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「未だ属性は現れず、か」

エイルの立体起動装置を弄りながらエレンが呟く。
現在エイルはみんなの立体起動装置の不具合がないかを確かめた後、食事の準備に取り掛かったところだ。

相変わらず彼女の装置には何の文字も現れなかった。

「箱を開いたヤツはなんか特別とかそんなんあんのかな」
「特別って例えば何だよ」

エイルの立体起動装置をジャンに取り上げられたエレンはムッとしたが、そのまま話を続ける。

「そんなのオレだってわかんねえけどよ。ターン数は全部で6つあるのは確実だろ?」
「ゼノフォンが言ってたしな」
「だったらその6ターン目は何か特別なことでも起きるんじゃねえかなって話」
「……嫌な予感がするのはオレだけか?」
「いや、オレも嫌な予感はする」
「「…………」」

これは呪いの箱だ。
幸せの箱ならまだしも、呪いがかけられている以上良い予感なんてものはない。
悪い予感しかしない。
押し黙った二人にナナバが近づくと、二人の頭を軽く叩いた。

「こら。お前達が弱気になってどうするんだよ。一番不安なのはエイルだろ」
「それはわかってますけど……ナナバさんは怖くないんですか?」
「私?そりゃ怖くないって言ったら嘘だな。でも何があろうと私達はエイルを守る。そう決めたんじゃなかった?」
「その言葉に嘘偽りはありません!」
「オレもです!」

突然敬礼をした二人に吹き出すナナバ。
エレンとジャンは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。








いつの間にか食事の時の席順は決まっていた。
一番キッチンに近い場所にエイルが座り、左にアルミン、右にリヴァイ。
斜め左にエレンが居て、斜め右にはナナバ、正面にジャンだ。
最初こそ誰がエイルの隣に座るかで密かに争いが行われていたのだが、何度か回数を重ねるうちに現在の席順に落ち着いたのである。

「次はアルミンが逃げる番だな」
「そうだね、僕とエイルしか残ってないっていう事は僕が狙われること確実だよね……」

今度こそアルミンは一人で向かって行き、一人で惹き付けなければならない。
そう思っていたのだが、リヴァイからの提案でアルミンはホッとした。

「狙われるのがアルミンと解っているのであればわざわざ一人にする必要もないだろうが。エレン、お前も一緒に付いてやれ」
「あ、そうですよね。解りました!」
「それにしてもあと2ターンで終わると思うと、ちょっと寂しい気もするよね」

賭けの報酬であるアルミンのおかずを取りながらのナナバの言葉に全員が食事の手を止めた。

呪いの箱から出られるのは嬉しい事だが、巨人との戦いさえなければこの世界、この部屋は快適そのものである。
何より外に出てしまったらエイルの美味しい手作り料理が食べられなくなるし、エイルと一緒に寝ることだって無くなる。
せめて12ターンあれば、もう一度エイルと一緒に寝ることが出来たのに。
もしかしたら最後に選んでもらえるかもしれないという期待はさておき、少し邪な方向へと想像が逸れてしまった。
ナナバもそういう意味で言ったのかもしれないが、エイルだけは純粋にみんなと別々になるのは確かに寂しいな、と思っていた。

「この箱から出たら一緒に行動する事も減っちゃいますもんね……」
「今から調査兵団に転属してもいいんだぞ」
「そうだよ、ここで巨人との実践も積んだわけだし、いいんじゃねえの」
「馬鹿野郎、エイルを壁外調査に出す気か」
「「…………」」

調査兵団所属になればエイルと一緒に居られる時間が増える。
そう思ったエレンとジャンによる提案だったが、当然のようにリヴァイによって却下された。
エレンの発言のとき既にこうなることを予測できていたアルミンとナナバは黙って苦笑した。
二人の気持ちはわからないでもないな、と。

「でも調査兵団直属の整備士っていうのは変わりないから、今まで以上にみんなの機械のチェックをしに来ます!」
「無理しない程度にね。エイルが来てくれるのは私も嬉しいけどさ」
「はい!」

満面の笑みでの返事に、ナナバもニコリと返した。








食事の後片付けは上司二人がやってくれるとの事だったので、同期三人とエイルは風呂の順番を待ちながら立体起動装置の刃を設置する作業を行う事にした。
とはいえ、大型巨人を倒した後に回収した刃をそのまま嵌め込むだけなので大した作業ではない。
無駄に磨いてみたりなんかしながら、箱の外の世界でも属性の力が使えればいいのに等と思っていた。

徐々に使いこなせるようになってきたのに。ここだけの力だなんて、なんて勿体無いんだ。
刃を見つめながらエレンは溜息を吐いた。

一方エイルはやはり自分の属性がわからないことに不安を抱いていた。
どんな不安要素が湧き上がってきても、今までちゃんとクリアしてきた。
だからきっと大丈夫。
何度も何度も自身に言い聞かせてはぐるぐると考えてしまう。
迷惑をかけたくない彼女はみんなに悟られないように気をつけた。
私が不安に思っていたら伝染してしまうかもしれない。
そう考え、深く深く、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。








リヴァイ以外の全員が風呂を終え、それぞれの部屋へと散らばる。
今回同じ部屋なのはリヴァイなので、エイルは椅子に座ってリヴァイを待った。
テーブルには風呂上りに、と冷たいお茶を用意してある。
全員に配ったものと同じものだ。

ダイニングに戻ってきたリヴァイを見つけるや否や、エイルはお茶をリヴァイへと差し出す。
その行為を嬉しく思いながら受け取ったリヴァイ。
それを飲み干すと自分でカップを片し、座ったままのエイルへと手を差し出す。

「行くか」

一瞬わからなかったエイルだったが、すぐに自分に向かって手を差し出してくれたんだと気づき、立ち上がってその手を取った。

リヴァイが女性に対して手を差し出す等、相手が彼女じゃなければ見ることの出来ない光景だった。
この場にエレン達以外の調査兵団員が居たら目を丸くした事だろう。
エレン達は既にそんな光景を見慣れてしまったが。
またエイルにとっても手を繋ぐ行為は最早恥ずかしい気持ちなどこれっぽっちも無かった。

恥ずかしい等と言っていたら戦闘中もっと恥ずかしい体勢になってる事だってある。
リヴァイに腰を抱かれた時、あれは何気に凄く恥ずかしかった。
だがそんな事言っていられる状況ではなかったし、リヴァイは最善の行動をする筈だから戦闘中は何があっても恥ずかしいという気持ちを忘れる努力をしたのである。




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