28

箱の中でエイル達が奮闘しているその頃、外の世界では彼女らの失踪が一部で騒ぎとなっていた。

箱の中に消えてから一時間程経ち、ハンジがリヴァイを探しに宿舎までやってきた。
ところが、どの部屋を探しても見当たらない。
そのうち会えるだろうと思っていたハンジだったが、その日の夜になってもリヴァイと会うことは出来なかった。
さすがに不審に思い、エルヴィンに相談したところ小規模な捜索が行われた後、呪いの箱の存在を発見することになる。

エレンとアルミンの姿が見えずに心配していたミカサ、ナナバを探していたミケ、ジャンを探していたコニーが合流し、呪いの箱が開かれたその部屋へと集まった。


「で、昔の文献でこの箱が呪いの箱だということが判明されたんだ」
「箱の存在は私も耳にしたことがあったんだが……まさか実在するものだとは思わなかったよ」
「それで、エレン達は本当にその箱の中にいるんですか……!?」

ミカサが顔を青くしながらハンジに問う。
ハンジはおそらくは、と返事をし、箱を色んな角度から眺めてみた。

「これさ、どうやっても開かないんだよね」
「鍵が必要ってことですか?」
「違うんだよコニー。中に人が入っている間は開かないっていう話らしいんだ。もちろん、もしこの中に誰も入っていなければ開けた私とその周囲にいる人達……つまりエルヴィンもミケもミカサもコニーも、一緒に吸い込まれてしまうっていう、ね」
「これが本当にその呪いの箱だったとして、誰が何のために……」
「エルヴィン、あそこ。臭う」

ミケが鼻をスンスンと動かせば、入り口付近の人影が揺らいだ。

「誰だ」
「!」

まさか見つるとは思っていなかったのか、その人物は急いでその場から離れようとした。
だが、エルヴィンの言葉と同時にミカサが飛び出していたので逃げることは不可能となった。

「大人しくして」
「くっ、」

ミカサが腕をギリッと捩りながら持ち上げると、その人物は苦しそうに顔を歪めた。

「お前は……確か、エイルの工場で働いている……」
「フリッグ?」

エルヴィンの続きを言うようにコニーが名前を呼べば、ビクリと反応するフリッグと呼ばれた女。
彼女は元々はエイルの父親であるトールの下で働いていた。
ところがトールがエイルに引き継いだ頃から、フリッグは仕事を怠けるようになってきたのだ。
その噂はエルヴィンやハンジの耳にも入っていた。
調査兵団直属の整備士の事を調べておくのは当たり前のこと。
だからエイルに関する情報は割と多かった。

「何故我々の話を盗み聞きしていた?」

エルヴィンが強い眼差しで問えば、フリッグは悔しそうに唇を噛み締めるばかり。
それを見たミカサが手の力を強める。

「いたっ……」

折れそうな勢いで持ち上げられる腕に、フリッグは小さく悲鳴を上げた。
それを見たエルヴィンがミカサを制すと、今度はミケが後ろに回ってフリッグの手を拘束した。

「もしかして、この箱に関係してるの?」
「…………その箱は、私がエイルに送ったものです」

きっとこのまま逃げようとしても更に辛い仕打ちが待っている。
それならば全てをバラして調査兵団をどん底に突き落としてやれ。
そう思ったフリッグは、ハンジの問いかけにうっすらと笑いながら答えた。

「これが何なのか知ってたのか?」
「知ってますよ。呪いの箱でしょ?呪ってやろうと思ったんですよ、エイルを。まさかリヴァイ兵長まで巻き込まれてるとは思いませんでしたけど」
「兵長だけじゃない。エレンも、アルミンも、ジャンも、ナナバさんも巻き込まれてる。あなたがやった事はとても罪深い」
「どうして?私は箱を送っただけなのに。実際に知らずに開けてしまったのはエイルでしょ。エイルの所為でみんなが巻き込まれたんでしょ」

笑いながら話を続けるフリッグの姿を見たコニーは狂っている、と思った。
呪いの箱だと知っておきながら、それを平然と人に渡してしまうなんて。

「エイルに何の恨みがあるんだよ……!」
「たくさんあるわよ恨みなんて。何で私が年下のあの子の下で働かなきゃいけないわけ?親の七光りだからって飛び級で上司になるなんて許せない。調査兵団の上層部の方々とも仲良くしてるのを見ると虫唾が走ったわ」

……そんなくだらない理由で人を呪うなど。

フリッグの話を黙って聞いていたエルヴィンだったが、どうしたものかと頭を悩ませた。

「エイルに技術が伴っていることは解っていたのだろう?」
「技術とかそんなの関係ないです。私はあの子の下で働くことが嫌だったんです。だからあの子が消えちゃえばいいと思いました。今頃その箱の存在に気づいたってもう手遅れですよ?」
「何故手遅れだと言い切れる。これはその中で行われている試練をクリアすればちゃんと戻ってこれるんじゃないのか?」
「アハハッ……、そう簡単に出来る試練じゃないので言ってるんですよ」

この箱の中で行われている事は、外の世界に居る者達が知る術はなかった。
何度か開かれたらしいということは解っているのだが、その内容自体は定かではなく、どの文献にも記されてはいなかったのだ。

「お前は何を知ってる」
「別に、何も」

後ろからミケが問いかければ、フリッグはそれ以降口を紡いでしまった。
この時、エルヴィン達には知らざる事実があった。
フリッグの父親が呪いの箱に巻き込まれて、還らぬ人となってしまった事だ。
ただ失踪したと聞かされていた彼女がその事実を知ったのは最近の事。
家の中でこの箱を発見したことが事実を知る切欠となったのである。

「ともあれ、この箱をエイルに送ったのはフリッグ、お前で間違いはないのだな?」
「そうです」
「ミケ、彼女を地下牢へ」
「なっ……!何でですか!私は、ただ送っただけでしょう!」
「エイルを呪い殺そうとしたのだろう。それをただ送っただけなど、ただの言い訳にしか過ぎない。処罰はエイル達が無事に箱の中から戻ってきたら下す。それまでは牢屋で反省してるがいい」
「ふざけんじゃないわよ!どうして私があんな女に負けなきゃいけないのよ!!離せっ、離しなさいよ!!」

そう言われて離すはずもなく、そしてフリッグの他愛の無い力などミケに適う筈も無く。
ミケはフリッグを拘束したまま地下牢へと引きずっていった。
部屋を出る瞬間、フリッグは捨て台詞を投げつける。

「出れるわけないのよ!その箱に入った者は死ぬ運命なんだから!」

その言葉は、部屋に残った全員の耳に反響した。
ミカサとコニーの目が、不安の色で揺らぐ。

「大丈夫だよ、リヴァイだって一緒なんだ。エレンもジャンもアルミンもナナバも、みんなで力を合わせて戻ってくる」

ミカサとコニーの肩を優しく叩きながら、ハンジは二人を励ました。
だが、ハンジの心境も穏やかではなかった。

信じてる。
信じているけど、それでももし――。

絶対と言い切れなかった事を悔やむハンジ。
そんな彼女にはエルヴィンが力強く頷いた。

残された者達に出来ることは、ひとつしかない。
みんなが無事に帰ってきますように、とただひたすら祈ることだけだった。




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