアレですけど、それは最高ですね」

その言葉に心の中でガッツポーズを浮かべながら、今後はもっと努力を表に出していこうと思ったリヴァイ。
リヴァイは決して努力をしてないわけではなく、それが周囲に理解してもらい辛い状況に置かれていた。
努力しなくとも出来る人、と思われてるみたいだったが、他の誰にそう思われててもどうでもいいが、さっきの一言でエイルにはちゃんと解ってもらいたいという気持ちが強くなった。

「じゃあ頭のいい人はどうかな。力はそんなにないかもしれないけど……」

最早自分のことだろう、とツッコミを入れるアルミン以外の男達。
もちろんエイルはアルミンが自分で自分のことを頭がいいと言うとは思っておらず、理想論のひとつだと思っているので全く気にしている様子はない。

「頭が悪いよりはいい方がいいな。だってそれこそ機械関係の話とかできるでしょう?もちろん自分の仕事を解ってもらいたいっていうのはそもそもの大前提かもしれない。私がこういう職についてて、それでも一緒に居てくれる人って凄く有り難いと思うんだよね」

それは頭がいいというよりも自分を理解して傍に居てくれる人、という話に摩り替わっているのでは。
アルミンはそう思ったが、結局のところ彼女の仕事はちゃんと理解できるし、頭がいいに越したことはないみたいだから、と密かに安心した。

「じゃあ最後はオレか。ええっと……そうだな、ストレートな表現をするヤツってどうだ?」
「ストレートな表現は嫌いじゃないよ。もちろん私にも悪いとこがあったらちゃんと言って欲しいし、その時の気持ちを言葉にしてくれるのはとても対処しやすいと思うの」

エレンは既にストレートに気持ちを伝えているのだが、その事に関して言っているのだとは気づくはずもなく。
先程から何度も繰り返すが、あくまでも理想上の話、である。
だがエレンはもしかしたらあの時ストレートに自分の気持ちを伝えたのは失敗かも、と思っていたが正解だったかもしれない!と、嬉しく思った。

「っていうことはさ、ひょっとしてここに居る全員、エイルの旦那候補になる可能性はあるのかな?」

とんでもない爆弾を落としやがったコイツ、と思いつつも、正直なところ一番聞きたい質問を投げかけてくれたナナバに称賛の言葉を心の中で送ったほか4人。
エイルの口から出てくる言葉を、少し緊張気味に待つ。

「それは……その、あります、けど、逆に私が相手じゃ皆さんに申し訳ないと言いますか……寧ろ皆さんには私よりも素敵な女性が現れること間違いなしだと思います!」

拳を握り締め、フン!と鼻息荒く語る彼女の勢いは凄かった。
思いを伝えたはずのエレンは、気持ち伝わってねえのかな、と少しガックリくるくらいに。

「それは俺達が決める事だろう」
「や、まあ、それはそうなんですけど」

エイルは何かまずかったかな、と少ししょんぼりした様子を見せた。
そんな彼女の様子を見て、リヴァイは慌てて訂正する。

「少なくとも、俺は十分いい女だと思っている」
「!……あ、有難う……御座います……」

カァ、と効果音が聞こえるくらいに真っ赤になったエイルに、出遅れた!と悔しがる他の面子。
それから我も我も、と彼女に称賛の言葉を浴びせ続け、ようやく話が終わったのは。

「あの、それはそうと……皆さんお風呂入らなくていいんですか?」

彼女がこの一言を言った直後、全員がハッとなって。
次のターンのためを考えたらもう休まねば、と思ってからのことだった。




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