20

「リヴァイさん、出来まし――」

ノックをして部屋の扉を開ければ、眠っている様子のリヴァイの姿が。
エイルはゆっくり寝かせておこうと思い、再びドアを閉めた。
そしてみんなもお腹を空かせて帰ってくるだろう、と全員分の食事を作ることにした。

今回の食事はきのこのスープと肉と野菜の炒め物だ。
肉なんてもっと上の役職の人じゃないと確保するのも難しいのに、こうやって次から次へと材料が現れてくれるのがとても有難かった。
本当に、呪いの箱の中じゃなければ一生住みたいくらいだ。
エイルはそう思ったが、いやいやこれじゃ目的を失ってしまう、と頭を振った。

一時間ほどかけてそれらを作り終えると、リヴァイがキッチンへやってきたのと同時に全員分の声が玄関から聞こえて来た。
今回はきちんと地上から帰ってきたらしい。
みんなを出迎えてからすぐに出来立ての食事をテーブルへと並べる。

「うおっ、うまそーな匂い!」
「肉の匂いがする」
「ホラ二人とも、先に手を洗いに行かないとまたリヴァイ兵長に怒られるよ」

アルミンに促され、三人は洗面所へ。
先に手洗いを済ませてきたナナバは既に席に着いているリヴァイの隣に座った。

「体調はどう?」
「ああ、悪かねえ」
「大人しく寝てたの?」
「少しだけな」
「まあ、次のターンになれば体力も完全回復するだろうから心配ないんだろうけどさ。それでもちょっとはヒヤッとしたよ」
「今回のは不可抗力だろ」
「そうだけどね、エナジーを送ると自分の体力が減るなんて知らなかったからさ。エイルから聞いたときには焦った」
「……そりゃ悪かったな」

素直に謝るリヴァイに、僅かに目を見開くナナバ。

「随分素直だね」
「馬鹿言え、俺はいつだって素直だ」
「ブッ」

リヴァイが素直なわけがない、と吹き出したナナバだったが、他の三人が戻ってきたので笑うのをやめた。
そして全員が席に着くと、料理を並べ終わったエイルも空いている場所に座る。

食事が始まれば目の前の料理が消えていくのはあっという間だった。
特にジャンとエレンの食べっぷりは見ていて気持ちが良いくらいだ。
半分くらい進んだところで、ナナバが口を開いた。

「今回の件で皆も知ったと思うけど。エナジーを送ると自分の力が減る。だから今後そういう状況になった時は程ほどに、って感じかな」
「え、じゃあリヴァイさんが倒れたのって」
「そうだよエレン。エイルにエナジーを送りすぎたんだろうね」
「それでもエイルが目を覚まさなかったっていうことは、巨人に食われるっていうのは身体に傷はつかずともダメージは大きいってことです、よね?」

アルミンが問いかければナナバはおそらく、と頷いた。

「あ、じゃあもしかしてエレンのときもエイルは体力ヤバかったりしたのか!?」

ジャンがエイルに聞けば、エレンの顔が青くなる。
もしそうだとしたらあの状況で囮だなんて、無理難題を押し付けていたのではないだろうか。
だが、次のエイルの言葉でその不安は撤回されることとなる。

「うん、確かに私も体力取られてるなって感じはしたけど、動けなくなるほどじゃなかったしあの後の行動に関しては問題なかったよ」
「そ、そうか……でも、ごめんなエイル」
「だから大丈夫だってば」
「済んだ事をあれこれ話してたって仕方ねえだろうが。それよりもエイルは次も外に出れんのか」

今回巨人に食われた事で、エイルには言いようの無い恐怖が植えつけられてしまったはず。
そういう意味で問いかけたリヴァイの言葉に、みんなの視線がエイルへと集中した。

「次も大丈夫ですよ、みんなと一緒に行動できます」
「でもエイル……」

アルミンが不安そうに声を掛ければ、エイルはニコッと笑って言った。

「確かに、飲み込まれる事は凄く怖かったです。私ここで死ぬんだ、とも思いました。でも痛くは無かったし、今回みたいにリヴァイさんやみんなに助けてもらえるって思ったら不思議と恐怖心が薄れたといいますか……」

おかしな事言ってるかもしれませんけど、とみんなの表情を伺えば、誰もがぽかんとエイルを見ていた。

「あっ!助けてもらえるだなんておこがましいですかね!すみません、自分の身は自分で守れるようにします!」
「いや、そういう事じゃねえ」
「そうだよ、最初に言った言葉は忘れないで。私達はちゃんとエイルの事を守りたいと思ってるんだから」
「っていうかエイル、お前……肝が据わってるよな」

ジャンにそんな事ない、と否定するエイルだったが、みんながその言葉に頷いたので否定もしきれなくなってしまった。

……確かに、自分は肝が据わってるのかもしれない。
他の普通の人たちが同じ状況に置かれてどう思うのかは想像なんてつかないけど……もしかしたらご先祖様の血が私の性格にも関係してるのかも。

自分で勝手に納得させ、箸を置いた。
そして話を変えようとお皿を持って席を立つ。

「みなさんおかわりは?いりますか?」

エイルがそう言うと、全員分の皿がサッと差し出される。
それをおかしく思い、鍋ごとテーブルに持ってきてしまえ、と自分の皿もテーブルへと戻した。






食事が終わって風呂に入り、就寝という流れはもう4回目だ。
慣れてきた所為か全てがスムーズに行われるので、休める時間が少し増えたように思えた。

アルミンとエレンとジャンは風呂が終わると同時に振り分けられた部屋へと行った。
今回エイルと一緒に寝るのはナナバの予定なので、キッチンでナナバが風呂から出て来るのを待つ。
先に風呂を出たリヴァイが物置部屋から何かを持ってきた。

「エイルは飲めるか」
「お酒ですか?」
「ああ」
「得意ではないですけど、ちょっとだけなら……」
「ならナナバが戻ってくるまで少し付き合え」
「はい」

ワインボトルを渡され、三人分のコップと氷を用意する。
リヴァイにその内のひとつを手渡し、蓋を開けてゆっくりと注げばほんのりと甘い匂いが鼻を掠めた。

「ほう……こりゃ結構な年代モノだな」
「お酒、詳しいんですか?」
「詳しいってほどでもない。だが、いい味かそうじゃないかくらいはわかる」

さすが大人な人だな、とエイルはリヴァイの横顔を見つめた。
お酒が飲める年齢とはいえども、彼に比べたら自分なんてまだまだ子供だろう。
なんだかカッコいいなあ、と思いながらエイルも自分のコップに注いだワインを口にした。




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