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窓から飛び出せば、昨日までの外の空気と違う感じがした。
これも巨人の所為なのか。
エイルは、逸る鼓動を抑えながら三人の後についていく。

ようやく壁付近まで辿り着くと、既に交戦したのか二体の巨人が倒れており、その身体からは濛々と白い煙が舞い上がっていた。

エイル達に気づいたナナバが、ワイヤーを引き戻して一気に距離を詰める。

「ひとまず楽勝、って感じかな。もう少ししたら大型巨人が入ってくると思う……っていうかさ、私達の知ってる巨人と……なんか、違うんだよね」
「違うってどういう事ですか?」

エイルが見上げると、ナナバは自分の口を指差しながら言った。

「うん、ないんだ。歯が」
「「「「歯?」」」」
「そう、歯。普通の巨人ってさ、見た目は人間っぽいだろ。でもここにいるのはなんていうか……間抜けな姿で。かといって油断は出来ないんだけど」

巨人を見たことのあるエイル以外の三人は、歯のない巨人の姿を想像した。

「……やる気、なくしますね」
「そうなんだよエレン。でも油断は駄目だってば」
「はあ、まあ、わかってますけど」

それでも、そんな間抜けな敵の姿を想像してしまえば気が抜けてしまいそうだった。

「動きとかは私達の知ってるものと変わらないよ。ジャン、アルミン。残る二体の討伐補佐をして欲しい。ひとりはリヴァイに付いて!エレンはエイルから目を離さない事!」
「了解!」
「了解、オレがリヴァイ兵長の方に行きます!」

ジャンがリヴァイに付く事を選んだので、必然的にアルミンはナナバの補佐に付く。
エレンは自分が討伐に関れないのは不満そうだったが、まだこのゲームは始まったばかりだ。
機会などいくらでもある。
そう言い聞かせ、エイルを守るのもこれはこれで役得だと思いながら彼女の手を引いた。

エイルの手に触れたエレンは驚いた。

「おい、大丈夫か。震えてるぞ」
「だ、大丈夫。初めて見たからちょっとビックリしちゃって……」
「ああ……そっか、エイルは巨人の姿を見たことなかったんだっけ。オレも最初は怖くて震えたよ」

その震える手に、もう片方の手も重ねる。

「エレンも?」
「ああ、みんなそうだよ。けど、一匹残らず駆逐しなきゃいけないと思ったら震えなんていつの間にか止まってた」

そうやって強くなってきたんだ、と、エイルは一人納得する。
交戦している場所とは少し離れた屋根の上から、みんなの様子を眺めていた。
巨人の姿は怖くてあんまり視界に入れたくなかったけれど、いずれ自分も戦わなきゃいけない時が来る。
それに気づけば、いつまでも震えている場合では無かった。

そして、こんな風に戦わなきゃいけない状況を作ってしまったのは自分の存在だ。
自分がいなければ箱の呪いなんかに巻き込まれなくて済んだんだ、みんな。
だから甘えてばかりもいられない。

戦い方を教えてもらおうと、エレンの腕を引っ張ったその時だった。


ズシン、ズシン、と後ろから地鳴りのような音が聞こえる。
恐る恐る振り向けば、そこには20メートル級の大型巨人の姿が。
討伐補佐に必死になっているアルミンとジャンは気づいてない様子だったが、リヴァイとナナバは即座に『マズイ状況になった!』と思った。
エレンが咄嗟にエイルを自分の後ろへと隠し、大型巨人に向き合う。

巨人は門から入ってくるんじゃなかったのか!?

そんな疑問も浮かんだが、今は倒す事を一番に考えなければならない。

「エイル、ヤバイと思ったらオレを置いて逃げろよ」
「そんな事できないよ!!私だって戦わなきゃならない!」

さっきまでの弱気とは正反対のエイルに、エレンは瞠目した。
てっきり肯定の返事が返ってくるかと思っていたのに、いい意味でそれは裏切られた。
戦う意思があるなら、ただ動けない者よりも断然守りやすい。
いざとなったら自分でどうにかしようと思えば、逃げられる確率も格段に上がるからだ。

「……良く言った、エイル。でも無理すんなよ!」
「わかってる!」

エレンは不敵な笑みを浮かべた後、段々と距離を詰める大型巨人に狙いを定めてアンカーを発射させた。
リヴァイとナナバは当然『あの馬鹿!!大型巨人には気をつけろと言ったのに!!』と思いながら、それでも今目の前にいる巨人を放置するわけにもいかないので、さっさと倒してしまおうと立体起動のスピードを上げた。

エイルはエレンとは別の方向に飛ぶ。
エレンが真正面に向かっているなら、横から回りこんだほうが得策だろう。
二人揃っての正面突破は無理だ。
第一、 巨人の弱点は後ろにある。
エレンが気を引いている隙に後ろを狙えれば、と思ったのである。

横に回った瞬間、巨人の口がカパッと大きく開いた。
ナナバが言っていた通り、それには歯が無く、なんとも情けない顔だった。

そのままエレンを食べようとするかと思いきや、その巨人はエレンに向かって水を飛ばしてきたのである。
まるで威力の強いウォーターガンのようだ。

「うおっ!?」
「エレン!!」

予想だにしてなかった出来事に、エレンはまんまと水の餌食になってしまった。
それでも途中で体勢を立て直し、なんとかアンカーを打ち込んだが、気づけばだいぶ遠くまで吹き飛ばされていた。

目の前の邪魔者がいなくなった今、当然のように大型巨人はエイルに視線を移した。

「、ひ」

一人になった途端に蘇る恐怖心。
動かなければ、私もやられてしまう。
そんな事はわかっていても、身体が動かなかった。
さっきまでの意気込みはどうした!
私だって、巨人を倒すんだってば!
強く言い聞かせようとするが、それとは裏腹に足が竦む。

そしてエイルに狙いを定めた大型巨人は容赦なしに口を開いた。

「チィッ!!」

門付近では、リヴァイとジャンが15メートル級の巨人を倒した所だった。

「ジャン、俺を抱えて飛べ!そしてエイルに向かって投げろ!!」
「え!?」
「早くしろ!間に合わんだろうが!!」
「は、はい!!」

リヴァイに言われたとおりにジャンは彼の身体を抱え、すぐさまアンカーを発射。
トリガーで引き戻す力を利用し、そのまま力の限りにリヴァイを放り投げた。
普通に立体起動で動くよりも身体に負担がかかるのだが、そんな事など言ってられない。

巨人の口から水が噴出される直前、見事リヴァイはエイルの身体を捕まえる事に成功した。
即座に大型巨人から距離を取り、エイルの身体を強く抱きしめた。

「馬鹿野郎、前に出るなと言っただろうが!!」

声には怒気が含まれていたが、それもエイルを心配しての事だ。
エイルに危害がなくてよかった、と思いながらリヴァイは更に言葉を続けた。

「何故忠告に従わなかった」
「す、すみません……私も、戦わなきゃいけないと思ったから……」

震えながらも言うエイルに、リヴァイは溜息を吐いた。

「そりゃ、いずれお前も戦わなきゃいけない時が来る。だが、何も最初から向かっていく事もないだろう」
「エレンが一緒だったので大丈夫と思ってしまいました」
「……エレンのヤツも、後で叱ってやんなきゃいけねえな」

エレンの居る方を見れば、もう一体の巨人を倒し終えたナナバとアルミンが側に居る。
少し辛そうに顔が歪んでいたが、意識はハッキリしているようだ。

エレンもエイルも、大型巨人には警戒しろという事を忘れてしまっていたのだ。
忘れたというよりは、戦わなきゃという意思のほうが表面に出てしまったと言えよう。

「まあいい。おかげでヤツの属性も判明した」

宥めるようにエイルの頭を撫でると、再び彼女を抱えたリヴァイはジャンの元へと移動する。
その間も大型巨人はこちらへと近づいていた。
不気味に笑いながら。




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