風呂から出たリヴァイに続き、私も早めに済ませることにした。 個人的にお湯に浸からないとお風呂に入った気がしないので、ゆっくりと時間をかけて。
出てから居間に戻れば、リヴァイはまたソファーに横になっていた。
「リヴァイさん、起きてます?」 「ああ」
目を開けずに答えるリヴァイ。 疲れているんだろうか……いや、疲れているに違いない。 きっとこんなにゆっくり休める事なんて、ほとんど無いに等しいんだろう。
チラリと机を見れば、漫画が動いた形跡はない。 読まなかったんだ、と、なんとなくホッとした。
「眠いならソファーじゃなくて布団敷きますから。そっちで寝てください」 「布団?あのベッドは使わないのか」 「あのベッドは私のなんで」 「…………」 「え、何ですか。ベッドは譲りませんよ」
ジッと見つめるリヴァイ。 まるでベッドを譲れと言っているように見えて、たじろいだ。 すると無言のまま立ち上がって、向かった先には私のベッドが。
もしかして、とその成り行きを見守っていると、案の定リヴァイは私のベッドへと倒れ込んだ。
「うわあああ!だからそれ私のって言ってるじゃないですかああああ!」 「うるせえ。俺はここで寝る」 「いいんですか、それ私が寝てから干してませんよ」 「…………」 「…………」
途端に固まる。 そして私自身も言ってて恥ずかしくなってしまった。 漫画を読んで理解したことだが、リヴァイは潔癖症だ。 だから最初に掃除は徹底してやれと言われたんだな、と納得した。
「……もういい。今日は疲れたからこのまま寝る」 「えええええ……!」
潔癖症の癖にそれでいいんかい。 いやいや、私は自分のベッドに他人が寝るなんて嫌なんだけど!
「ちょっと待って、マジで。ほんとそこは駄目ですって、ねえ」
退かせるためにリヴァイの体をゆすると、うっすらと開かれる瞳。 そして私の頭のてっぺんからつま先まで、ゆっくりと見渡した後。
「ぅ、わっ!」
思い切り腕を引っ張られて、リヴァイの上に倒れこむ形になった。
「ななな何……!!」 「……弥生、お前よく見たらイイ身体してんじゃねえか。ベッドに拘る振りして誘ってんのか?」 「ハァ!?何でそうなるんですか、そんなわけない、でしょっ!離して!」
手を振りほどこうともがいてみるが、一向に力は弱まらない。 疲れてるんじゃないの、この人! そしてなんでこんな事になってんの!
「おいおい、煩い女は好きじゃねえと言ったはずだが」 「煩いの意味が違うでしょうが!はーなーしーてー!!」 「暴れるなよ、ムードが台無しだ」
そう言いつつ、身体を反転させて、今度は上下が逆転した形になる。
え、嘘でしょ。 ムードって何? 本当に? 私、異世界人に犯されちゃうの?
ゆっくりと顔が近づいてきて、思わずぎゅっと目を瞑った。 そして次の瞬間。
「痛ァ!!」
ゴチッという音がして、目を開けた瞬間に頭突きされたんだ、と理解する事ができた。
「……ハッ、本気にしたのか。お前ほんとバカだな」
言いながらリヴァイは私の上からスルリと退き、布団の置いてある場所へ。
「早く寝ろ。俺は疲れたんだ」
自然な動作で布団を敷くと、そのままもぐりこんでしまった。 あれ? え? 何、ベッドは諦めたって事? しばし呆然としていると「電気消せ」との声が。
言われるがままに電気を消し、私もベッドへ潜り込んだ。
「あの……」 「何だ」
何を言っていいかわからず、とりあえずおやすみの言葉だけでもと口を開く。
「おやすみ、なさい」 「…………ああ、おやすみ」
予想外に「おやすみ」と返ってきた事に対し、なんだか胸が熱くなった。 この人、意地悪なのかそうじゃないのかわからない。 買い物に行って来いって言ってたときは有無を言わさずだったのに、今は最終的には私の意見を優先してくれて。
言葉足らずなだけで、結構いい人なのかな。 いやでもいい人だったら最初からベッドを譲るはずだ。 やっぱ違う、前言撤回。
ていうか、あんな小さい身体のどこにあんな力があんのよ。 この世界に来たらこの世界の人間と同じで、異世界の力は使えないはずなのに。 それなのにビクともしないなんて……これは男女の差ってやつなんだろうか。 それともリヴァイが普通の人間としても強い人物なのか。
捕まれた腕をぎゅっと抱え込み、何も考えずに寝る事にした。
今日は私も疲れた。
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