逆鳥警報 | ナノ


「……オイ女。ここはどこだ」

我が目を疑った。
その瞬間までは、いつも通りの日常を過ごしていたはずなのに。
いつも通りベッドから出て、いつも通り顔を洗って、歯を磨いて。

タオルに手を伸ばした瞬間、鏡越しに映った鋭い眼光と目が合った。
背筋に悪寒が走った。
さっきまでここに人なんて居なかったはずなのに。

嫌な予感がする。
泥棒や強盗であっても困るが、問題視しなきゃいけないのは先程放たれた言葉。

「ここはどこだ、と聞いている。テメェ口が利けねえのか?」

物凄い威圧感で睨んでくるその男は、多分、私の間違いでなければ。

「…………もしかして、逆鳥、してきちゃったの?」
「あぁ?」
「ええと……とりあえずウチから出てってくれませんかね」
「出てくにしても場所を把握してからだ。ここはどこだ。もう三度目だぞ、次は無いと思え」

凄く高圧的な態度。
法律に則るならば、私はこの人の面倒を一週間も見なきゃいけなくなるのか……!
それは勘弁だ。
出てくにしても、と言っている事から出て行く気はあるらしい。
それならばさっさと地名を教えて出て行ってもらおう。
そして他の人に拾ってもらえばいいと思う。

「ここは日本です。ついでに言うならば貴方はこの世界の人間ではありません。従って次に出遭った人に保護してもらってくださいね」

言いながら後ろを向いてもらおうと思い、肩に手を伸ばす。
怖いけど構ってられるか!
しかし虚しいかな、その手はその男によって掴まれてしまった。
ギリィ、と肉がよじれる音がする。

「いたたたたた!!痛い!痛い!!放して!!」
「放してやってもいいが……質問に答えてからだ」
「何でも!何でも喋るから!痛い!!」

必死でそう告げれば、手の力は少し緩んだように思える。
だが私を逃がすまいとガッチリ捕らえたままで。

「これが噂に聞く逆鳥というものなら、俺は一週間ここで過ごさねばならないんじゃねえのか」
「!?」
「何故逆鳥を知ってるのか、っていう顔だな。実はな、ウチの調査兵団にも居たんだよ。逆鳥したってヤツが何人か」
「ちょ、調査兵団……?」
「そいつらに言わせれば、俺達は『進撃の巨人』という物語の人間らしいな」
「進撃の……巨人……?」

ちょっと待て。
その名前なら割と最近聞いたことがあるぞ。

確か寝付けなくて深夜にテレビを点けてた時だった。
巨人が人を捕食するシーンを見て、なんだこのグロいアニメは、と余計に眠れなくなった。

「よくあんな中で生きていけますね」

思ったままの言葉を口にすれば、目の前の男はより一層目を細めた。

「死ぬために生きてるわけじゃねえからな」
「……?」
「そんな事ぁどうでもいいんだよ。俺を保護するのかしないのか。……まあ、テメェには選択肢は無いようなもんだが」

言ってる意味が良くわからなかった。
異世界の人間って、意志の疎通も上手くいかないわけ?
通常の人間とは考え方とか外れてるってこと?

「なんで選択肢が無いの」

敬語も忘れてそう言えば、男はニヤリと笑った。
なんていうか……悪人的な笑みだ。
この人悪党タイプなんじゃなかろうな。

「この世界にも法律っていうモンがあるんだろ。最初に発見した人物が保護しなかった場合、それなりの罰金が課せられると聞いたが。それを払う気があるなら出てってやるよ」
「法律……罰金…………」

確かに、そんな法律も作られたな。
なんだったっけ、罰金……確か100万円。
一人暮らしの私にそんな大金が払えるわけないじゃないか……!!

「なんでそんなにこの世界に詳しいんだアンタ……」
「口の悪い女だな。知識は持っておいて損はねえだろ」
「ハア…………わかりました、一週間ここで過ごしてください」
「元からそのつもりだ」

チッという舌打ちと共に、それまで掴まれていた手が解放された。
心なしか手首がヒリヒリする。

「最初に一言言っておく。部屋の掃除は徹底してやれ。さもなくば殺す」
「殺……!!なんて理不尽な!」
「っはは、一週間の辛抱じゃねえか」

私の反応にその男が楽しそうに笑っているものだから、なんとなく毒気が抜かれてしまった。
ていうか笑うんだ、この人。

まあ、殺される事はないと思うけど……今まで以上に綺麗に掃除しよう。

「じゃなくて!働かざるもの喰うべからずですからね!アンタも何か手伝ってくださいよ」
「…………」

ビシィと指を差せば、無言で睨み続けてくる男。

「ま、間違った事は言ってない」
「……お前、名前は」
「……え?名前?」

てっきり反論が来ると思って構えていたのに、肩透かしを喰らった気分だ。

「いつまでもアンタって呼ばれるのが気に喰わねえ。俺にはリヴァイという名前がある」
「リヴァイ……」
「リヴァイさんだ、ボケ。兵長と呼んでも構わんぞ」
「お世話になる側の癖に。多分歳だってそんな変わらない癖に」
「お前いくつなんだよ」
「私?25ですけど」
「……ハッ、ガキが」

鼻で笑われた。
え、えー……!?
もしかしてこの人もっと年上なの!?
いや、年上だったとしてもこんなに偉そうな態度を取られる謂われは無いけど。

「で、名前はあんのか無いのか」
「あるよ!あります!冬野弥生という立派な名前が!」
「……立派、ねえ。まあいい。一週間世話になる、弥生」

お前は呼び捨てかよ!
そんなツッコミをする間もなく、私の日常は崩れ去っていった。

……リヴァイとかいう男の所為で。


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