買ってきた服が想像以上に似合っていたから、驚いた。 身長は低いけどまるでモデル並みのスタイルの良さ。 あんまりまじまじと見れなかったけど、よく見ると男前なんだよねこの人。 ていうかまじまじと見たら怒られそうで怖いんだもん。
思わず似合ってますね、なんて言っちゃったのは後悔している。 見惚れたとか……そんなんじゃないし。
そして、再び車に乗り込んだ際には自然と運転席へ行ったリヴァイ。 普段友達と遊ぶときにも私が運転してばっかりだったから、助手席に座らせてもらえるっていうのは嬉しい。 幸せだなー、なんて思っていると、リヴァイに気色悪い顔すんなと言われた。
私の幸せ顔は気色悪いですか、そうですか。
本来ならば車の運転には運転免許っていうものが必要なんだけれども。 言った所でこの人は気にしなさそうだから黙っておく。 検問とかやってたらもうオシマイだけどね。 きっとリヴァイじゃなくて私が警察行きになるだろう。
「道案内、ちゃんとやれよ」 「言われなくともやりますよ!あ、そこ右です」
最初に本屋に行って、まずは一番の目的である進撃の巨人を既刊全て購入。 それから市役所に行って、リヴァイに変装を解いてもらい……といっても帽子と眼鏡を外すだけだが、漫画と一緒に見比べてもらって承認完了。 職員の中に進撃の巨人を知っている人も多かった事から、異世界人登録は以外とあっさり済んだ。 一週間の資金は50万。 普通に生活する分には多すぎる金額だが、異世界人分の生活用品を買わねばならないと考えたらこれでも足りないくらい。 国も借金を抱えているわけだし、最低限しか補助できないみたいだから仕方ないけど。 100万払うよりは全然マシだ。 一応お客様用の布団も押入れに入ってるし、必要なのは洋服とかちょっとした小物とかで済みそう。 そしたら残りはポケットマネーになるもんね、極力節約していこう。
その後はお昼を適当な店で食べ、午後は職場へ休業届けを出しに行く。 進撃の世界では食事が美味しくないのだろうか、リヴァイは驚いているようにも見えた。 口に含んだ瞬間ピタリと止まって「美味い」と呟いたから、そうかなーって思っただけだけど。 実際表情に出ないからよくわかんないや。
法律によれば、異世界人の面倒を見る者はその日から一週間は仕事を休めるとの事で。 会社側もあっさりとこれを承諾。 人手が足りてないわけじゃないから問題ないんだろう。 今後他の社員の所に異世界人が出没しなければ、の話だけど。
「さて、これで用事は全部終わりました」 「後は帰るだけか?」 「帰って進撃読もうと思います」 「…………そうか」
後悔すんなよ、と聞こえたのは気のせいだろうか。 何に対して「後悔すんな」なのか聞きたかったけど、リヴァイの顔が真剣になっていたからそのタイミングを逃してしまった。
帰宅し、リヴァイには適当に寛いでいてくださいと促して。 私は早速漫画を読み始めた。
三時間は経っただろうか。 ようやく全部読み終えた頃には、リヴァイはソファーで横になっていた。 寝てるのかな。 そーっと近寄ると、突然目がギン、と見開いた。
「ぅわっ!!」 「読み終わったのか」 「起きてたんですか、リヴァイ兵長」 「……読み終わったんだな。どう、思った?」 「どう思ったって……」
私にとって漫画は漫画でしかなくて。 いくら目の前にこの世界から来ました、って人が居ても、その人の気持ちが分かるわけでもない。 心理描写だって詳しく書かれていたりしてた部分もあったけど、解明されて無い謎もまだたくさんありそうだったし。
ひとつだけ思ったことは、私が絶対この世界に行ったらすぐ死ぬな、ということだけだった。
「巨人はグロいな、と」
「…………そうか」
そう言うと、リヴァイはスッと立ち上がった。
「何処行くんですか?」 「風呂に入る。ここか?」 「あ、そうですけど……まだお湯張ってないですよ」 「……とりあえず今日はシャワーだけでいい」 「わかりました、じゃあ着替え置いておきますね」
今日買ったばかりの寝巻きと、それから男性用の下着。 リヴァイが浴室に入ったのを確認し、それらを洗面所横のカゴに置いておく。
……なんか、これって同棲してるみたい、だよね。
とはいえ、見ず知らずの男と一週間。 変な考えを吹き飛ばすように、頭を左右に振った。
間違っても同棲にはならないか。 別に恋愛感情を抱いているわけでもないし。 でもやっぱり一つ屋根の下に男の人が居るってなんか……なんか。 無駄にドキドキしちゃうんだけど。
でもリヴァイはそんなことないんだろうな。 サラリと私の目の前で着替えようとする辺り、女性に対する免疫はありそうだし。 しかもあんな世界で生活していたら、どこで誰と寝泊りしようがあまり変わらないのかもしれない。
そういえば、漫画は10巻まで出てたけど。 実際のリヴァイは今どのへんの時を過ごしているんだろうか。 ナナバさんが逆鳥したのが昨日ってことは、まだ生きてるって事だよね。 もしリヴァイがこの漫画を手にとって読み始めたら、進撃世界の未来は変わったりするんだろうか。 未だ完結しているわけじゃないから、どう変わるのかわからないけれど。
リヴァイが読もうとしたら、私は止めるべきなんだろうか。
……ホント、よく、わからないや。
私がどうのこうの口出しする権利はない気がする。 たった一週間一緒に過ごすってだけなのに、何でこんなにも考えなきゃいけないんだろう。 リヴァイがここに来るまでは、異世界人なんて関りたくないと思っていたのに。 それとは裏腹に、私の頭の中ではどんどんリヴァイのに対しての関心が膨らんでいく。
なんだろうな、この気持ち。
変な感じ。
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