35E

「エイル!良かった、目が覚めたんだな!」

最初に視界に飛び込んできたのは、エレンの嬉しそうな表情だった。
そうかと思えばすぐに真っ暗になり、暖かい腕の中に包まれる。
エレンに抱きしめられているというのがわかった。

「エレン……ただいま」
「……ああ、お帰り、エイル」

エレンの腕、温かい。
小さく聞こえる心臓の音も、心地良く感じる。

――ようやく、現実世界に帰ってくることが出来たんだ。

そう実感したエイルはエレンの背に手を回し、ぎゅっと力を込めた。

「…ああ、私、死んじゃったかと思った」
「オレだって、あまりにも目を覚まさないもんだからもしかして……とか思った時もあった。眠っているエイルの顔を見てたら、心底怖くてたまらなかったんだ」

言いながらエレンはエイルを抱き締める力を弱め、彼女の顔を真正面から見つめた。
顔色は良好だ。
エレンもようやく、エイルが帰ってきたんだ、と実感する。

「夢の中でゼノフォンと……それからご先祖様、アンヘルに会ったの。あれが夢だったかどうかも定かではないけれど」
「夢?」
「夢のような空間に居て、二人が私に力を分けてくれたの。だからここに帰ってくることが出来たんだよ」
「そうか……オレ、ずっとエイルを守ってやれなかった事が悔しくて……そうか、そいつらに助けられたのか……」

しょんぼりと肩を落とすエレンを、エイルは自らぎゅっと抱き締めた。

「でも、私はエレンにたくさん助けられたよ。みんなだってもちろんそうだけど、エレンと一緒にこの世界に戻りたいって強く思ったから、だからゼノフォンを打ち負かすだけの力が出せたんだと思う」
「エイル……お前、ほんとに優しいヤツだよな」
「優しいんじゃなくて、事実を述べてるだけです。とにかく私はエレンに守ってもらえなかったなんて思ったことはない」

ニコリと微笑むエイルに、エレンは思わず口付けを落とした。
突然のことでパッチリと目を見開いたエイルだったが、エレンがはにかむように笑えば、頬を染めながら再び花のような笑顔を咲かせる。



そんなほのぼのとした幸せな空間を、扉の外から入り辛そうに見ている二人が居た。
ジャンとアルミンである。

エレンとジャンとアルミンは、大体決まって三人でエイルが寝かされている部屋を訪れていた。
今回はたまたまエレンだけが先に来て、そしてそのタイミングでエイルが目を覚ましたのである。
邪魔しちゃ悪いよな……と思いつつも、心配していたのはエレンだけではない。
ジャンは意を決してその空間へと足を踏み入れた。

「エイル!やっと起きたか!」
「あっ、ジャン!バカ!」

思わずアルミンの口からバカという言葉が飛び出す。
ジャンはそんなアルミンにうるせえ!と一瞥した。

「ジャン、アルミン……お前ら居たのかよ」
「居たのか、は酷いんじゃないかなエレン。僕達だってエイルの事が心配だったんだからさ」
「そうだぞエレン、テメェいつまでも独り占めしてんじゃねえ」
「エイルはオレのなんだから、独り占めして当然だろ」
「エ、エレン……」

二人の前で自分のモノ宣言をされることほど恥ずかしいものはない。
そう思ったエイルは真っ赤にして俯いた。
が、俯いたのは一瞬のことで、気を取り直してジャンとアルミンに声を掛ける。

「ジャンとアルミンは体調とか大丈夫なの?」
「オレらは箱から出て最初に目覚めたからな。その時点でほとんど疲れも残ってなかったぜ」
「僕らよりも、エレンやリヴァイ兵長、ナナバさんのほうが遅れて目を覚ましたんだ」
「そうなの?」

と、エレンに問いかければ、エレンは小さく頷いた。

「たぶんあの黒い球体に閉じ込められていたのが原因だと思う。アレ、入ってるだけで体力消耗したからな」
「そうだったんだ……リヴァイさんとナナバさんは元気にしてるのかな」
「二人とも通常の業務をこなしながら、時間があればエイルの様子を見に来たりしてたよ。今日ももう少ししたら来るんじゃないかなあ」
「そっか。じゃあ会ったらお礼を言わないと。二人も心配して見に来てくれたんだよね、有難う」
「エルヴィン団長だって気にしてたぞ」
「……なんか、いろんな人に迷惑かけちゃったなあ」

俯き、言葉をこぼすエイルを見てジャンは慌てた。
決して彼女を落ち込ませようと思って言った言葉ではないのだ。
エレンとアルミンはそれをわかっているだけにジト目でジャンを見やる。

「最初に言ったけど、誰もお前の所為だなんて思ってないって。実際エイルに呪いの箱を送った人物も割り出されているしな」
「……心当たりは、無きにしも非ずって感じだったんだけど。やっぱり故意的に送られたものだったんだね」
「誰か知りたいとは思わねえのか?」
「うん、なんとなくわかるから。例えその人が私に恨みを持っていたとしても、私にはどうしようも出来なかったし。綺麗事を並べたって仕方ないしね」
「……エイルがそう言うのなら、然るべき処分は兵団上層部が下してくれると思うよ」

アルミンの言葉に頷き、エイルはふぅ、と盛大に息を吐いた。

「何にせよ、みんな無事で良かった。私も、生きて帰ってこれて良かった!」

にっこりと笑いながら言ったエイルに、三人は思わず笑った。

「エイル、これからも何かあったらオレを頼ってくれ」
「エレンじゃ頼りねえんじゃねえのか」
「ジャン、また余計なことを……」
「だってそうだろ、ナナバさんやリヴァイ兵長に頼ったほうが心強いに決まってるじゃねえか」
「うるっせえ!あの二人に比べたら確かに頼りないかもしれないけど!それでもオレはエイルの力になりたいんだよ!」
「ああ、もう、二人ともこんなとこで喧嘩始めないでよ」


そんな三人のやりとりを見て、エイルはフッと笑った。
いつもの日常が戻ってきた。
そう実感できるには幸せすぎるくらいの光景で。

箱の外に出たからには、今度は壁の外の人類の敵との戦いが待っている。
だが、そんな戦いも早く終わりを迎えて、いつまでもこんな日常が続いていけばいいなと思うのだった。


エイルはエレンの袖をくいっと引っ張り、彼だけの耳元で囁いた。


「これからも、ずっと傍にいてね。大好きエレン!」
「!」


それを聞いたエレンは再び自分の腕の中へとエイルを閉じ込めた。
呆然と見ていたジャンが我に返り、引き剥がしにかかるまではそう時間はかからなかった。




END




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