34

本拠地に戻り、先ずはエイルの体力回復を図る。
アルミンとジャンの二人から少しずつエナジーを分けてもらい、その行為を行っている横で現状を説明したナナバ。
ナナバの言葉に、アルミンとジャンの表情が固まった。

「ゼノフォンって……博士って呼ばれてたくらいだし、相当頭がいいんですよね……そんな人が巨人になってしまっただなんて…………、頭脳と体力とどっちも必要になるのか……」
「そうなんだよね。頭脳戦と聞くとアルミン、キミにも参加してもらいたいところだけど……やはり戦った感じだと四人以上で動くのは厳しそうだ」

この中で一番機転が利くのはアルミンである。
リヴァイやナナバは経験から正しい答えを導くことが多いが、アルミンは違った。
状況を判断し、頭の中で何が最善かを思い描いた後に答えを導くのだ。
しかもその回転が恐ろしく早い。
その事を評価してのナナバの言葉は嬉しかったが、いくら頭脳があっても動けなければ仕方が無いとアルミンは唇を噛み締めた。

「万が一俺達の中の誰かが戦闘不能になればお前らの出番は嫌でもやってくる。だからその時に備えてしっかり構えておけ」

リヴァイの言葉は、全員に重く圧し掛かった。
他の人が発した言葉であれば、万が一とか言わないで下さいよ等と返すことも出来なくはなかったが、リヴァイが言うということはそれだけ相手の力が未知数であり、脅威と感じているということだ。
そんな状況で軽口など叩けるはずもなかった。

「……わかってます。全員が無事で戻ってくることを祈りつつ、オレ達はオレ達なりに何か出来ることはないか考えます」
「ああ、任せた」

リヴァイの言葉を真摯に受け止め、敬礼をするアルミンとジャン。
そんな二人の手をエイルがぎゅっと握る。

「絶対、無事に戻ってくるから。箱から出れたら、みんなでお祝いしようね」

最後にニコリと微笑みを向け、二人を心配させまいと気遣う彼女の姿が、何故か酷く儚く感じた。
だが、そんな事を口にしたら余計に彼女を不安にさせてしまう。
そう思った二人は心の奥底に気持ちを押し込めることにした。

「さあ、最後、きっちり倒してこよう!」
「ああ。気合い入れろよ」
「はい!今度こそ終わらせてやる!」
「……行きましょう!」

全員で手を合わせ、最後の大型巨人――ゼノフォンとの戦いに向けて、再びの本拠地の外へ。

先程と同様にリヴァイが先頭に立ち、そのすぐ後ろはエイル。
最後尾にナナバとエレンが並ぶ。

今回の緊張感は今までの比ではなかった。
知識のある大型巨人ほど厄介なものはない。
しかもそれが属性付きときたものだから、例えるならば普通の大型巨人よりも10倍くらいは警戒が必要になる。
エイルが『光』ということは、相手の属性は『闇』と推測される。
『光』は『闇』を照らす事が出来るが、『闇』はどのような攻撃をしてくるのだろうか。


考えながら走り続けていれば、ドォン!!という大きな破壊音が聞こえて。
その音の方向に刃を翳せば、大型巨人がこちらを見ながらニタリと笑っている様子が伺える。
そして、フッと黒い物体が飛んできたかと思うとリヴァイは即座にエイルの手を引き、エレンとナナバはその反対方向へと横に飛ぶ。
さっきまで居た場所はゼノフォンが飛ばしたであろう大きな岩によってぐしゃぐしゃに押し潰されていた。

「……闇属性なだけあって、こっちの場所も把握できてるみてぇだな……となると、コソコソしてても無駄って事だ」
「リヴァイ、エイル!無事か!?」
「はい、私達は大丈夫です!ナナバさんとエレンは?!」
「オレ達も大丈夫だ!」

お互いに無事を確認しつつも、次々と飛んでくる岩を避けながら会話をするのが困難になってきた。
そうしているうちに、四人の間に溝ができ、リヴァイとエイル、ナナバとエレンというように二手に分散してしまう。
そうなるとエレンとナナバは光が傍に無いだけ危険な状況になってくる。

「エイル、周囲を照らせ!」
「はい!」

ここは囮になるしかない、と、リヴァイはエイルに力を放出させた。
その光にゼノフォンも距離を詰めてくるが、ナナバとエレンにとっても有難い目印になる。
そして四人が合流を果たすと、ゼノフォンとの距離はあと100メートル程度まで縮まっていた。

「リヴァイ、何か作戦はないのか!」
「今考えてる!」

ナナバが叫べば、珍しく焦ったような声を飛ばすリヴァイ。
四人で固まって行動しなければいけないというのがもどかしい。
自分が光の属性だったならば、自分ひとりでゼノフォンに向かっていけるのに。
だが、これはエイルがやらなきゃいけないことだ。
自分がどうにか出来るものでもない。

しかし段々とこの暗闇にも目が慣れてきていることに気づいたリヴァイは、エイルの身体を自分から離し、ナナバへと引き渡す。

「リヴァイ!?」
「これなら少しくらいは見えなくてもいけそうだ。エイル、一度光を消せ」
「は、はいっ!」

エイルは何故消さなければならないのか理解出来なかったが、大人しくリヴァイの指示に従った。
それを不審に思ったエレンがリヴァイに声をかけようとすれば、近くからリヴァイの気配が消えている。

「リヴァイ兵長……?」

名前を口にしたと同時に、後方でガキン!!という音が聞こえた。

「まさか!!一人で向かっていったのか?!」
「兵長!!」
「……!」

焦ったようにその方向に目をやる三人。
暗くてハッキリとはわからないが、リヴァイと同様に少しずつ暗闇に対して目が慣れてきているため、何が起こっているかくらいはわかる。

大型巨人の周りをヒュンヒュンと飛び回る小さな塊。
それがリヴァイだった。
着実に攻撃を与えている様子だったが、硬化されているのか傷を負わせている雰囲気は感じ取れない。
リヴァイのスピードを持ってしても硬化を防げないとなると、知識がある巨人は厄介どころの話ではない。

そんなリヴァイに向かって、ゼノフォンが人差し指をくいっと上げた。
咄嗟に盾を出して防御体制に入るが、そんなものは無駄同然だった。

「!!」

瞬間、真っ黒な霧に包まれた球のようなものが下から姿を現し、勢い良く吸い込まれたリヴァイ。
一瞬、彼は自分に何が起きたのかわからない様子だった。
そして中から出ようと内側を必死で叩くが、それが割れる様子は無い。
刃を向けても同じだった。

「まずい、リヴァイが捕まった!」

その姿を確認したナナバが今度は自分が、とリヴァイに向かって助太刀に走る。
中から壊せなくても外から叩き割れるかもしれない。
そう思ってリヴァイが捕まった球目掛けて刃を振り下ろすが、ガキン!という硬い感触だけで傷などどこにも付けられる事は出来なかった。

「〜!!〜〜〜〜!」
「えっ」

リヴァイが中から何かを叫ぶ。
内側の言葉は外の者には聞こえないようで、その次の瞬間リヴァイに気を向けすぎたナナバが黒い球の中へと閉じ込められる。

「ナナバさん!!……エイル、オレ達で助けるしかない……!」
「う、うん!」

リヴァイとナナバが捕まってしまった。
この中で一番強いのはリヴァイ、次いでナナバだ。
そんな強い二人が攻撃を受けて怪我をする可能性はあっても、こんな風に得体の知れない球に閉じ込められてしまうなんて思いもしなかった。

だが、今はどうしようなんて考えられる状況でもない。
自分達がやるしかないのだ。
というより、最終の敵を倒すことが出来る属性のエイルがやるしかない。

エイルがゼノフォンを倒すことが出来れば、リヴァイもナナバもきっと解放される。
食べられてないだけマシだったが、そうも言ってはいられない。
実際、閉じ込められているリヴァイとナナバは序所に体力を奪われている。
エレンとエイルはそんな事を知る由も無いが、助けようという気持ちだけは何があっても変わらない。

「行くぞ!」

エレンに引っ張られる手を離さないように強く握り返し、エイルは光の道筋を作った。
ゼノフォンはそんな二人に向かってナナバの入った球を投げつける。
咄嗟に避けてしまった二人だったが、球に入りつつも打ち付けられてしまったナナバの身体にダメージが響く。
ナナバの辛そうな表情は、見ただけでも解った。

「うわ!迂闊に避けられねえ……!」

そう思っているうちに今度はリヴァイの球が飛んでくる。
どうにか受け止めようとしたエレンだったが、勢いに負けてリヴァイと一緒に吹っ飛ばされてしまう。
当然、その瞬間にエレンとエイルの手は離ればなれになってしまった。

「エレン!!」

慌てて二人のほうに駆けつけるも、エレンは既に新たな球の中へと閉じ込められていた。

「さあ、どうしますか?応援を呼びに行きますか?」
「「「「!」」」」

……喋った!

まさか大型巨人が喋ると思っていなかった全員が驚く。

「自我もあるのでね、普通に喋ることも可能ですよ。でも手加減など一切しませんが。それだと試練にならないですからねぇ……」

口調は人間の大きさであるときと変わらなかったが、言い方に含みがある。
もしかしたら巨人になってしまったことで、少し性格に変化があるのかもしれない。
だからといって話の通じる相手だとは思っては居ないが、エイルは思い切って声を掛けた。

「みんなを出して下さい!試練を受けるのは私だけでいいはずでしょう!逃げも隠れもしません、応援も呼びません!だからみんなを出して!!」
「出して……?それはまた無茶なことを言うお嬢さんだ。いいですか?私に歯向かってきたのはこちらの方々ですよ。私は自己防衛をしただけではないですか」
「自己防衛にそこまでする必要はないじゃない!」
「おやおや……変なことを言いますね。自己防衛のために巨人を大量に倒してきたのはあなた達でしょう」
「……!」

図星をつかれてエイルは言葉を噤んだ。
確かに自分達が助かるために、何体もの巨人を討伐してきた。
でもそれは箱から出るための試練だったから……だから、戦いたくも無い巨人と向き合ってきたのに。
こんな箱に入るなんてことが無かったら、こんな風に戦うことも無かったのに。
そんな理不尽さを感じ、エイルはキッと強い目でゼノフォンを睨みつけた。

「…………わかりました、あなたを倒してみんなを助けます!成仏、してください!!」

倒すことでこの世界から出れるのなら、そうしよう。
倒さなければこの世界から出れないのならば、そうするしかない。

意志を固めたエイルは、トリガーに力を込めて地を蹴った。
目標はゼノフォン。
一気に距離を縮めたかったが、あのリヴァイやナナバ、エレンが簡単に閉じ込められてしまったくらいである。
自分が一筋縄にいく相手ではなかった。

ゼノフォンの周りをまるで小さな虫のように飛び回るエイル。
慎重になりすぎて自分に攻撃をしてこない彼女に見せるように、エレンの入った球を拾い上げた。

「本気でかかってこないと、無事じゃ済みませんよ」
「〜〜!!」
「エレン!!」

ゼノフォンがその球をぐい、と押し潰そうとすれば中に入っているエレンが苦しむ姿が見える。

「っ!!やめろおおおお!!」

その手を離させようと、エイルは無我夢中でゼノフォンの右手に向かって飛ぶ。
そして即座にその指を切り飛ばし、所在を失ったエレンの球は落下した。
当然その衝撃も痛いものだったが、押し潰されるよりは軽症で済んだ。

「ふふ、そうです。もっと力をぶつけて下さい!でないと私を倒すことは出来ませんからね!」
「うあああああああ!!」

躊躇っていればみんなが危ない。
そう思ったエイルは、ゼノフォンに向かって真正面から飛び込んでいった。
そして刃を切りつけるも、ガキン!!と硬い衝動が身体に響く。
ゼノフォンが切りつけられた部分を硬化したからだ。

何度も何度も試みるが、何度やっても遊ばれているような気分だった。


そうだ、属性攻撃……!!

属性という存在を思い出し、刃に力を込めるように念じる。
それは鋭く長く伸び、普段の刃の倍の長さにまでなった。

「光の刃ですか。それも無駄ですけどねえ」

エイルがその刃を振りかざせば、ゼノフォンはそれを払うような手つきで吹き飛ばす。

「っく、っは、!」

吹き飛ばされたエイルの身体はリヴァイの球へと打ちつけられた。
気を失いそうになったが、中に居たリヴァイが懸命に内側から叩いてエイルに呼びかけると、ぼんやりとしながらもその意識を取り戻す。

エイルを見るリヴァイは、今までに見たことの無いような表情をしていた。

こんなに焦っているリヴァイさんなんて、今後見ることが出来るんだろうか。

のんびりとそんな事を考えている場合ではないのだが、エイルはぼんやりとした頭で思った。

リヴァイから視線を移すとナナバもエレンも必死で自分に向かって呼びかけている姿が見える。

そうだ、早くみんなを助けなきゃ。
リヴァイさん、ナナバさん、エレン。
助けられるのはきっと、闇と反する属性である私しかいない。

…………きっと、じゃない。絶対、私しかいないんだ。


今からアルミンとジャンを呼びに行っても、もし手遅れになってしまったら一生後悔する。
信じて待っててくれてる二人のためにも、今ここで決着をつけなければ。

……ゆっくりと倒れてる場合じゃない!

よろよろとしながらも立ち上がり、刃を握り締めてゼノフォンを睨んだ。

「さあ、あなたに私が倒せるんでしょうか」

両手を広げて待ち構えるゼノフォン。
ふざけやがって。
エイルはそう思うと、頭の中でどこを攻撃したらいいかを冷静に考えた。
当然長考する時間など無い。
それは1秒にも満たない時間だった。

外から斬り付けても硬化されてしまうのなら…………、やるしかない!


今、出せる自分の力を最大限に込めて。

エイルはゼノフォン目掛けて再び地を蹴った。

自分に飛び込んできたエイルをそのまま飲み込むように、大きな口を開けて彼女に向かっていくゼノフォン。
そんな光景を球の中から見ていたリヴァイとナナバとエレンが何かを叫んでも、彼女の耳には届かない。

そして次の瞬間、エイルがゼノフォンの口の中へと入りきってしまった姿を目撃した三人の顔に絶望の色が浮かんだ。




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