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その後の5m級、7m級までは順調に倒す事ができた。
だが次の10m級では少し疲れてしまったようで、エイルは後退させられた。
代わりに先程まで声援を送っていた3人が前線へと送り込まれる。
今度は立ち位置が逆になった。

危なげなく10m級の巨人を倒した3人に、エイルは自分の未熟さを感じた。
そもそも戦闘訓練など何一つやっていないのだから比べる方がおかしいのだが、エイルは自分が足手纏いになるわけにはいかない、と躍起になっていた。

「そんなに焦っても直ぐに戦いが上手くなるわけじゃねえ」
「わかってるんですけど……みんなの戦ってる姿を見ると、やっぱり焦っちゃうんです」
「エイルが経験不足なのは誰だってわかってることだよ。だからこそ私達がフォローするんだろ。戦った経験が無いのにここまで出来るのは逆に凄いんだよ?」
「……有難うございます」

ナナバのフォローにも、エイルは力無い笑みで返した。
経験不足という言葉がエイルの胸に突き刺さる。
こんなことなら訓練兵として参加しておくんだった。だが今更後悔しても遅い。
自分は整備士の道を選んだわけだし、自分が選ばなくとも血筋の関係で結局はこの仕事に就くのが当然として生きてきた。
自分の呪いに関係ない人たちを巻き込んでしまったという負い目は、何時までたっても拭えない。

「悔しいなら、この短期間で成長してみせるんだな」

尤も、既に成長の片鱗は見せているが。
ナナバの言うとおり、戦闘経験が無くここまで動けるヤツなど滅多に居ないだろう。
もし、実際にエイルが戦える事を知ったら上層部に引き抜かれそうな気がする。
戦う整備士なんて最高ではないか。
彼女の先祖、アンヘルがそうであったように。

リヴァイはそう思いながらもエイルを発揚した。
エイルが頷いたのを確認し、そろそろ大型巨人と対面する頃だ、と門を見据える。
だが、地響きは後ろの方から聞こえて来た。
全員が一斉に後ろを振り向けば、こちらに近づいてくる様子の大型巨人の姿が見えた。

「そういや1ターン目もエレンとエイルの後ろから現れたんだっけ」
「ってーことは大型巨人のみが反対の門から入ってきてるって事か?意味のねぇ事しやがって」

ナナバとリヴァイは他のみんなよりも少し前へ出る。

「さて、今回の属性はなんだろうねえ。エイルの作ってくれたコレのお蔭で心強いよ」

ナナバが腕輪をトントン、と叩きながらエイルにウインクをすれば、エイルは照れたようにはにかんでいた。
それぞれが自分の腕輪を確認し、頭の中でシュミレーションを繰り返す。
きっと大丈夫だ。
次もさっさと終わらせてやる。
そう思いながら、大型巨人へと向かって走り出した。

「ヤツを囲むぞ!散らばれ!」

リヴァイの命令に全員が左右に広がる。
そのリヴァイは、みんなが散らばった方向を確認するとエイルに近づいた。

「お前は疲れてるんだから俺の傍を離れるな」
「はいっ!」

自分が付いていれば最低な事にはならないだろう。
そう思っての判断だった。

真っ先に大型巨人に近づいたのはナナバだ。
だが、大型巨人はそんなナナバに目もくれず、一番遠くに居るリヴァイとエイルに目標を定めている様子で通り過ぎてしまい、ナナバは慌てて追いかけた。
それに気づいたエレンとジャンとアルミンも行かせまいと自分達の真横に来た瞬間にアンカーを打ち出す。
それぞれ腕、足、肩に傷を負わせたものの、あんまりダメージは受けてないようだ。

リヴァイも自分達の方に来ているという事を察知した瞬間、エイルを抱き上げて少しでも離れようと試みた。
だが、巨人は執拗に追いかけてくる。
その後ろから何度か攻撃を受けているみたいだったが、それでも怯む素振りも見せない。

何だってんだ。
狙われてるのは俺か、コイツか。

逃げながらもリヴァイは考えた。
すると、腕の中でエイルが恥ずかしそうにしながらおずおずと口を開く。

「あの巨人……もしかして、自分と反する属性の人を狙ってたりするんですかね」
「何?」
「1ターン目の時も、一番最初に攻撃を受けたのがエレンでした。エレンの属性は『火』で、対する巨人は『水』でしたよね?さっき見てた感じでは、エレンとアルミンとジャンの攻撃はあまり効いてないみたいだったし……となるとナナバさんかリヴァイさんか私の属性の反対のやつで……つまりええと……すみません、頭が絡まってきました」
「いや、それだけわかっただけでも十分だ」

となれば、今回狙われているのは自分である可能性が高い。
エイルの属性が判明していない今、エイルが狙われているとは考えにくかった。

「オイ」
「はい」
「俺が合図をしたら、ナナバに向かって飛べ。いいな」
「え!?でも「行け!!」

有無を言わさずエイルを横に放り投げたリヴァイ。
ひゃぁぁあという情けない悲鳴が聞こえたが、きっとナナバが上手くキャッチしてくれてるだろうと思い、再び巨人との距離を測る。

案の定、大型巨人はエイルをスルーしてリヴァイに向かって距離を縮めようとしていた。
リヴァイの方が多少速く、少しずつ距離が開いていく。
チラ、と後ろに目をやれば大型巨人と他のみんなとの距離も大分開いていた。

そろそろいいか、と足を止めて戦闘態勢を取った。


その頃、リヴァイの思惑通りナナバにキャッチされたエイルは大型巨人を追いかけながらもみんなに先程の私論を述べた。

「もしそれが正しければ、リヴァイ兵長が狙われてるってことは……相手の属性は『火』か?」
「うん、多分そういうことだと思う。『火』に対抗できるのは『水』だったから……ナナバさんでしたよね?」
「そう、私だね。じゃあ今回は私達二人で片付けてくるかな」

隣を並走していたジャンに、エイルをお願いね!と押し付けて。
ナナバは颯爽とスピードを上げて大型巨人に向かっていった。

「オレ達はどうする?」
「私達も近くまでは行った方がいいんじゃないかな、いくら二人が強いとはいえ……何かあったら怖いし」
「よし、じゃあ足手纏いにならない範囲で近づくぞ」
「うん」

四人は少し離れた場所で待機する事にした。
二人になにかあれば直ぐに駆けつけられるように、戦闘態勢は崩さぬまま。


リヴァイの真正面から大型巨人は拳を振り下ろす。
立体起動でそれを避けると、今度は口を開いた。
エイルの考えが正しければ、今回の巨人は火を噴いてくるのだろうか。
そう思いながら見守っていれば、ゴォッ!!という凄い音と共に、勢い良く火が噴射された。
少し離れている筈なのに、四人も熱さを感じるくらいだ。
まるで火炎放射器。
リヴァイは咄嗟に腕輪のスイッチを押し、盾でその火炎を防いだ。
炎は結構な広範囲で広がっていたので、盾が無かったら危なかったかもしれない。

炎が消えたと同時に素早く盾を仕舞い込み、再び巨人へ飛び込んでいくリヴァイ。
巨人の後ろからはナナバが接近しているのが見えたので、もう間もなく片が付くだろう。
巨人の攻撃に応戦しながら、ナナバが項を狙いやすいように引き付ける。
タイミングを狙ってナナバがアンカーを打ち出した。
そして、項目掛けて刀を振り下ろす。

「これでも喰らえッ!!」

振り下ろしたと同時にナナバの刀から水の刃が飛び出た。
リヴァイも、離れて見ていた四人も『何だそれ!?』と目を見開いている。

ナナバは巨人に属性攻撃が出来るなら、自分達にも出来るんじゃないかと思って試したのだ。
水よ出ろ、なんて単純に頭に思い浮かべただけだったのだが、思わぬ武器に変化したので自分でも多少驚いていた。

ズゥゥン、と大きな音を立て、倒れる大型巨人。
その背中に立つナナバは爽やかな笑顔を振りまいていた。




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