29

「日が……沈んでゆく……?」

いち早くその異変に気づいたのはアルミンだった。
ほんの少し、太陽の角度が違う。
今までは何時間経過しても太陽の角度が変わっていく事など無かった。
だが、違うということはつまり日没を迎えるということだ。

「最後になって日没?なんか不気味な感じがするね」

アルミンの言葉に立ち止まったナナバが、太陽を見つめながら言った。
気づいた他の面々も立ち止まって同様に太陽に目をやる。
見ていると段々と西へと傾いていくのがわかった。

「日没するにしてもスピードが早すぎやしねえか?」
「あの太陽、どんどん動いているよね」
「……暗くなる前に切り上げるぞ」

ジャンとエイルの会話を聞きながら、リヴァイが指示を出す。
折れた分の刃の捜索をしようとしていたところだったが、本拠地にもいくつかの予備はある。
それよりも暗くなってから何かが起こっては困ると思い、早めに切り上げて安全な本拠地へと戻る事を決断したのだ。








「!」

本拠地へと到着したところで、先頭にいたリヴァイの足が止まる。
後ろからナナバが覗き込んでみれば、誰かが扉の前に立っているのが見えた。

「やあ、みなさんおそろいで。お帰りなさい」

その声に全員の身体が強張る。
怪しげな笑顔でそこに居たのは、ここで最初に出会った人物――ゼノフォンだった。
彼本人はニコニコと笑っているつもりなのだが、その薄汚れた白衣を身にまとった胡散臭い姿からは、どうしてもニヤニヤと笑っているようにしか見えなかった。

「一体何を企んでやがる」

リヴァイがじろりとひと睨みすれば、ゼノフォンはおお怖いとでも言うように肩を竦めて見せた。

「企む?人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。こうしてちゃんとお知らせに来てあげたというのに」
「知らせとは何だ」
「まあ、とりあえず中に入ったらどうです」

どうぞ、と促されるが、自分達の本拠地へ他人に誘導されるのも何か複雑な気分だった。
最初にゼノフォンがこの場所に居たことから元々はゼノフォンの物なのかもしれないが、自分達にとっては3日間過ごした家である。

かといって外に居ても仕方が無いので、全員がゼノフォンに続いて本拠地へと足を踏み入れた。
そして中央に立つ彼を囲むようにして様子を伺う。

「まずは、5ターン目クリアおめでとう御座います。そして最初にみなさんを安心させておきます。外は暗くなってますが、暗いからといって何か特別なことが起こるわけではありません。寧ろ暗いほうがゆっくり休めるでしょう?闇は安らぎをもたらしますからね。なのでそこはご心配なく」
「……エイルの属性の件については何か知ってるのか?」
「属性?エイルというのは彼女の事ですか?」
「ああ、そうだ」

エレンの問いに聞き返しながら、エイルを見るゼノフォンの目が揺らぐ。
エイルとゼノフォンの目がバチッと合った瞬間、エイルは怯みそうになったがぐっと堪えてゼノフォンから目を逸らさなかった。

その目に何かしら懐かしさを感じるような気がして、ゼノフォンは彼女を凝視する。

「私の立体起動装置には属性が現れないんです」
「……そうですか。でも心配はいりません。次のターンになれば自ずとわかる様になりますよ」
「次のターンになれば、属性が現れるということですか?」
「言ってしまえばそうですね」

肯定の言葉にエイルはどこかホッとした様子を見せた。
だが、今までは反する属性の者が狙われてきたのに対し今回は自分ひとりだけが関係することになるのだろうか。
そんな不安も抱いていたのだが、自分の中だけに留めておく事にした。
リヴァイとナナバ、アルミンもその事には感づいていた。
しかしゼノフォンの様子からはそこまでは口を割らなそうだと思い、黙って様子を伺っているのだ。
それに、狙われようが自分が守りきればいいだけのこと。
そんな気持ちがあるからこそ、誰も口を開こうとしないのかもしれない。

「とにかく、残すところ最後のターンとなりましたね。基本的には今までと変わりませんが……最後は強敵なので、気をつけてくださいね」
「強敵ってどんな感じなのかな」
「まあ、見てのお楽しみですよ」

ナナバにニヤリと笑いながら返すゼノフォン。
それから再びエイルに目をやると、顎に手を当てながら首を傾げる仕草を見せた。


「…………アンヘル…………まさか、ねぇ」



ゼノフォンは意味深な言葉を残し、フッと姿を消した。

「あっ!相変わらず言いたいことだけ言いやがって……!」
「まあ落ち着きなよ、ジャン。とりあえず今は危険なことは何も無いということが証明されたんだから、最後に向けてゆっくり身体を休めようじゃないか。ゼノフォンの言うとおり、ちゃんと夜って感じがして良く眠れそうだしね」

ゼノフォンの最後の言葉を聞いたエイルは考え込んでいた。
自分のことをアンヘルの子孫だと見抜いたのだろうか。
もしそうだとしたら何かあったりするのだろうか。
何の意図があったのか全くわからないが、それでも呟いた時のゼノフォンの様子が気になって仕方なかった。

「最後になれば全てわかるさ、きっと。とりあえず生きて帰ることだけ考えよう」

エイルの考えを悟ったかのようなアルミンの言葉に頷けば、そのまま二人で食事の準備へと取り掛かることにした。


















「エイル、最後は誰と一緒に寝るか決めたか?」
「っ、ぐ、ごほっ」

食事中のエレンの唐突な質問により、思わずじゃがいもを喉に詰まらせそうになったエイル。
忘れていたわけではない。
食事を作ってる最中もゼノフォンのことが気になって仕方が無かったのだが、それプラス本当に自分が最後に一緒に寝る人を決めなきゃいけないのかな、とか、いっそのこと全員で寝たらいいんじゃないのかな、とか色々考えていた。
後者の考えはゆっくり休めないということでリヴァイに却下されそうだと思ったので早々に消え去ったのだが。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫……ありがとアルミン」

アルミンに背中を叩かれ、落ち着きを取り戻すとスプーンをテーブルに置いた。

「あのう……本当に私が決めるんですか?くじじゃダメなんですか?」

ちらりと全員の顔を伺えば、誰一人として首を縦に振ろうとはしない。

「エイルの選んだ人だったら誰も文句はないさ。折角の機会だから、思い切って選んでみたらどう?」
「そうだよ、実際自分が選んでほしいとは思うけど……お前の選択に反論とかしねえからさ」
「遠慮はいらねえ」
「自分の気持ちに素直になってみてもいいんじゃないかな」
「一緒に居て安心するっていうヤツを選べばいいんじゃねえの」

私の選択と言われても、と思いながら最後のジャンの言葉が妙に頭に残る。
一緒に居て安心する人、か。

真っ先に思い浮かんだ人物を見れば、当然のようにバッチリと目が合う。
気恥ずかしく感じたエイルは咄嗟に俯いた。

ほんとに、自分が選べるなんて立場でもないんだけどな。
しかもこんな状況でさ。
……呪いの箱の外だったらまだしも……こんな、状況でさ。
でもみんなそれでいいって言ってくれてるんだし……思い切って、言ってみようかな。

「じゃあ、私は……」

エイルは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、遠慮気味にその人物の名前を口にした。






リヴァイ→30L
ナナバ→30N
エレン→30E




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