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「ジャン、今の見てたか?」
「はい!見てました!投げてすみませんでした!」

ビシィと敬礼ポーズを決めるジャンに、リヴァイは呆れ顔だった。
自分が投げろと言ったのだから、そんな事はどうでもいいと。
寧ろさっさと実行しなかった事に怒ってやりたいと。
つまりそんな答えは求めてねえんだよ、と。
言った所で無駄だろうと思い、話を進めることにした。

「ヤツの属性は『水』だ。お前は『土』だったな?」
「…………オレ、ですね」

ジャンはリヴァイの言いたいことを理解したようだ。
メインの大型巨人は、反する属性の持ち主でないと倒す事は出来ない。
つまり、今回はジャンが止めを刺さねばならなかった。

調査兵団とはいえ、討伐経験の少ないジャンは不安そうな表情を浮かべた。
が、次の瞬間エイルの視線を感じていつも通りの強気に戻る。
彼女にいいところを見せたいが為に。

「リヴァイ兵長、恐れ多くもサポートお願い出来ませんか」
「元よりそのつもりだ。ヘマすんなよ」
「はい!有難うございます!」

尊敬している上司に自らサポートをお願いする事など実際には有り得ない事だったが、今回ばかりは状況が違う。

「とりあえずあいつらと合流する。エイル、動けるか?」
「あっ!はい、大丈夫です!」

二人のやり取りを見守っていたエイルは、一瞬身体をビクリと震わせ、すぐにトリガーに手をかけた。

エレン達の方へと近づけば、大型巨人も進行方向を変える。
固まっていては危険だが、ひとまず大型巨人との距離を置きたいと思ったリヴァイは全員に撤収命令を出した。
エレンはナナバに抱えられ、やっと動けるような状態だった。




本拠地まで戻ってくれば、大型巨人の気配を感じることもなくなった。
完全に本拠地と外の世界は遮断されているようだ。
だからここにいれば安全ということなのだろう。

「エレン、大丈夫かい?」

アルミンが心配そうにエレンの顔を覗き込むと、エレンは大丈夫だと答えて見せようとしたのだが、思いのほか受けたダメージが大きかったのか身体が悲鳴をあげている。

「まあ、水でも勢い次第で人を斬る事もできるしね。見た感じ凄い勢いだったよね、あの水鉄砲もどき」
「お前らも見てたのか。なら話は早ぇな」
「エレンは本拠地に置いていくんですか?」
「アルミン、エレンのこの状態じゃ行けるわけないだろ」
「ジャン、余計なこと言うなよ……おっ、オレは大丈夫だ!」
「……大丈夫、って感じではないけどねえ」
「あの……」

エレンをどうするかで揉めている中、エイルが思い出したように口を挟んだ。

「怪我とかしても、エナジーを送ることはできるんじゃなかった……でしたっけ」

その発言に、みんなが巻物の内容を思い浮かべる。

「…………口付けで、ってヤツか」

リヴァイが言えば、エイルは顔を赤くして俯いた。

「確かに、そんなこと書いてあったね。正確な情報なのかはわからないけど……試してみる価値はあるのかな」
「でっ、でも誰が……!」

ジャンの言葉に、エイル以外の全員が顔を見合わせた。
エイルは相変わらず俯いたままだ。

「俺は男と口付けなんざごめんだ」
「私もちょっと……無理かな」
「オレ絶対無理無理無理」
「僕も、それはちょっと……」
「、オレだっ、て!男にされんのなんかっ……嫌だよ!」

とすれば、残されたのはただ一人。
恐る恐る顔を上げると、じぃ、と自分を見つめる十の視線に、エイルは気づいた。
これは言い出しっぺの自分がやるしかないのでは、と。

エレンは誰が見ても辛そうな様子で。
ターンが終われば回復するとも書いてあったし、このまま本拠地に居てもらえばそれはそれで……とも思うが、戦力は一人でも多く欲しいというのもまた事実。
エイルは激しく葛藤していた。

「エイル、頼む。お前にしか頼めないんだ!オレの怪我、少しでも治してくれないか……!」
「エ、エレン……」

エレンの真剣な目に思わずたじろぐエイル。
ここは腹を括るしかなさそうだ。

「…………わ、わかった。でも、流石にちょっと恥ずかしいので……他の人は部屋の外に行っててもらえませんか」
「えー、どうなるのか気になるんだけどな……でもまあ、いっか。わかった、あっち行ってるよ」
「エレンてめえこのやろう羨ましいんだよこのやろう」
「エイル、頑張ってね」
「早く済ませやがれ」

本来ならばエイルがエレンと口付けをするなんて許しがたい。
だが、それは必要な行為でもあるし、自分がエレンにするのもゴメンだ。
そう思いながら、各々言いたいことを言って部屋から出て行った。
残されたのはエレンとエイルの当事者だけ。
微妙な空気が流れる中、エイルはエレンの側にしゃがんだ。

「エ……エレン、ごめんね。ちょっと我慢してね」
「……ああ、オレの方こそ……ごめんな」

意を決してエレンに自分の顔を近づけるエイル。
心臓の鼓動はバクバクと煩い。
実は、エイルにとっての初めてのキスだった。
一方エレンの心臓も段々と近づいてくるエイルの顔に、物凄い速さで動いていた。
目前まで来た艶やかな唇。
それが、自分のと重なるのか。
そう思ったら意識を保てそうになかった。

そして、二人の唇が触れた。

「!」

触れた瞬間、エレンの身体はまるで水の中に居るような感覚に覆われた。
ゆっくりと痛みが薄れていくのがわかる。

なんだこれ、水に揺られて気持ちいい。

エイルは恥ずかしさから唇を離そうとしたのだが、あまりの気持ち良さにエレンは自らその唇を求め始めた。

「ん、」

少し、息が苦しい。
だが逃がすまいと、エイルの肩をエレンの手が掴む。
エイルとエレンの立場はいつの間にか逆になっていた。

エナジーを送っている所為か、エレンが元気になっていく一方でエイルは自分の身体の力が抜けていく事に気づいた。
これは、送りすぎると今度は自分がマズイのでは、と。


程無くして、部屋の扉がバン!と開かれる。

「まだか!長い!」

リヴァイだった。
その瞬間、エレンは慌ててエイルの肩を奥へと押した。
エイルの顔は、湯気が出そうなほど真っ赤だった。




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