逆鳥警報 | ナノ



その日、全世界に逆鳥警報が発令された。



事の始まりは何か。
発端は確か日本だったと思う。
日本の東京のど真ん中に突然現れた謎の武装集団。
警察が保護し、調べを進めていくうちにどうやら彼らは異世界の人物だ、という結論に至った。
それが全く知らない世界というわけではなく、全国に普及されているゲームの中の世界だというのだ。
そして調べはまだ終わってないというのに、他の場所からも次々と異世界からの来訪者発見との報告が。
日本だけではなく、世界各地を駆け巡るニュースとなった。

原因が何だかは一切不明であるが、共通する部分はひとつ。
誰もが皆一週間で元の世界に帰っていくという事。
つまり、その一週間のうちに何事もなければいつもどおりの日常が訪れるというわけだ。

当然ヒーロー、ヒロインだけではなく悪人もやってくる。
悪人に対しては警察が全力で捕獲に当たっているようだ。
……何人かの犠牲者は出てしまったようだけど。


逆鳥警報とは何か。
元々の語源は逆トリップの意味で、その知識に詳しい人たちが略して名づけたのが逆鳥警報。
ただの当て字なんだろうけど、どっちにしろ最初は全く以って現実味が湧かなかった。

一部の人間の中では、こちらから漫画やゲーム、映画の世界へ行く事を『異世界トリップ』、そして逆に向こうからやってくる事を『逆トリップ』と言うらしい。
確かに「他の世界へ行けたらいいな」なんて現実逃避をしたくなる時もあるだろう。
でもまさか実際にそんな事が起こるなんて、一体誰が予測していただろうか。

予測できていた所で何の対処も出来ようもないけど。


そしてそんな逆鳥警報が発令されたのは約一ヶ月前。
何人かの異世界訪問者がテレビにピックアップされていたのを見たが、それでも普通の人間と変わりの無いように思えた。
コスプレしている人みたい、なんてボーッと考えながら。

テレビを見ててもうひとつ分かった事がある。
それは、人外は現れないという事だった。
例えば、カエルの姿をした二足歩行のヤツとか、喋る女王アリとか。

人外じゃなくてもズバ抜けた力を持った者も多いみたいだが、この世界ではそれが通用しないそうだ。
例えば、気合を溜めて爆発を起こせたりとか、刀を振っただけで稲妻が落ちるだとか。

そんな不条理な力は消えてしまって、普通の人間として一週間この世界で過ごしていく。

だから余程害のある人物でない限りは、その時に居合わせた人間がその異世界来訪者の面倒を見る決まりとなった。
警察で全て保護するには数が多すぎるそうで、何も知らない一般市民がめちゃくちゃな騒動に巻き込まれるのか。
……と、思ったが、普通の人間として過ごしていくならばそんな面倒事にもならないのか。
ただ運が悪いってだけで。
もちろんその際の補助金は国が出費してくれるそうで、金銭面に乏しい人たちは逆に「ウチに逆鳥してくれ」なんて願っている人も少なくない。


道を歩けば「あ、この人もしかして異世界人かな」って思う時もあった。
一番分かりやすかったのは、人気のキャラなのだろうその人が女の子に囲まれていたからである。
私はその光景を見て一言思った。

……うわあ、面倒くさい。

と。


お願いだから、私のところには逆鳥なんてしないでくれ。
実家ならまだしも、一人暮らしを始めたばっかりのこの環境で異世界人と一緒になんて過ごしたくない。
ましてや人気キャラであれば尚更面倒臭い。

万が一何かの間違いで私のところに来ちゃったとしても、どうか影が薄くて悪人じゃない人が来ますように。




そんな私の願いは、どうやら神様は聞き届けてくれなかったようだ。


前へ |次へ
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -