逆鳥警報 | ナノ


ボン、ボン、と花火の上がる音に目が覚めた。


昨日はあれから浜辺を散歩した後、近隣の観光スポットに足を運んだ。
思い出に写真を撮ろうかとも思ったが、それは止めておいた。

リヴァイが居なくなったら、写真を見れば辛くなる。
形に残らない思い出は消えないけれど、心の中で想っていられるだけで十分な気がした。

「起きたか」
「あ、おはようリヴァイ」

たくさん動いて疲れていたこともあってか、気づけば一緒のベッドで寝ていた。
その経緯は詳しく覚えてない。
でも、一度一緒に寝た事もあってか、そこまで恥ずかしいという気持ちはなかった。

……冷静を保てる程度には。

「布団で寝なかったんだね」
「お前が寂しそうな顔をしてたからな」
「嘘!?」
「くくっ、さあな」

リヴァイ曰く、私が寂しそうにしてたから一緒のベッドで寝たと。
それが本当の事だとしたら、最近無意識パターンが多いぞ私。
自重できなくなってるのかな、それはヤバイ。

「ところで、さっきから聞こえるこの音はなんだ?何かが爆発しているように聞こえるが。ここは平和なんじゃないのか?」
「音?ああ、花火の事?」
「花火?」
「火薬の詰まった玉を空に打ち上げて、その飛び散る火が、夜空に花が咲いたように見えるから花火っていう名前がついたんだよ」

花火に対する勝手な解釈だが、そこまで大きく間違ってもいないだろう。

「今は朝だが」
「一般的に花火っていうのは夜打ち上げられるもんなの。でも、運動会とかお祭りとかある日には朝にも……って、あ、そうか。今日は地域のお祭りなんだ」

ひとりで納得していると、説明しろと促すリヴァイ。

夏祭りに先駆けて、毎年6月に地域特有のお祭りが開催される。
その様子は御神輿を担いだり、出店がたくさんあったり、と夏祭りと大差はない。
最後には大量の花火が打ち上げられて、お開きとなる。
御神輿の説明やら出店の説明やらをしていると、反応を見る限りどうやら既にリヴァイの中でお祭りに行く事は決定しているらしかった。

「じゃあ、折角だから浴衣買いに行こうよ。お祭りは夜からだし」
「浴衣?」
「民族衣装みたいなもの。日本人特有の和服だよ」
「民族衣装か、興味あるな」
「でしょ?そうと決まったら朝ごはん食べてー、って、これから筋トレ?」
「ああ、少し身体を動かしておく」

ベッドに入ったまま話をしていたので、まだ朝の日課が終わって無い事に気づいた。
聞けば案の定これから、ということで、私はその間に朝食の準備を。




日課をこなし、朝食も終えてからリヴァイの服を買った大型ショッピングセンターへ向かう。

その道中、既に浴衣で歩いている人も何人か見かけた。
きっと今からお祭りの準備をしに行くんだろう。
参加するだけは楽だけど、開催側は大変なんだろうなあ。
ただ参加するだけならば、お金さえあれば思い切り楽しめるんだもの。
お金が無くたって、祭りの雰囲気だけでも十分楽しめる。

毎年この時期が待ち遠しかったはずなのに、今年はリヴァイの事があってか完全に忘れてしまっていたのだ。





「さて、どうする?自分で選ぶ?」

ショッピングセンターの一階中央には、浴衣と水着の特設コーナーがあった。
今が売れ時だもんね、早いところじゃ五月にはもう出てる所もあったな。
こんなに大量の中から選ぶのは大変だなーと思いつつ、リヴァイの反応を伺う。

「俺のは弥生が選べ。弥生のは俺が選んでやろう」
「何その発言、まさかリヴァイからそんな可愛い提案が出るとは思わなかった」
「その方が面白そうだと思ったまでだ」
「確かに面白いけれども。じゃあ、そうしよっか」

最初にリヴァイの浴衣選びから始める。

男性の浴衣って色は少ないんだよねー、白系か黒系っていったら黒かなやっぱ。
見た目は若くても大人の男性だし、落ち着いた感じのシンプルなのがいいかも。

「これ、どう?」

黒地に薄い水色の流水柄の浴衣を取り出して、リヴァイに当ててみる。

「お前がそれを選んだのなら、それでいい」

何らかの反応が来るだろうと思っていたのに、返ってきたのはそんな言葉だった。

「え?いいの?拘りとかないの?」
「拘りは弥生の時に発揮するから構わん」
「あ、そうなんだ……」

普通なら人のより自分の方に拘りそうなもんだけど。
どうやらリヴァイは違うみたいだ。
当てた感じも似合っていたので、リヴァイの浴衣はこれで決まりかな。
帯は濃い紫が黒地に馴染んで良さそうだったので、一緒にカゴの中に入れる。

「じゃ、次は私の選んでね」
「任せておけ」

何枚か掻き分けて物色した後、リヴァイが引っ張り出してきた浴衣は白地に牡丹の柄。
牡丹の色は薄いピンクだったり、紅色だったり。
グラデーションのようにもなっていて、私的にも好みのものだった。

「お前のはこれだな」

手に取って確認した後、そのままポイッと投げられた。

「え、私の意志の確認はナシ?」
「確認するまでもなく気に入ってるんだろ」
「なぜわかる……!」
「顔を見てればわかる」

うう……なんか、見透かされているようで悔しい。
裏を返せば私が単純だという事ではないか。

「まあ、綺麗だなって思ったけど」
「この花は、何か意味があるのか?」
「意味……どうだろうね、あると思うよ」
「知らないのか」
「知らない」
「そうか、なら仕方ねえな」

頭をくしゃりとやられて、リヴァイは私からカゴを奪い取り、レジへと行ってしまった。
って、お金持ってるの私だし!
リヴァイだけ行ってもどうしようもないじゃんか、と思って後を追おうとすれば、浴衣の小物が並んでいる棚に一枚の紙が見えた。

そこに書いてあったのは、それぞれの浴衣の柄が持つ意味で。


牡丹=幸福


何故花の意味など問うてきたのだろう、と疑問には浮かんだものの、然程気にしなかったのに。
その文字を目にした時、言いようの無い感情が込み上げてきたのが分かった。
リヴァイはこの世界の花の名前など知らないはずなのに。
それでも、知らなくてもこれを選んでくれたという事が、ただただ嬉しかった。


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