「……はあ、死ぬかと思った」 「危なかったのは最初だけじゃねえか」 「危ないっていう自覚あったんですね」 「ほんの少しだけだがな」
本屋を出てからしばらく猛スピードで飛ばす飛ばす。 どうか警察に出会いませんように!!と祈りながら、シートベルトを握り締めていると、やっとの事でスピードが緩まってきた。
「そしてまさか運転しようとするとは思わなかった」 「テメェに出来るくらいだ、俺に出来ないワケがねえ」 「テメェじゃありません、冬野弥生です」 「知っている」
知ってたら名前で呼べよ! ツッコミ待ちか!
「それにしても、リヴァイ様とか……どんだけ人気なんですかあなたは」 「俺がこの世界での自分の事なんざ知ってるわけが無いだろう」 「まあ、それを言ったらそうなんですけど。で、もしかして家に向かってます?」 「ああ、それしか知らないからな」 「それしかって……」
家までの道を覚えてるっていうのもとんでもない記憶力だと思うんだけど。 私最初は何度も迷子になったぞ。 ていうか、結局進撃の巨人……買えなかったじゃないか。
ひとまず帰宅し、二人で家の中へ入る。 何故か家主である私よりもリヴァイが先頭だ。 今度はちゃんとブーツも脱いでくれた。
「……フゥ」
ため息を吐くように再びソファへと座り込むリヴァイ。 不機嫌な顔は相変わらずだ。
「無駄に疲れた。あいつらもこんな思いをしたのか……」
一人ごちる様子のリヴァイ。
「とりあえずコーヒーでも飲みます?」 「コーヒーあんのか」 「はい」
落ち着きたい時はコーヒーに限る。 リフレッシュに必要なためにストックは欠かさず常備している。
リヴァイの言ってるあいつらというのは未だ誰のことだかわからないが、なんとなくだけど彼は早く元の世界に戻りたいのかな、って思った。 そう思ったと同時にコーヒーを淹れながらも問いかけていた。
「あの、元の世界に戻りたいですか?」 「…………戻りたいと言えば戻りたいが……戻りたくねえと言えば戻りたくねえな」 「どっちなんです」 「何とも言えない複雑な心境ってこった」
どうぞ、と机の上にコーヒーカップを置けば、リヴァイはブラックのまま口をつけた。 じっとこちらを見つめる表情は、何かを言いたそうだった。 そしてまた、ため息を零す。
「なんですか、人の顔見てため息吐いて」 「なんでもねえ。ところで弥生、また買い物行くんだろ」 「え、ああ、行きますよ。進撃の巨人も買ってないし、今日のご飯も買いに行かなきゃならないし。今度は全部まとめてこなしたいので、当然リヴァイさんも一緒ですよ」 「一緒に行くのは構わんが、あの騒ぎは面倒だ。煩い」
確かに、あの騒ぎは面倒だった。 私完全に部外者だったし。 リヴァイが自力で脱出してきたからよかったけど、これが大人しい性格の人だったら私には助けてあげられなかったと思う。
「となると、着替えとちょっとした変装セットが必要ですよね」 「よし、俺はここで待機している。お前行って来い」 「えー!?また戻ってきて買い物行くんでしょ!?二度手間は嫌だって……」
その時、バシュッと耳の横を何かが掠める音がした。 驚いて目を見開くと、あのガッショガッショうるさい装置を作動させたらしい。 そして恐る恐る後ろを見てみると、突き刺さっていた。 壁に、ワイヤーみたいなものが。
「なななななにするんですか!破壊行為禁止!!」 「うるせえ。つべこべ言わずに言って来い。さもなくば殺すぞ」 「こ、殺したら即警察行きですからね!」 「殺したってバレなきゃいいんだろう?」
ニタァと笑う顔に、ゾッとした。 この人、本気だ。
「わかりました、行って来ます!だからこれ仕舞ってくださいよ!」
吐き捨てるように言えば、リヴァイは無言でワイヤーを回収した。 その際もシュッという音が耳を掠めたもんだから恐怖以外の何物でもない。
「よし、行け」
満足そうに玄関を指差すリヴァイをひと睨みし、私は再び車に乗って買い物に出かけるのであった。
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