22

「あれ、ナナバさん寝れなかったんですか?」

起きてきたアルミンに声を掛けられ、ナナバはハッとした。
結局あれから部屋に戻らずにテーブルに突っ伏して寝てしまっていたのだ。
ナナバが目を覚ました直後にアルミンが来たので、不覚にも虚ろな顔を見せてしまった。
先輩として大失態である。

「まあちょっと考え事をしててね」
「大丈夫なんですか?顔色もちょっと悪そうですけど……」
「次のターンが始まれば回復するから問題ないさ。私はエイルを起こしてくるよ」

言いながら後ろ手に手を振るナナバの背中を見送るアルミン。
彼の事は心配だったが、彼が言ったとおり4ターン目が開始されれば回復するのだから、然したる問題ではないだろう。

アルミンはもうすぐ起きてくるエイルの為に食事の準備を少しでも進めておこう、とキッチンに入ることにした。





「エイル、そろそろ起きる時間だよ」
「ん……」

頬に温かみを感じ、エイルは目を覚ました。
ベッドの横に居たナナバと目が合った瞬間、エイルは顔を青くさせる。

「おは、おはようございますナナバさん……!!寝る前私変なことしませんでしたか!?」
「変な事?」
「なんか途中から記憶が無くて……リヴァイさんとお酒を飲んでたのはわかってるんですけど」

記憶が無かった、だと。
ならばわざわざ離れることも無かったじゃないか。
……いやいや、いくら記憶が無いとはいえ、本人の知らないうちに手を出すなんて紳士ではない。

ナナバの頭ではそんな事を考えていたが、行為に及んでいなくとも手を出したには変わりが無いことに本人は気づいていないようだ。

そして笑顔を向け、エイルに答えた。

「大丈夫だよ。そのまま寝ちゃったから」
「え!?運んでもらっちゃったって事ですか!?」
「いや、部屋までは自力で来たから私は何もしてないよ」
「……そうなんですか……よかった、なんかすみませんでした」

何もしてないという事に安心したエイルは、ナナバと同じように笑顔を向けた。
反してナナバの心境は複雑だった。
果たして記憶が無くて良かったのか、悪かったのか。

それから着替えなど全て済ませた後、エイルはアルミンと一緒にキッチンに立つ。
みんなの為に料理を作るというのは楽しい。
最初こそ料理なんて自分に出来るだろうかと思っていたエイルだったが、母の料理する姿を見ていた所為か、まともな料理が作れた。
そうなると今度はどれだけ美味しい物が作れるか挑戦したくなる。
その証拠に毎回の食事毎にエイルの腕は上がっていった。







食事が終わり、いつものようにリヴァイが指示を出す。
今回大型巨人に狙われる可能性が高いのは、アルミンとナナバだ。
大型巨人が現れたらその二人を前線に置き、それまではエイルがメインで戦う。
今までと同じスタンスだが、ひとつだけ違うことはエイルの側に必ず誰かが居るということ。
もちろんこれまでもエイルの事は守るつもりで見ていたが、結果あのザマだ。
だから今回からは正真正銘側に居るという事で、基本的には近くに居る誰かと手を繋いで行動するように命じられた。

手を繋いでいたら咄嗟の時に動けないのではないか。
そんな疑問も投げかけられたが、エイルを守るためならばそれだけの動きを見せてみろと、リヴァイからの言葉に男達は言葉を詰まらせた。
動き辛いのはエイルも同じ事だったが、いざとなれば手を離しちゃえば大丈夫だよね、と少し斜め上の考え方をしていた。
もし声に出していたらそれじゃ意味がないと怒られていたに違いない。

そうこうしているうちに、ウォール・マリアの鐘が鳴った。

「行くぞ、エイル」
「!うん」

鐘が鳴った瞬間、一番近くに居たのはジャンだった。
ジャンは誰よりも早くエイルの手を取り、外へと飛び出す。
突然のことで吃驚したエイルだったが、リヴァイの言い付けを守ってるんだな、と納得した。

「すぐに最初の巨人が入ってくるだろうから飛ばして行くけど、大丈夫か!?」
「大丈夫!ジャンのペースで進んで!」
「ああ!」

ジャンが左手でアンカーを打ち出せば、エイルは右手で打ち出す。
交互に打つことで二人分のバランスが上手く取れた。
その様子を後ろから見ていたエレンは結構息あってんじゃねえか、と少々妬き気味である。

ぐんぐんとスピードを上げ、門付近へと到着すれば一体目の巨人が徘徊している姿を目撃。
すぐさまエイルは戦闘態勢へと入る。

「ジャン、一回手ぇ離すね!」
「え、あっ、おい!!」

ジャンが返事をする間もなくエイルはジャンの手をパッと離し、それから両手で超硬質スチールの刃を構える。
確かに両手じゃないと戦えねえな、と思ったジャンはエイルの後ろにピッタリとマークすることにした。
遠くでリヴァイが舌打ちをしていたが、彼らまでは聞こえなかったようだ。

エイルが巨人に飛びかかろうとした瞬間、エイルと巨人の目が合う。
一瞬ビクリと身体を震わせたが、すぐに気持ちを切り替えて伸びてくる手を避けながら背後を取った。

「もう、食べられないんだからねっ!!」

そんな気合と共に、最初の巨人を撃破する。
するとそんなエイルの腰をいつの間にか近くに来ていたリヴァイがぐっと抱き寄せた。
ジャンは突然現れたリヴァイの姿に呆気に取られつつも悔しさを覚えた。
上司じゃなければ、人類最強じゃなければエイルを取り返せるのに……!と。

「お前一人ではやはり心許ない。コンビネーションプレイを覚えろ」
「コンビネーションプレイ?」
「手を繋ぎながらでも俺がリードする。そうすれば今まで以上に簡単に巨人を撃破できるはずだ」
「わかりました、頑張ります!」
「よく言った。オイ餓鬼共!俺の動きを良く見ておけ!」

以前立体起動装置のガス切れを起こした兵士と、もう一人の兵士がコンビプレイでその場を切り抜けたという話を聞いたことがあった。
コンビプレイなどやった事もないが、そいつらに出来て俺に出来ないはずがない。
完璧にリードしてやる。
そう思いながらリヴァイはエイルの腰から手を離し、彼女の手を取った。

「次、来たぞ」
「はい!」

エイルが頷いて見せるとリヴァイの口元がゆるりと弧を描く。
そして巨人に対して斜め右へと狙いを定めた。

「エイル、あのオレンジの壁に向けて打て」
「右の……、ですか?」
「そうだ」
「わかりました!」

言われたとおりに斜め右方向にあるオレンジの壁へと発射させると、ワイヤーを巻き取ると同時に今度はリヴァイが左手から同じ方向へと発射させた。

「そのまま壁を越えるぞ!」
「はい!」

予想していたよりも勢いが強く、リヴァイは再びエイルの腰を抱き寄せた。
手を繋いでいるだけよりもこっちのほうが安心できる。
そう思いながら、壁をぐるっと回って巨人の背後に回る。

「よし!背中に向かって打て!」

返事をするよりも行動した方が早い。
というよりも返事をする暇など無かった。
リヴァイのスピードが速すぎて、エイルは同じ動きをするだけで精一杯である。
リヴァイの世界はこんなにも速いのか。
そんな感動を覚えながら、二体目の巨人の背中に向けてアンカーを打ち出した。
そして二人同時に肩へと着地し、即座にリヴァイ、続けてエイルが刃を振り下ろして見事にうなじを削ぎ落としたのである。

今まで倒した中で最速で倒すことが出来たエイルは、嬉しそうな顔をリヴァイへと向けた。
そんな彼女に対してリヴァイは笑みを返すことはなく、いつもどおり冷静を装いながらエイルの頭を優しく撫でてやった。




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