35L

エイルとリヴァイは調査兵団宿舎の中を並んで歩いていた。
彼女が目を覚まして、そろそろ24時間が経とうとしている。
いくら身体に外傷がなくとも、三日間の安静を命じられたエイルだったが、いつまでもベッドに横たわっているのも退屈だろうと、負担にならない程度に気分転換をさせるためリヴァイが連れ出したのである。
その際ナナバに止められそうになったが、エルヴィンに許可は取ってあるので誰にも文句は言わせない。とエイルの腕を引っ張ってきたのだ。

「あの……」

チラリと自分の手を見れば、それはリヴァイにつかまれたまま。
手を繋いでいる状態で歩いていれば、当然のごとく周囲からの視線を感じるわけであって、エイルはリヴァイに声を掛けた。

「なんだ」
「いえ、なんでもないです」
「そうか」

だが、振り向いたリヴァイの顔が思っていたよりも優しげな表情を浮かべていたので、このままでもいいか、と思い直したエイル。

「どこに行くんですか?」
「書店に行こうと思ってな。あと二日もあの部屋でじっとしているのは退屈だろう」
「あ……、ありがとうございます。でもリヴァイさんやみなさんが顔を出してくれるから、退屈ってほどでもないですよ」
「……そうか」

リヴァイの声のトーンが少しばかり低くなる。
自分が顔を出すのは当然のことだ。 

だが、他のヤツらが顔を出すのは……仕方ないとはいえ、気に入らねえ。

そう思いながら答えたがために、低くなってしまったのだ。


書店へと到着し、しばらく物色を続けていると一冊の本がリヴァイの視界に入った。
古ぼけた装飾は、何かを彷彿とさせる。
気になって手に取ってみれば、それはやはり呪いの箱に関する調書だった。

パラパラとめくりながら、その本には気づいていない様子のエイルに声を掛けた。

「そういや、あの箱をお前に送った人物の話は聞いたか」
「……はい、ちょっと前にエレン達に聞きました」
「上層部はお前に処罰を任せようと考えているようだが……エイル、お前はそれを聞いてどう思った」
「そうですね……少なからずとも、私のことを良くは思ってないっていうのはわかってたんです。でも、私は彼女に何かしてあげられるということなんて出来なかった。父の子として産まれて来たのが私じゃなければ、こんなことも起こらなかったかもしれません」

お前が気に悩む事じゃないだろう。
リヴァイは心の中で思ったが、黙って彼女の話に耳を傾けていた。

「だからといって私だけではなく、他の皆さんも危ない目にあわせてしまったのは罪だと思います。……彼女はどんな様子なんでしょうか」
「俺達が箱から出てきた今も、反省してる様子は皆無らしい」
「そうですか。もし反省しているのであれば、と思ったんですけど。それなら遠くの地へ移住したもらうしかありませんね。近くにいればまた危害が及ぶ可能性もあるし……だったら、関わることが出来ないくらい離れていれば問題ないんじゃないでしょうか」
「遠くからわざわざここまでやって来たらどうするんだ」
「そんなことにはならないような気がします……なんとなく、でしかないですけど。ご先祖様が見守っててくれてるような気がするんですよね」

もう成仏してるはずですが、と付け加えるエイル。
リヴァイはそんな彼女を見て小さく息を吐いた。

「お前がそう望んでいるのであれば、俺からも進言しよう」
「……ありがとうございます」

彼女――フリッグに対しての処罰を自分が下す等と考えていなかっただけに、どうしていいかわからなかったというのが正直なエイルの気持ちだ。
だが、フリッグが呪いの箱の存在を公の場に出さなければこんなことにはならなかったというのは変えようのない事実である。
それに、それだけ恨まれているというのであれば、今後一緒に仕事などとてもじゃないが出来るはずもない。
そうなると最終的に遠くに行ってしまえば、もう関わることもないんじゃないかという事が頭に残ったのだ。

「だが、人間ってーのは生きてる限り色んな出来事が起こる」
「はい」
「それこそ、他にも恨みを抱えてるヤツがいるかもしれねえ」
「はい」
「呪いの箱のような存在が、他にもあるかもしれねえ」
「……はい」
「俺達がもう二度と巻き込まれないという保障はねえ」
「そうですよね……」
「だから、エイル。お前はこの先一生俺の傍に居ろ」
「はい…………、はい?」

真剣な目で見つめられ、エイルは思わず持っていた本をゴトリと落とした。
リヴァイの言葉が頭の中で反響する。
それって、つまりは。

「結婚しよう」
「け、結婚!?」

気が動転してふらついたエイルの身体が、本棚に激突する。
その衝動で不安定に置かれていた本がバサバサと落ちてきた。
それを庇うように、リヴァイはエイルの身体を抱き締めた。

「す、すみません!大丈夫ですか!」
「これくらい何ともねえ。それより返事はどうなんだ」
「え……!あの、結婚って、私と、……ですか?」
「…………お前以外に誰がいる」
「私とリヴァイさんが、って事ですよね?」
「ああ」
「わ、わたし……私でいいんでしょうか……」
「俺の傍に居るのはお前以外は考えられねえ」
「…………わかり……まし、た…………嬉しい、です」

思いが通じ合ったのは、箱の中に居るときで。
実際日数に換算してみれば通じ合ってからは浅すぎるくらいの時間だ。
だが、リヴァイにはそんな事は関係なかった。

思いが通じ合ったばかりだろうと、例え現時点で通じてなくとも、自分の傍に居てほしいのはエイル――唯一彼女だけなのだから。

「こんな世界だ、俺もいつどうなるかわからねえ。だが、お前のことだけは一生を懸けて守る」
「……そんな事言わないで下さい。私はリヴァイさんと一緒にこの世界の先を見ていきたいです」
「……ああ、一緒だ、ずっと」

店の中だということも忘れ、二人はいつまでも抱き合っていた。
しばらくその甘い空気を堪能した後、リヴァイが再びエイルの手を掴んで歩き出したと思えば、宿舎内のエルヴィンの部屋へとずかずか入り込む。
エルヴィンの部屋には呪いの箱の中に一緒に入っていた4人、それからハンジとミケとモブリットが揃っていた。

リヴァイに気づくとエルヴィンは会話を止め、そのタイミングで二人に関心が集まる。
そして。

「エルヴィン、俺とエイルは結婚することになった」

その突然の爆弾発言により、その部屋に居た全員が絶叫にも近い大声を上げた。
この報告が調査兵団全体に広がるのは、きっと本日中には達成されるだろう。

まさかこんな場所で宣言されると思って居なかったエイルは焦ったように慌てている。
そんな彼女に、リヴァイはただただ優しい視線を送るのであった。



END




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