19

しばらく門に向かって移動を続けていれば、こちらに向かってくるみんなの姿が目に入った。

お互いにブレーキをかけ、立ち止まる。
ナナバはそっとエイルの手を離した。

「エイル!良かった、ちゃんと意識戻ったんだな」
「うわっ!」

エレンが真っ先に駆け寄り、エイルの身体を抱き締めた。
突然抱きつかれて吃驚したエイルだったが、心配してもらえる事が嬉しいと思いエレンの背中をポンポンと叩きながら大丈夫だよ、と伝える。
それに安心したエレンはハッとなり、周囲の視線に気づいてエイルからほんの少し距離を置いた。

「エレン……お前、そんな恥ずかしい事平気で」
「言うなジャン、無意識だ」
「まあ……ある意味羨ましいけどな」
「は?何か言ったか?」
「いや、なんでもねえ」

ジャンの声は小さすぎてエレンには届かなかった。
聞こえたところでエレンの真似が出来るようになるわけでもない。
もう少し自分にも素直さがあればなあ、と思うジャンであった。

エイルは、エレンの後ろに居るリヴァイに視線を移した。
今回自分を助けてくれたのはリヴァイさんだ。
お礼をきちんと言わないと。
そう思ってリヴァイに近づけば、彼の顔色は相当優れないようだった。
さすがに半分の体力で疲れてしまったのか、その場に方膝を付く。

「リヴァイさん!」

エイルの声に反応したナナバ以外の三人は驚いたようにリヴァイを見た。
あのリヴァイ兵長が、膝を付くなんて。
実際にそんな姿を見たことがなかった三人は、リヴァイも人間なんだなあと変に安心感を覚えた。
ナナバはリヴァイの体力が少ない事は先程エイルから聞いて知っているし、戦場で膝を付いた姿も見たことがある。
確かに滅多に見れるもんじゃないけど、と、リヴァイに心配の眼差しを送った。

「大丈夫だ」
「でも、顔色悪いです……!私に力を送ってくれたからですよね」
「……確かにいつもより力が出ねえっていう感じはしたが……問題ないだろ」
「問題大有りなんじゃないの、その状態で本拠地に帰るのもツライでしょう」
「…………チッ」

割り込んできたナナバの言うとおりで、リヴァイはかなりの辛さを感じていた。
途中までは大丈夫だと思っていたのに、身体がいう事をきかない。

「エイル以外だったらエナジー送る余裕、あると思うよ」

エレン、ジャン、アルミンは思わず硬直した。
ナナバの言った意味を考えれば、それは自分とリヴァイが口付けするかもしれないという事。
リヴァイがチラ、と新兵三人に視線を送れば、みんな引きつり笑いをしている。
兵長を助けなければ、と思う反面男同士は嫌だ……!という葛藤。
エイルが万全の体調であればこんな流れになることもなかっただろう。

……今は結構体力も戻ったような気がするんだけどな。

エイルはそう思っていたが、下手に口出しをしてまた迷惑かけてしまってもいけないと、そのまま口を噤んだ。

「俺はそういう趣味はねえ」

言いながらリヴァイは盛大に溜息を吐いた。

「趣味とかの問題じゃなくて……まあ、気持ちはわかるけど」
「だったらお前が抱えて連れてけ」
「連れてってもらうのにそんな上から目線で……ハァ、いいよ。わかった、今回の一番の功労者だもんね。丁重にお連れ致しますよ、旦那様」
「誰が旦那様だ!」
「あはは、執事っぽくしてみただけ。よし、それじゃ本拠地へ戻るとするかい?」

くるりと振り向けば、二人のやり取りをぽかーんと見ていたみんなの口がピシッと閉まる。
こんなにふざけ合っている上司など、見たことが無い。
口には出さずとも顔にそう出てしまっていた。
まずい、と思ったジャンは機転を利かせる。

「今回は武器探ししなくていいんすか?」
「ああ、そうか。ジャン、君は元気なの?」
「オレはまだ全然余力あります」
「エレンとアルミンは?」
「オレも大丈夫です!」
「僕も平気です!」
「だってさ、リヴァイ。どうする?」
「勝手にしろ。俺が指示を出すまでもないだろうが」

ナナバの肩に担がれたリヴァイの言葉に、三人は探索してきます!とそれぞれ散らばっていった。

「さて。エイルはどうする?」
「私は……」

口を開いた時、リヴァイと目が合った。

「お前も大事をとって本拠地へ帰っとけ」
「はい!」

具合の悪そうなリヴァイを見て、自分が看病しなければ!という責任感が生じた。

私を助けてくれた代償で力が出ないんだから、私が落とし前はつけないとね。
帰ったら何か美味しいものを作ろう。

そう思ったエイルの足取りは、心なしか軽いものだった。
リヴァイが辛そうにしているのは見てて居た堪れないが、何かしらのお返しが出来るというのは嬉しいものだ。
せめてリヴァイがゆっくり休めるよう、出来る限りの事はしたかった。


ナナバはリヴァイを抱えなおすと、アンカーを打ち出した。
その後ろからエイルも付いて行く。
本拠地へは10分程度で帰ることが出来た。

リヴァイをベッドに寝かせると、ナナバは自分も武器を探しに行く、とその場を後にした。
残されたエイルが食事を作りに行こうと部屋を出ようとすれば、リヴァイに呼び止められる。

「エイル」
「はい?」
「少し、俺に力を返してもらう事はできるか?」
「!」

ピシッと固まるエイルに、リヴァイの胸がチクリと痛む。

「…………いや、いい。悪かっ「でき、ます!私は大分回復してるので大丈夫です!」

撤回しようとしたその瞬間にリヴァイの言葉をエイルが遮った。
エイルの真っ赤な顔を見るのは何度目だろうか。
そう思ったリヴァイは、近づいてくるエイルの唇に自分のそれを寄せた。

「…………」
「…………」

それはエイルがナナバにしてもらったのと同じように、5秒程度の時間だった。

自分へと力が注がれてくるのがわかる。
ゆっくりと顔を離すと、エイルの恥ずかしそうな顔にリヴァイの胸の鼓動が激しくなる。
このままだとまずい。
リヴァイは必死で理性を食い止めた。

「少し力が戻ったようだ、助かった」
「いえ、元はと言えばリヴァイさんの力ですから!」
「腹が減った。何か作れるか?」
「はい!」

食事を要求されたエイルは嬉しそうにキッチンへと向かった。
そんな彼女の後姿を見つめた後、リヴァイは少しの間眠りに就く事にした。




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