16

食事が終わり、風呂も完了した時点で残り時間はあと6時間。
今回はたくさん睡眠が出来る、とそれぞれ喜びながら部屋へ向かった。
そんな中緊張度MAXな人物が一人。

今回エイルと同じベッドで寝る予定のジャンである。
幼い頃は女の子と一緒に寝たりした事もあったが、今と昔では勝手が違う。
ましてや目の前に居るのは男だと思ってたヤツで。
これが意識せずにはいられるか!!
ジャンは頭の中を吹き飛ばそうと思い切り振ったのだが、無駄な行為に終わった。

「……ジャン、さっきから何やってるの?」
「うおっ!見てんじゃねえよ」
「見るなって言われても……早く部屋行こうよ」
「行こうってお前……!さ、誘ってんのか!」
「さそ……!?はぁ!?ちょっと!馬鹿な事言わないでよ意味わかんない」

真っ赤な顔のジャンを見て、エイルも一緒に真っ赤になった。
誘ってるだなんて、何がどうしてそうなったんだ。
ジャンの考えてることが解らなかった。

「もー、男だと思ってたんなら男と一緒に寝るって思えば平気でしょ!今日はなんか眠いんだから早く寝たいんだよ」

寝たい……だと!?やっぱり誘ってんじゃねえか……!

意味を取り違えたジャンは、鼻血が出そうな勢いで更に顔を赤くした。
それを見たエイルはぎょっとする。

「ジャン!馬鹿!正気に戻れ!」

ペチ!と小気味のいい音が響く。
エイルがジャンの頬を軽く叩いたのだ。
幸いなことに叩かれたことでジャンは少し自身を取り戻した。

「あ、ああ。すまなかった、オレは冷静じゃなかった」
「もう平気?」
「た、多分」
「多分?」
「平気です!」

叩かれた頬を押さえながら思わず敬語になってしまったジャンに、エイルは吹き出した。
その表情が再びジャンを煽りかけたとは知らずに。

「とりあえず、行かないなら私ひとりで行くよ」
「あ、待てって!オレも行くよ!」

エイルに置いて行かれそうになったジャンは慌てて彼女の後姿を追いかけた。
そしてようやく寝室へと入った二人。
エイルは三度目なのでもう慣れたのか、さっさとベッドの奥に潜り込んでしまう。
しかしジャンは今一歩踏み切れず、ベッドに上がれないでいた。

しばらく悶々と悩んでいれば、ふと聞こえる小さな寝息に気づく。

「…………おい、エイル」

問いかけても返答はない。

「寝た、のか……?」

そーっと近づき、ベッドの奥を覗き込んでみれば気持ち良さそうに眠っているエイルの顔が。
そんな彼女の顔を見て、ジャンは拍子抜けをした。
色々アレコレ考えてた自分が馬鹿みたいだ、と妙に冷静になり、そのままの勢いで彼女の隣へと潜り込む。
さっさと寝てきちんと睡眠取らないと、リヴァイ兵長に怒られるしな。
エイルも言ってた通り、男だと思ってれば寝れる。大丈夫だ。

自分に言い聞かせていた時だった。

「んー……」
「!?」

ゴロリ、と寝返りを打ったエイルが、ジャンの身体にピッタリとくっついた。
その瞬間、腕に柔らかいものを感じた。
当たっているのだ。
彼女の胸が。

「おっ、おっ、おっ、おまっ、おまっ……!!」

物凄い動揺を見せるジャンだったが、エイルが起きる気配はない。
その間も腕に感じる柔らかさから、ジャンの頭はピンク色に染まっていく。

これは触っていいのか!?
そういうことなのか!?

わけのわからない葛藤をし始めた時、鼻に冷たさを感じる。
何だと思って拭ってみれば、それは鼻血だった。

マズイ!これは非常にマズイ!!ベッドに垂らさないようにしなければ!!

そう思ったジャンは必死でエイルの身体から逃れ、ベッドから這い出た。
内心あの感触が離れたことを残念に思っていたが、あのままくっついていたら自分の理性はどうなっていたかわからない。
結果、鼻血である。

ジャンは深い溜息を吐くと、ティッシュを鼻に詰め込んだ。
そしてベッドに戻るかどうするかと再び激しく葛藤をしているうちに、いつの間にか床に突っ伏して寝てしまっていた。


起きたエイルがそんな彼を見て吃驚するまで、あと5時間。
結構長い。




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