23

三体目の巨人はジャンと一緒に。
四体目の巨人はエレンと一緒にどうにかこうにかコンビプレイをしながら倒したが、周りで見ていたアルミンとナナバは内心ヒヤヒヤしていた。

リヴァイだから完璧にリードできたものの、他の人が最初から上手く出来る等という甘い事はなく。
これじゃ二人いっぺんに食べられてもおかしくないぞ、と思いながらもどかしい気持ちで見ていたのである。
リヴァイはいつでも助けられるように、とエイル達の真後ろをマークしていたが、それでも苛々とした表情は隠せなかったようだ。

「コンビプレイって難しいんだな」
「でも、上手くいけば一人で戦うよりも断然ラクだったよ」
「「…………」」
「ん?どうしたの、二人とも」
「……いや、何でもねえ。なあエレン」
「……ああ」

そりゃあ兵長と一緒に戦えばラクにもなるだろうよ。
そんな風に思った二人だったが、エイルに悪気がないのはわかっているので言葉にする事はなかった。
対するエイルはエレンとジャンの時も普通に動きやすかったと思っているのだが、それは彼らの知るところではない。

「さて、じゃあそろそろ出番だねアルミン」
「はっ、はい!頑張ります!」
「そんな固まってたら逃げられなくなるよ。ほら、リラックスしなよ」
「リラックスしろと言われましても……」

自分が狙われるかもしれないと思うと緊張度がどんどん上がっていく。
前のターンでは同期であるジャンも一緒だったから少しマシだったが、今はナナバと二人だけ。
もしかしたらエイルという可能性も無いわけではないが、エイルの属性が明らかになっていない限りそれは考え難い。

「そうだな……じゃあ、どっちが狙われるか賭けようか」
「え!?賭け!?」

まさか賭けようなどと提案されると思っていなかったアルミンは吃驚した。
こんな緊張する状況で賭けなど。

「私は私に賭けるよ。負けたら次の食事のおかず、好きなのあげる」
「ナナバさんがナナバさんなら僕は僕しかないじゃないですか……!」
「あはは!それもそうだな!」
「いいですけど……」

隣で大笑いしている上司を見ていたらなんだか気が抜けた。
いつも戦場ではこうやって緊張を解いたりしてるのだろうか。
楽観すぎる気がしなくもないが、ド緊張でガチガチに動けないよりは断然マシだと思えた。
アルミンはナナバに感謝し、大型巨人の気配を探った。

ドシン、ドシンと聞こえる足音はやはり後ろの方から聞こえてくる。

「どうやら大型巨人だけが裏……ウォール・ローゼの方から来ると見て間違いなさそうだね。前回もそうだったんだろ?」
「はい、前回の時も後ろ方向から現れました」
「さて、賭け忘れるなよアルミン!」
「わ、忘れません!」

アルミンの背中をバシンと叩き、気合を注入するナナバ。
そんな二人をエイルは心配そうな顔で見つめていた。
どうか二人が怪我などしませんように。
そう祈りながら、リヴァイに手を繋がれたまま二人の後を追った。

大型巨人との距離が近まると、ナナバとアルミンは二手に分かれた。
これでどちらが狙われているかハッキリするはずだ。
大型巨人は右に避けたナナバに顔を向けた。

「!」

自分が狙われていると解ったナナバは即座にブレーキをかけ、アルミンと合流を計る。
ナナバが狙われる対象ならば、相手の属性は『土』。
必然的にアルミンがメインで戦う事となる。

「アルミン!近づけるか!」
「やってみます!」

大型巨人がちょろちょろと動くナナバを捕まえようと手を伸ばすが、掠りもせずに逃げられてばかり。
痺れを切らしたのか、属性攻撃を仕掛けてきた。
大型巨人が咆哮すれば、ナナバの目前の地面から土の壁が突き出す。
その土壁を蹴って後ろに逃げようとすれば、その後ろからも壁が突き出した。
さらには大型巨人と逆の方向にまで。
じりじりと詰め寄る大型巨人はニヤリと笑っているようにも見えた。
知性があるようにも思えるが、今までのパターンからしてそれはない。ただの気のせいだ。

「逃げ場を失ったと思ったか?壁がある限り、逃げ場なんていくらでもあるんだよ!」

不敵に笑いながら壁の上目掛けてアンカーを打ち出し、上手く突き刺さったところでトリガーを引く。
ナナバの身体はみるみるうちに大型巨人よりも背の高い壁の上へとあがっていった。

「ありゃあ知性の欠片もねえな。ナナバを捕まえるために頭を使ったのかと思えば……」
「自分より高い壁じゃ届きようもないですもんね」

リヴァイの呆れた声に反応を返すエイル。
それからリヴァイが目で合図を送ると、ジャンとエレンがアルミンの援護に走った。

大型巨人はナナバを捕まえようと壁を叩きだしたが、後ろからの攻撃に気を取られたのか攻撃目標を変更した。
エレンはギリギリまで近づいて目を焼いてやろうと考えた。
そうすれば動きが鈍くなり、アルミンが近づきやすいはずだ。
戦闘に長けてないアルミンを危ない目に遭わせたくは無い。
ジャンが壁から取り出した岩を大型巨人に投げつければ、その隙を狙ったエレンが近づく。

が、ジャンの投げた岩が顔面にヒットしたにも関らず、視線が動いた先に居たエレン。

「うわッ!!」

バチッと目があったと思えば、すかさずその手に捕らえられてしまった。

「エレン!!」
「大丈夫だ、行くまでもねえ」

エイルの焦る声に対し、リヴァイは冷静だった。
二人の参戦により脱出して壁の後ろから回ってきたナナバが、水の刃で膝裏を攻撃したのである。
ガクリと崩れそうになった大型巨人はエレンを掴んだ手を離そうとはしなかったが、その瞬間にエレンが炎の刃で指を切り落とした。
そして落ちる直前に大型巨人の目をめがけて刃を振るう。
至近距離からの攻撃を避けられなかった大型巨人は、炎を目に受けてそのまま膝をついた。

「アルミン!」
「うん!!」

チャンスを作ってくれたみんなに感謝しつつ、エレンの声に頷く。
念には念をという事で緑の蔦を大型巨人の身体に絡ませながらその背に乗ったアルミン。
悠長に背中に乗り続けるなど怖くて出来なかった彼は、思い切って大型巨人の項に刃を振り下ろした。
お手本のように綺麗に削げたそれは、ボトリと鈍い音を立てて地面に落ちた。

ようやく4ターン目の終了である。


シュウシュウ、と音を立てて巻き上がる蒸気の向こうにナナバの姿が見える。
彼は笑っているようだった。

「アルミン、賭けは私の勝ちだね」
「……は、はは…………」

最早そんな事など忘れていたアルミンは苦笑するほか無く、自分もこれくらいの度胸を身に付けねばと思った。




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