一週間か。 一週間、辛抱するしかないのか。
そうと決まれば腹を括ろうではないか。
「えーと。リヴァイさんは何かしたいことってあります?」 「したい事?この世界でという事か?」
話しながらもドカッとソファーに座るその姿は、なんだか様になっていた。 カッコつけてるわけじゃないのに異世界人ってだけでカッコよく見えてしまう不思議。 しかしいい加減土足は勘弁して頂きたいものだ。
「あの、そのブーツ脱いでもらえませんかね。外国と違って部屋の中は土足禁止なんです」 「あ?そんな事は早く言いやがれ」 「その部分の掃除は後でしてもらいますからね」 「……チッ……ああ、わかった」
至極不満そうだったが、自分がお世話になるということもあってか肯定の言葉を零したリヴァイ。 最初の舌打ちが余計だろう。 表面上はさん付けだけど心の中では呼び捨てで呼んでやる。 そのくらい罰は当たらないはずだ。
「ていうかこの世界の知識、どこまで持ってるんです?」 「まあ、あいつらが見てきた大方の部分は」 「適度にわかるって事ですねわかりましたありがとうございます」 「何でそんなに早口なんだ」 「特に意味はないです」 「……面倒なヤツに拾われたもんだ」
そ れ は こ っ ち の セ リ フ だ ! !
全く以って面倒なヤツを拾ってしまったと思ってるよ! 拾ったわけじゃないけどね! 勝手にウチに現れただけだけどね!! ていうかあいつらって誰だよ私には一切わかんないよ!
「こうなったら、進撃の巨人……買って来るか」 「は?」 「貴方が登場する漫画ですよ。進撃の巨人でしょ?」 「買って来てどうするんだ」 「一方的に知らないっていうのもなんか不便なんで。とりあえずそちらの世界の知識を少しでも頭に入れておこうかと」 「たった一週間のためにか?」 「まあ、そうですね」 「変なオンナだな」
変なオンナでも何でもいいや、もう。 どうせ一週間の付き合いだ、猫を被ったところでもう一生会わないんだから素のままでいいだろう。
「買い物、俺も行くぞ」 「え?いやいや、その服装じゃ無理……や、異世界人も普通に歩いてるみたいだから別に問題ないか。ただし、そのガショガショうるさい機械は置いてって下さいね」 「立体起動装置の事か」 「立体起動装置っていうんですか」 「ああ。わかった、置いていこう」
素直に云う事聞いてもらえて良かった。 付けたまんまじゃガッショガッショうるさくてたまらん。
「じゃあ、車で行きますから。付いてきてください」
アパート暮らしには車庫なんてないので、近所の月極を借りている。 この辺りの土地はそこそこ安いので有難い限りだ。 だからこそここに住むことに決めたんだけど。
「これに乗るのか」 「はい、鍵は開いてますからどうぞ」 「馬より早いのか?」 「それは乗ってみてのお楽しみじゃないですかね。あんまりスピードを出すつもりもありませんけど」 「フン」
それは返事なのかなんなのか。 小憎たらしいヤツだということはもうわかったので、なるべく気に留めないようにしよう。
シートベルトの説明をし、リヴァイとドライブ開始である。
最終目的は本屋!
しばらく車を走らせる中、リヴァイは終始無言だった。 横顔をチラ見してみたが、肘を付いて顎に手を当てて。 そしてただ、窓の外を見ているだけだった。 しかし横目だけで見返された時にはビクッとして、すぐに目の前の運転に集中し直した。
この人がどれだけこの世界に興味を持っているのかわからないが、私は私の出来ることをするだけだ。 ああ、後で市役所に申請しに行かなければ。 当然リヴァイも一緒に行かないと異世界人と認定してもらえないから、二人で行かなきゃいけないんだけど。
「よし、到着」 「ここは店か」 「そうです、リヴァイさんの世界にはこういう感じの店とか無いんですか?」 「ああ、俺達の世界は市場が主流だ」
市場か。 確かに店というよりは市場が似合ってる気がする、あの世界では。 といってもテレビでちょっと観ただけだから全然詳しくなんてわからないけど。 詳しく知るために本屋に来たんだし。
「ねえ!!アレ!!リヴァイ様じゃない!?」 「キャー!!!ほんとだ!!リヴァイ兵長じゃん!!」 「わっ、わっ、どうしよ!まさかこんなところにいるなんて!!話しかけに行く!?」
遠くから聞こえて来た女の子達の騒ぐ声。 もしかしなくてもリヴァイの事を言ってるんだよね?
あれ、この人って人気のキャラだったりするわけ?
私が懸念していた面倒事になっちゃうわけ?
「……なんだ随分騒がしいな」 「……それはアナタの所為だと思います」 「何故俺の所為なんだ」 「だって「リヴァイ様!!リヴァイ様ですよね!!あの!握手して下さいいいい!!」 「わたしサインも欲しいです!!」 「私も握手して下さい!!!」
理由を説明しようとすれば、さっきまで遠くに居た女の子達がいつのまにか私達の周りを囲んでいて。 私は当然のようにドン、と弾き飛ばされ、リヴァイだけが女の子達に囲まれる形となった。 みるみるうちに眉間の皺が深くなり、不機嫌オーラ駄々漏れである。 なんなんだこいつらは、と思っているに違いない。
「うざってえ、退けクズが!」 「きゃああああ待ってましたこの辛辣な台詞!!」 「さすがリヴァイ様カッコいいー!!」
リヴァイの不機嫌オーラも、彼女たちには通用しないようだ。 あーあ、だから面倒なんだよ人気のキャラは。 どうするんだ、この世界で問題ごとを起こしたら即警察行きだぞ多分。
するとリヴァイは無言で彼女達を押しのけ、私の手から車の鍵を奪った。
「行くぞ」 「え」
どこに、と問う間もなく腕ごと引っ張られて。 不機嫌オーラを噴出したまま私を助手席へと放り投げ、自分は運転席へと乗り込むリヴァイ。 そして慣れた手つきで鍵を差込み、エンジンをかける。
え、ちょっと待って。 運転できるの!?
「リヴァイさん、運転……」 「さっき見て覚えた」 「はあ!?さっき見て、って、ぐえっ!」 「ちゃんと掴まってろよ、舌噛むぞ」
言うの遅いよ! あの女の子達を振り切りたいんだろうけど、せめてもうちょっと安全運転を……!!
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