チョコバナナを食べ、たこ焼きを食べ、焼きそばを食べ。 チョコバナナ以外は二人で半分こしたので、お腹いっぱいというよりは腹八分程度に収まっている。
こうしていると本当に恋人が出来た気分になる。 普通の男友達とは二人で一緒に浴衣を来てお祭りに行く、なんてことはそうあったもんじゃないよね。 ましてや、手を繋いで歩いているだなんて。
私の心臓は常にドキドキしっ放しだった。 落ち着け、一緒に寝たりもしたじゃないか。 そう言い聞かせようとしても、浴衣姿のリヴァイを見た瞬間から私の思考は惚けたものに変わっていたのだ。
その整った容姿に似合いすぎてて、かっこよすぎる。 しかも私に対しても綺麗だ、なんて言ってくれた。 自然に笑ってくれたその顔が眩しすぎて、心が暖かな光で満たされる。
どうしようリヴァイ、私、リヴァイの事がどんどん好きになっていく。
自分の気持ちがもどかしくて、なんとなしにリヴァイの手をぐにぐにと動かしてみた。 すると「何してんだ」ともう片方の手で額をピシッと叩かれた。 本来ならば怒ってる場面なのに構ってもらえた事が嬉しくて、笑いが止まらない。
リヴァイはこんな私の気持ちに気づいているのかな。 彼曰く、私はわかりやすいみたいだし。
……だとしたら、重荷になってるってことはないかな。
今日が終わればあと一日。
たった一日で、リヴァイは元の世界に帰ってしまう。
あと一日しか一緒に居れないのに、好きだと言われて困らないハズがない。 駄目だ、自分で考えながら泣きそうだ。 リヴァイには楽しい思い出を作って帰ってもらうって、そう決めたのに。 行かないで、なんて縋ってしまいそうな自分が情けない。
「もうすぐ花火が始まる時間だな」 「あ、うん。そうだね」 「見やすい場所とかはあるのか?」 「あるよ。毎年穴場スポットが。もうちょっと奥まで進むと、結構人が少なくなってくるうえに障害物がないから凄く良く見えるんだ」 「じゃあそこまで行くか。他に何か買っていく物は?」 「んー、私はとりあえず大丈夫かな。リヴァイは?」 「俺も問題ない」
正直、あと一日しかないという事ばかりが頭の中をぐるぐるしていて、食欲どころではなかった。 平気を装うので精一杯だ。 リヴァイと出会わなきゃ良かった、なんて思わない。 けど、どうして好きになっちゃいけない人を好きになってしまったのだろうか。
私は馬鹿だ。 大馬鹿だ。
失恋の痛みなんて一ヶ月で忘れたりもするが、今回ばかりは忘れられる自信がなかった。 普通に過ごしていたら有り得ない出来事の中で、起こってしまった心の変化なんだもの。 そう簡単に忘れられるものではない。
……忘れたい、のかな。
……忘れたくないなあ。
忘れたくないし、離れたくないよ。
穴場スポットに到着すると、思ったとおりに人は少なかった。 ベンチが空いていたので二人並んで座る。 さすがに今度こそ手が離れるかと思ったが、がっちりと繋がれたままだった。
「……空は、果てしないな」
ベンチに座りながら空を仰ぐリヴァイに釣られて、私も空を見上げる。
「ほんとだよねー、こうやって見てるとリヴァイの世界も、この世界も繋がっている気がする」 「そうだな……そう思うのも悪くない」 「今はこうやって隣に居るのにね」 「ああ」
手を伸ばせば、あの雲さえ掴めそうな錯覚に陥る。 しかし実際は遠すぎる程の距離がある。 私とリヴァイの世界は、遠すぎるなんてもんじゃない。
自然とリヴァイを見れば、彼もこちらを見ていた。
目が合った瞬間、再び高鳴る鼓動。 リヴァイの目が、切なそうに揺れている。
どうしてそんな顔をしているの。 どうして、そんな目で私を見るの。
駄目なのに。
絶対、駄目……なのに。
ゆっくりと近づいてくるリヴァイの顔。 その流れがあまりにも自然すぎて、私は顔を逸らす事ができなかった。
唇に暖かい温もりが触れると同時に、最初の花火が上がった。
「…………な、んで……」
言葉は続かなかった。 何故なら、離れたと同時にリヴァイが「忘れてくれ」と呟いたからだ。
「……っ、」
その言葉を聞いた瞬間、涙が込み上げてきて。 ここで泣いたら困るのはリヴァイだ。 そう思っていても、勝手に溢れ出す涙を止めることはできなかった。
伝えたって、明後日にはお別れなんだ。 リヴァイの気持ちが知りたかったけど、それを知った所でどうしようもないんだ。
もしかしたら、リヴァイ自身もどういうつもりで私にキスをしたのか分かってないのかもしれない。
…………ねえ、貴方は私と同じ気持ちなの?
次々と打ち上げられる花火を呆然と眺めながら、時間は刻一刻と過ぎていった。
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