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「……どこ、ここ」

さっきまで居た場所は、調査兵団の宿舎の一角だったのに。
今は見慣れない光景が広がっていて、不安が募るばかりだ。
唯一の救いはその場に居た全員が同じ場所に居るという事。
エイル一人であったならとんでもなくパニックになっていることだろう。
いや、今でも十分混乱はしているけれど。

「エイル、その箱は何だ」
「え?あ、」

リヴァイがエイルの目の前に来て、彼女の手から箱を奪い取った。
箱をまじまじと見るリヴァイ。
眉間の皺が一層深いものになっていく。
ナナバ、エレン、ジャン、アルミンの四人は現状を把握できないながらも二人のやりとりを見守っていた。

「…………この箱、どこで手に入れた」
「えと、さっきアルミンが届けてくれたんです」
「アルミン?」
「はっ、はい!宿舎の入り口で配達の人から預かりました!」
「その配達の人ってーのは普通のヤツだったのか」
「?……普通、だったと思いますけど」
「リヴァイ、その箱が今の状況に何か関係あるのかい?」

ナナバの問いに、リヴァイはゆっくりと頷く。

「ああ……俺の記憶違いでなければ、こりゃ呪いの箱だ」
「呪いの箱ォ!?」
「なんだそりゃ!」

それまで黙っていたジャンとエレンが一斉に口を開く。
リヴァイはうるさい、黙っておけとでも言うかのように目線だけで一掃した。

「呪いの箱って、一体……」
「それには私がお答えしましょうかね」
「「「「「「!?」」」」」」

エイルがリヴァイに問いかけようとした時だった。
突然現れた新たな人物に、エイル以外の全員が反射的に距離を取る。
エイルはビクッとするだけで、その場を動く事は出来なかった。
普段戦闘慣れしてるかしてないかの差だろう。
壁外調査では判断が一歩でも遅れれば命取りになる。
調査兵団は、その緊張の中で生き抜いてきた兵(つわもの)集団なのである。

「誰だ、テメェは」
「そう警戒しないで下さい。私はもうこの世には居ない人物なのです」

薄汚れた白衣に、手入れを放置したかのような、ひと括りにされた長髪。さらには無精髭に、怪しく光る眼鏡。
不審人物はエイルの頭を二、三度ポンポンと叩くと、フラフラした足取りで部屋の中央へと進み出た。

「私は、ゼノフォン。ゼノフォン・ハルキモと申します。立体起動装置を作るのに貢献した人間、と言えば分かって頂けますかねえ?」
「ゼノフォン……?アンヘルと共に立体起動装置を完成させたという、あのゼノフォン博士か?しかし、彼が生きてる筈など……」
「だから、もうこの世には居ないと言ってるじゃないですか」

ナナバの独り言のような呟きに、ゼノフォンはニヤニヤしながら反応した。

「その、この世に居ないはずの人間が何でここにいるんだよ」
「おや、そう邪険にしないで下さいよ。ここに現れたのはみなさんに試練内容をお知らせするためなんですから」

言いながらジャンに一歩近づいた。
ジャンは更に後ろへと下がる。下手に声をかけるんじゃなかった、と思いながら。

「そもそもここは何処なんだ、答えろ」
「いいでしょう、包み隠さずお教えいたしますよ。全て、ね」

リヴァイの睨みにも屈せず、ゼノフォンの表情は相変わらずニヤニヤとしたままだ。
不審な動きをすれば羽交い絞めにしてやる。
エイルとアルミン以外の全員がそう思いながら、ゼノフォンの動向を見守った。

「ここは、呪いの箱の中です」






話の内容は、一概に信じられないものだった。
先ほどエイルが開けたのは呪いの箱で、箱を開けると開けた人物は当然のこと、その近くに居る人物も光で吸い込まれてしまうのだという。
爆発したかのように見えた眩しい光は、その場に居た全員を箱の中へと吸い込むためのものだったらしい。

箱に入ってしまった者は、与えられた試練をクリアしなければこの箱から出ることが出来ない。
試練とは、簡単に言えば巨人を倒す事だとゼノフォンは言う。

「箱の中なのに巨人がいるのか?」

エレンは恐る恐る問いかけた。

「居ますよ。そういう風に設定しましたからね」
「設定?」
「そう、設定。実はこの箱は途中までは私が作ったのですが……一度放棄してから見知らぬ他人の手に渡ってしまったようでして。その見知らぬ他人が改良を加えて自由に設定付けられるようになったみたいです。ただし、一度設定したものは取り消しはききませんけど」
「と、途中で放棄したのに、何故貴方がここに出てくるんです?本来ならばその見知らぬ人物とやらが出てくる筈では?」
「おや、キミは……賢そうな顔をしていますね。お名前は?」
「ア、 アルミン・アルレルト……です……」
「アルミン。いいお名前だ。私が生きていれば、助手にしたいところです。……さて、その質問には私もお答え出来かねます。何せ自分自身でわかってないのですから」

ゼノフォンの話によれば、この箱を完成させたのは他の人物だが、思いのほかゼノフォン自身の箱に対する気持ちが強く、死してなお思念体として残ってしまったのではないか、という事だった。
それに対し、完成させた人物は然程思い入れもないのだろうと。

箱の中では、自分の思い描いた設定が反映される。
最初こそそれが楽しくて色んな設定を追加していたゼノフォンだったが、次第に成仏したいと思うようになった。
単純に、箱の中の世界に疲れてしまったのである。

「とりあえず、今回の試練をクリアできれば私は成仏できるという設定を付け加えました。天才だというのに、今まで気づかなかった自分がお恥ずかしい……」
「「「「「「…………」」」」」」

自画自賛かよ。
ゼノフォン以外の全員の心が一致した瞬間であった。

「その試練ってーのは何なんだ。巨人を倒す事、と言うのはわかったが……そんな簡単なことじゃねえんだろう?」
「まあ、そうですね。最終目的は巨人を倒す事ですが、それに伴ったルールがいくつか。それはあなた……そう、そこの可愛らしいあなたが持っている箱の中に入っています」
「え、これ……?でも、私達今この箱の中にいるんじゃないんですか?」

エイルがキョトンとした顔で見上げると、ゼノフォンは怪しげに笑った。

「今、私達がいるのはさっきまであなたが持っていた箱ですよ。それは言わばレプリカです」
「あ……なるほど。道理でおかしいと思った。箱の中ならなんでここに箱があるんだろうって思ってたので」
「謎が解けて良かったですね。それでは、後の説明はその箱の中身で確認してくださいね。私はこれにて」
「え、ちょっと待っ、」

伸ばした手も虚しく、ゼノフォンの姿は忽然と消えてしまった。
それと同時に全員の戦闘態勢が解除され、エイルの周りへと集まった。

「エイル、開けるの怖い?もし嫌だったら私が開けてあげようか?」
「いえ、大丈夫です。ナナバさん、有難うございます」

気遣ってくれるナナバにお礼を言い、エイルは再び箱を開けた。
中に入っていたのは、ひとつの巻物だった。




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