32

少しでも強く照らそうとすれば、今度はエイルの体力が持たなくなる。
属性の力を使いすぎると体力がなくなるという事も忘れてはならない。
極力範囲を狭めつつ、固まって行動するのが妥当だと言える。

そうやって少しずつ門へと近づいた四人は、巨人の足音を確認した。
その音は四つ。
つまり、現在は二体の巨人がこの壁の中へと解き放たれている事になる。

「一体ずつ、確実に行くぞ!」
「「「了解!!」」」

まずは一番近くにいた5m級の巨人へと接近する。
エイルが刃をかざせば、その巨人までの道が光に照らされた。
その光を見つけた3m級の巨人も、人間の気配に気づいたのかこちらに向かって近づいてきていた。
エイルは両手で刃をかざす。
そうすれば二体同時に照らせると思ったからだ。
案の定それぞれの道が開かれ、リヴァイは5m級の巨人へ、ナナバは3m級の巨人へと向かっていった。
エレンは不安定になるエイルを支える役だ。

誰が何を担当するかなんて、話し合いで決めたわけではない。
その時の状況判断力で自分が何をするべきかを考えているのだ。
やはり調査兵団の戦闘における意思の疎通は目覚しいものだった。
一時的なものとはいえ、そんな彼らと一緒に戦っているということが、エイルには誇らしく思えた。

「5m級撃破完了だ!」
「こっちも3m級撃破した!」

エイルとエレンが光の先でうっすらと煙が上がっているのを確認していると、戦闘を終えたリヴァイとナナバがこちらに向かって戻ってくるのが見えた。
最早このレベルの巨人であれば彼らが討伐に充てる時間は一瞬で済む。

「エイル、今のところ体力はどうだ」
「まだ全然大丈夫です」
「念のため最後の大型巨人戦の前は本拠地へ戻ろうね。いくら自分で大丈夫と感じていても、目に見えない疲れっていうのもあるんだからさ」
「はい!」
「アルミンとジャンの出番も作ってやんなきゃな」
「出番がないのが一番なんだけどね……でもこれを続けてたら結構体力奪われそうだし、結局のところ二人に甘えちゃうんだろうな」

出来ることなら、自分が彼女に対して少なくなったエナジーを分けてやりたいと思った三人だったが、それは今の自分の役割ではない。
解りきっていることであっても、他のヤツが彼女にキスすると思うとやっぱり嫌なものは嫌だ。
だが、エイルを近くで守ることが出来なくなるのはもっと嫌だった。
だからやはり割り切って考えるしかないのだ。

「無駄口は余計な体力を奪う。次の巨人に備えろ、もうすぐ来るぞ」

門に向き直ったリヴァイがそう言えば、門の外からは先ほどよりも大きな足音が聞こえて。
エイルが門に向かって刃をかざすと、そこから三体目の巨人のお出ましだ。

奇行種じゃなければ簡単に倒すことが出来る。
最初に門に入ってきた際の動きから推測し、奇行種ではないと判断したエレンが今度は我先に、と光の先端へと向かって走っていった。
リヴァイがその後を追い、今度はナナバがエイルを支える。

闇夜で動き辛いかもしれないという考えは、今のところは覆されることとなった。
四人で行動している時は自分達の周囲しか照らされないが、こうして刃をかざせば目的の位置を把握することができる。
複数体解き放たれるのであれば不利だったかもしれないが、一体ずつ解き放たれるということが解っているので、闇夜であろうと簡単に倒せることに変わりはなかった。

その調子で続いて四体目も撃破すると、いよいよ緊張が走る。

ここまで簡単に倒すことができた。だが、やけに簡単すぎる。
最後がこんなに簡単に終わるわけがない。
そう思ったリヴァイが、最終戦が始まる前にエイルの体力を回復させておきたいからひとまず本拠地へ戻ろう、と告げようとしたその時である。

今までの音とは比べ物にならないくらい、大きな地響きが耳に伝わる。
背筋に悪寒が走り、咄嗟にその聞こえてくる方向に向けて刃をかざすエイル。

その距離はまだ大分離れていたが、大きさ自体は今まで戦ってきた属性の大型巨人とは然程変わらない気がした。
だが音が凄いということは、今までの大型巨人よりも重量があるいうことである。
エイルは、目を凝らしてその相手を見つめる。

「!」

大型巨人の顔が見えた瞬間、エイルはビクリと身体を震わせた。

「エイル、どうした!」
「あ、あれ……あの大型巨人……」

ナナバが彼女の肩を揺らし、エイルが指を差すと共に、三人はその指の先にいる大型巨人へと目を向ける。



そこで目にしたものに、全員の目が見開かれた。

「まさか……あれは、ゼノフォン……!?」

無造作に伸ばされ、ひと括りにされた髪の毛。
それから、本来の世界ではまず有り得ない、大型巨人が着ている白衣。
怪しく光っていた眼鏡こそは無かったが、その白衣だけでもエイル達にそれがゼノフォンと思わせるには十分だった。

「あいつが最後だと考えると厄介だ……オイ、やはり一度本拠地へ戻るぞ!」

エイルの手をグイッと引っ張ったリヴァイが、本拠地へと向かって立体軌道に移る。
ナナバとエレンも遅れないように、と二人の後を追うが、その間も後ろから不気味な地響きは聞こえてくる。

だが、途中まで来るとピタリと止んだ。
不審に思ったリヴァイが足を止め、エイルにヤツを照らせと命じれば、光の先に居たゼノフォンであろう大型巨人の顔がニヤリと笑っているような気がした。

まるで、「自分には知識がありますよ」と言っているかのようだった。




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