10

「で、どうなのエレン。体調の方は」

リヴァイに続いて残りの面子も部屋の中へと戻ってきた。
その視線は『羨ましいわボケェ』というオーラが駄々漏れであり、エレンはちくちくと心に痛みを感じた。
ナナバが普通に話しかけてくれたのが有難かった。

そして先程までの出来事を思い出せば、意識は遥かかなたへと飛びそうになる。

「あの、スゲェ気持ちよかったです」
「「「「「!?」」」」」

この発言にはエイルも含めて全員が吃驚だ。
しかもエレンの表情は何処と無く恍惚としていた。
たかがキスひとつでこんな風になるのか。
エナジーが送られてくるというのはそんなに気持ちがいいものなのか。
それとも、エイルのキスが上手かったのか。
キスが初めてであるエイルは当然そんな事は思ってないが、他の男共がエイルとのキスを試したい等と思う位に、エレンの様子はおかしなものだった。

「復帰できんだな?」
「っ!はい、問題ないです!」

リヴァイの言葉にハッと我に返ったエレンは元気に返事をしてみせた。

「ならいい。では再び全員で出撃する」

エレンだけに聞こえるように舌打ちをしながら、リヴァイは作戦をみんなに告げた。
エレンはその舌打ちが聞こえなかった振りをして、作戦に耳を傾けた。

「今回の討伐メインはジャンだ。その他は補佐に回る。二人が囮になって正面から引き付け、もう二人が両脇から攻撃態勢に入る。巨人の体制が崩れた所でお前が止めを刺せ」
「はい!」
「残る一人は万が一ジャンがしくじった時に巨人に致命傷だけでも追わせられるよう、ジャンと一緒に行動する」
「誰がその囮をやるの?攻撃するってことは、私かリヴァイが適任だよね」
「ああ、だが攻撃にはナナバとエレンに回ってもらう。俺はジャンの補佐だ。そしてアルミン、エイル、お前達二人には囮になってもらう」
「エイルが囮ですか!?こいつ、震えてたのに」
「エレン、私大丈夫だよ。囮ってことは逃げ続ければいいんでしょ?戦うのはまだ無理かもしれないけど、立体起動装置の扱いだけはそこそこ自信あるから……」

エイルは、強がるように笑ってみせた。
しかし発言に嘘はない。
自分のメインのターンが回ってくるまでに、どこかで巨人と交戦してみなければいけないという事もわかっているし、それが今では無い事もわかっている。
だから、今回は素直に囮になる事を受け入れたのだ。
エレンにエナジーを送った事で残る体力が心配だったが、そうも言っていられる状況ではない。

「アルミン、逃げながらもエイルを気にしてやってよ」
「はい、もちろんです!」
「ジャン、緊張すると余計に失敗するから、リラックスね。いつも通りだよ」
「はっ、はい!」
「エレンは私と攻撃に回るんだから、息を合わせられるよう頑張ろうね」
「はい!ナナバさんの動きをよく確認します」
「エイルは、とにかくヤバイと思ったら全力で逃げるんだよ」
「わかりました、無理しません」

全員に声を掛けたところでよし、と振り向けば、リヴァイが不機嫌そうな顔をナナバに向けていた。

「オイ。俺には言う事ねえのか」
「リヴァイはアドバイスなんか必要ないだろ」
「……それもそうだがな」
「何、仲間はずれにされて寂しいとか言わないでよ?」
「言うか馬鹿者」
「馬鹿者てお前……」

言いながらそっぽを向いてしまったあたり、少なからず拗ねているんだろうという様子が伺える。
そもそもリヴァイは皆に指示を出す側だし、この中じゃトップなのだからアドバイスなんかしたら余計に怒られそうなもんだけどな。
ナナバはそう思ったが、リヴァイも意外に子供っぽいところもあるのできっと今のは寂しかったんだろうと勝手に自己完結をした。

「これが終わったら減った分の刃の補充もするからな。終わっても仕事があること、覚えとけ」
「「「「「了解!」」」」」

全員で再び本拠地から外へ出ると、遠くに嫌な気配を感じた。
やはり本拠地と外の空間では空気が全然違う。
普段巨人と対面しないエイルでさえ、嫌な空気がひしひしと伝わってくるのがわかった。

こんな嫌な空気の中、みんなはいつも戦ってるんだよね。
よし、さっきの挽回しなきゃ!

先に進む戦士達の背中をみつめながら、エイルは自分の頬をパシンと叩いて再び気合を入れなおした。




しばらく立体起動を続けていると、大型巨人の姿を見つけた。
自分達が外に出てない間は門のところに集まる設定になっているのだろうか、大型巨人は門の前に佇んでいた。
何もせずにボーッと突っ立ってるその姿は木偶の坊そのものだ。
だが、何者かが近づいているという気配を察知したのか、大型巨人の顔がこちらを向いた。
視界にその姿を確認すると、それまで動かなかった大型巨人は突然思い出したかのように動き出す。

「来たぞ!作戦通りだ、いいな!」

リヴァイの声に、皆が指示された方向へと散らばる。
エイルはアルミンと一緒に大型巨人の真正面から向かう。
そしてギリギリの位置まで近づき、攻撃されるかされないかの様子を伺いながら距離を詰めたり開いたりを繰り返す。

口が開いたら水が飛んでくる合図だ。
一度見ることが出来たおかげで、そのタイミングさえわかってしまえばもう怖くは無い。

「エイル、来るよ!」
「うん!」

アルミンの合図で二人は左右に大きく飛んだ。
その間を凄い勢いの水が飛んでいく。
間近で見ると、その勢いは本当に凄まじいもので。
まるで横から滝が流れてきているような感覚だった。
あんなのに当たったら、そりゃ身体は無事じゃ済まないだろうな。

そう思いながらエイルとアルミンは再び大型巨人へと向き直った。
すかさず第二波をお見舞いしてやる、というように口を大きく開いた大型巨人。
その瞬間を狙って、ナナバとエレンが下からアキレス腱の辺りを切り飛ばす。

勢い良く削がれたそれに、大型巨人の身体は後ろへと傾く。
そしてそのまま仰向けに倒れ、地鳴りのような音を響かせた。

……仰向けじゃうなじ削げねえじゃん。

ジャンは内心焦っていた。
ここからどうやって攻撃すればいいのかと。
単純に考えたら再び起き上がるのを待てばいいだけの話なのだが、自分がメインだということで舞い上がってしまっているジャンには冷静な判断が欠けていた。
だがそこは熟練のリヴァイが制止する。

「ジャン、落ち着け。まだだ」
「兵長……はい!」

リヴァイの言うとおり、大型巨人はゆっくりと立ち上がった。
そして今度は一番近くに居たナナバとエレンに向かっていく。
これじゃ囮の役割を果たせない、と思ったエイルとアルミンはその背中を追う。

「今だ!行け!!」
「え!?はい!」

このタイミングでGOサインが出るとは思ってなかったのか、ジャンは一瞬躊躇いつつもすぐに大型巨人目掛けてアンカーを打ち出した。

自分達に向かっていることに気づいたナナバとエレンはすかさず体勢を整え、巨人の脹脛目掛けてアンカーを打ち込む。
そして即座に後ろへと回り込み、切りつけてからエイルとアルミンに向かって飛んだ。
まさか自分達に向かってくると思っていなかったエイルとアルミンは咄嗟の事に方向転換など出来なかったが、エレンとナナバが二人を抱えたことで強制的に後ろへと飛ぶことになった。
当然大型巨人は四人を追ってくる。

今なら後ろはがら空きだ。
しかも、傷を負っているから動きが鈍い。
これはさすがのタイミングだ、と感心しながら見事ジャンは巨人の首へと辿りついた。

「おぉらァァァ!!」

雄叫びと共にジャンは半刃刀身を力の限りに振り下ろす。

綺麗にうなじを削ぎ落とされた大型巨人は、力なくその場所に倒れこんだ。


1ターン目、見事勝利である。




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