7

「ええと……お邪魔、します」

この本拠地には全部で部屋が六つ用意されており、そのうちの三つが寝室になっている。
後はダイニングキッチン、リビング、物置部屋だった。
物置部屋は食事の材料などが置かれている。
おまけに風呂まであるなんて、ここが箱の中の世界じゃなければとても住み心地のいい家である事は間違いない。

「エイル、ごめんね。最初の相手が僕で」

おずおずとベッドに上がってくるエイルの手を引くアルミン。
そんなアルミンに対し、エイルはふるふると首を振った。

「ううん、実はアルミンで安心してる。ほんとはあの時、アルミンかナナバさんがいいなって思ってたんだ」
「それ、本当?」
「うん」
「……だったら嬉しいな、有難うエイル」

へにゃりと破顔したアルミンは、女のエイルから見ても可愛かった。
ナナバはともかく、アルミンはあんまり男として意識しなくて済むから、などという理由は口が裂けても言えない。

「もう寝るよね?電気、消すよ」
「うん」

箱の中では朝も夜もないのか、カーテンを閉めなければ明るすぎて寝辛い。
電気を消すついでにカーテンをぴっちりと閉め、アルミンは再びベッドへ潜り込んだ。

「ホラ、もうちょっとこっちに寄って。それじゃ落ちちゃうよ」
「で、でも」
「遠慮なんかいらないよ、ちゃんと疲れを取らなきゃいけないんだから」

ね、と頭を撫でるアルミンに、エイルはドキッとした。
普段は男らしい姿など見せないアルミンだったが、なんだか妙に男らしくみえて。
さっきまで意識しなくて済むと思っていた考えが正反対になってしまいそうだ。

「あ、っていうか逆に僕がもっと遠慮しなきゃ駄目だったよね……!ごめん、配慮が足りなくて」
「ううん!アルミンが遠慮する必要は全くないよ!」
「そう?ならいいけど……ありがとう、エイル」

アルミン……大人になったらきっと、モテるんだろうな。
紳士的で優しいし、綺麗な顔してるし。

エイルはそんなアルミンの顔をチラリと覗く。
逆にアルミンはそのエイルの顔にドキッとしてしまった。

「ね、寝ようか」
「う、うん」

二人してどもってしまったが、どちらもツッコミなど入れられるハズはなく。
寝てしまえば変なことも考えずに済む、と、お互いに無理やり目を閉じた。
しばらくしてエイルの寝息が聞こえたことに安心したアルミンも、それから直ぐに眠りにつくことができた。









そして4時間ほど経過した頃。
ふと、アルミンが目を覚ました。
目の前には深い眠りについているであろうエイルの顔。
それは至極幸せそうで、いい夢でも見ているのだろうか。
寝起きにこの顔は、ちょっと辛い……!

可愛すぎだろう、と、ひとり顔を真っ赤にさせる。
だが、自分の隣で熟睡してくれてるというのは信用されているということだ。
そう思うとなんだか嬉しかった。

そういえば腕時計付けっぱなしだったな、とそれを見ようとした瞬間。
カンカンカンカン!!とけたたましい鐘の音が聞こえた。
時計は丁度12:00の数字を表示したところだった。

あまりにも煩いその音に、エイルがガバッと飛び起きる。

「な、何!?」

アルミンはその音の理由を知っていた。
というよりも、その理由はひとつしか考えられなかった。巨人がこの箱の中に出現したのだ。
一瞬、きゅ、と固く唇を結んでから、エイルを落ち着かせるようにその背中を撫でた。

「おはよう、エイル。よく眠れた?」
「おはようアルミン……って、あ、音が止んだ」
「うん。巨人が現れたっていう合図だね、きっと」
「巨人が……」

とうとう巨人と対面しなければいけない時がやってきてしまったのだ。
この場所にいる限り、安全は保障されているけれど。
かといって巨人をそのままにしておけば、誰か一人が命を落としてしまう。

この先本当に大丈夫なのかな、と、エイルは不安の溜息を吐いた。

「大丈夫、調査兵団の精鋭達が一緒なんだから、絶対大丈夫だよ」

ね、と向けられたアルミンの笑顔は、とても心強いものに思えた。

「きっと今の音でみんなも起きたと思うし、準備しに行こう?」
「ん」

差し出された手を取って、部屋を出た。
リビングに集まると既に全員が揃っている。
眠そうな顔をしたエレンとジャン、既に完全に準備万端のリヴァイとナナバ。

「先駆けて俺とナナバで様子を見てくる。お前らはさっさと準備を済ませておけ」
「はい、わかりました」
「ここは大丈夫だと思うけど、油断は禁物だからね」

アルミンが代表で返事をすれば、リヴァイとナナバは颯爽と窓から飛び出していってしまった。
不謹慎ながらも二人のその姿をカッコいいと思ったエイル。
そんなエイルに、エレンが話し掛ける。

「エイル、ちゃんと眠れたか?」
「うん、ぐっすり。エレンは?」
「オレはジャンのいびきの所為であんまり」
「ジャンっていびき煩いんだ……」
「おいエレン!勝手なこと言ってんじゃねえよ。お前こそ歯軋り煩かったぜ」
「え、エレンは歯軋りなんだ……」
「ジャンこそ適当言ってんじゃねえよ!」
「もー、二人とも。とりあえず早く準備しないと兵長とナナバさんが戻ってきて怒られるよ!」

エイルは、その様子を想像して苦笑を浮かべる。
アルミンはそんな二人を宥めるかのように準備を促した。
四人は急いで服を着替え、立体起動装置を装備する。
新しい服はリビングに用意されていた。
これもゼノフォンの不思議のひとつだろう。
いちいち気にしてたら仕方ないので、素直に袖を通す事にしたのだ。

別部屋で着替えていたエイルが立体起動装置も装備完了の状態でリビングへ戻ってくると、三人は目を丸くさせた。

「へえ……エイルも、調査兵団の制服なんだな」
「なんか雰囲気変わるね」
「ちょっと強そうに見えるぜ」

普段はつなぎなので、こんな立派な制服を着たことがなかったエイルは、恥ずかしそうに笑った。
当然三人はその笑顔にノックアウトである。




それから少し経って、リヴァイとナナバが帰還。
二人もエイルの制服姿を見て目を見開いていた。
もちろん褒め言葉は忘れずに。

「お帰りなさい!どうでしたか?」
「ああ……現在は三体確認することができた」

エレンが問いかければ、リヴァイは状況をみんなに説明した。

リヴァイによれば、今のところ三体の巨人が町の中を徘徊しているとのこと。
最初は二体だったのが、5分程経過すると続いて三体目の巨人が門から入ってきたそうだ。
門はウォールマリアそっくりで、やはりここはシガンシナ区を参考につくられた場所なのだと再確認できた。
壁の上にも上ってみたらしいが、壁の向こう側は霧で覆われている為何も確認できなかったらしい。
きっと、その先には何もないし行く事もできないのだろう。
つまりは、箱の果てが壁なのだ。

「これからすぐに討伐に向かう。五体全部揃ったら厄介だからな」
「エイルは初めてだから少し遠くから様子を伺って欲しい。動けそうだったら任せるけど、あくまでもいきなり巨人の前に出るってことはやめてね」
「は、はい。わかりました」

リヴァイに続いて、ナナバが指示を出す。
エイルは唾をゴクリと飲み込んだ。

「最初の四体に関しては、まあ問題はないだろう。気になるのは属性付きっていうメインの大型巨人だが……これも、戦ってみないことにはわからねえ。エイルはもうわかってると思うが、エレン、ジャン、アルミン。お前達三人もその大型巨人にだけは迂闊に近寄るなよ。ナナバ、お前もだ」
「「「はい!!」」」
「リヴァイもね」
「ああ、わかってる。お前らのうち誰か一人は必ずエイルから離れるな、いいな?」
「「「了解!」」」
「では、検討を祈る!」


そう言い残し、リヴァイとナナバは再び窓から飛び出していった。
残る四人も顔を見合わせた後、二人に遅れを取らないようにと続いた。




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