逆鳥警報 | ナノ


昨日の映画館での出来事以降、リヴァイを見るたびに私の心臓の鼓動が少し、早くなる。

まさか、リヴァイの事好きになりかけてるんじゃないでしょうね。
冗談じゃない。
異世界人だよ?
あと五日でこの世界からいなくなっちゃう人なんだよ?

そんな人を好きになったって、待っているのは一択しかないじゃないか。


昨日の夜は、なんだか眠れなかった。
初日と同様に私はベッド、リヴァイは客用の布団で寝た。

リヴァイは、何を思って私の手を握っていてくれたんだろう。

そんな、考えても仕方の無い事が頭の中をぐるぐると回り始めて。

気づけば朝になっていた。










「ホラー映画がそんなに気に入ったんですか」
「ホラーってわけでもねえな、色んなジャンルの物を観てみたいと思った」

リヴァイが他にも映画を観たいと言い出したので、映画館もいいけど今度はレンタル屋さんに行く事にした。
正直眠くてたまらない。
映画館だったら寝たら勿体無いな、って思うけど、レンタルだったら古い作品であれば百円とお手軽だし、それならば寝たところで後悔もしない。
資金をもらってるわけだからそこはケチらなくてもいいんだろうけど。
眠気が原因で、家でゆっくりしたいと思ったのは事実だ。

映画館に拘るかなとも思ったが、リヴァイもレンタルで納得してくれた。

雰囲気で気に入ったものを3、4本選んでもらって、軽食をコンビニで買って。
それから家に帰って早速の鑑賞タイムだ。

ちなみに、リヴァイが借りてきたのはベタベタな恋愛モノと、戦争モノ、SFモノ、最後にホラー。
やっぱホラー、気に入ってんじゃん。
しかしベタベタな恋愛モノを手に取ったときには吹き出しそうになった。
だって、言っちゃ悪いけど似合わない。
恋愛するにしても非常にあっさりしてそうだし。

DVDを機械にセットして、二人でソファーに並ぶ。
最初に選んだのはSFモノだ。

始まって数分、次第に私の瞼が降りてくる。

音が煩いにも関らず、私は眠気には勝てなかった。











――

――――

――――――――――








真っ暗だ。
辺りを見渡しても、何も見えない。
自分の足場すらも、どうなっているのか良くわからない。

……ここはどこなのだろう。

この場所に留まっていると危険だ。
本能がそう告げている。
そう思うと何だか怖くなり、私は本能の赴くままに進んでみる事にした。



しばらく歩くと、突然右前方がライトアップされた。

そして。

「う、うわああああ!!嫌だ、まだ死にたくな……ッ!!」

何も聴こえなかったはずなのに、突然の叫び声。
その先に目をやれば、バリバリと口を動かす大きな生物。
それは、まるで普通の人間のようで。

異様に大きなその身体、ニタリと笑った顔。

……きょ、じん……?

頭から、食べられている。
あれは、なに?
人だ。
人が。
血が飛び散って、足も折れ曲がって、血が、あんなに……


込み上げるものを抑えて、なんとか耐えようとした。
するとその大きな生物は今度は私の方を見た。

ニタァ、と笑ったまま、手を伸ばして。



「〜〜っ!!」




逃げなきゃ、食べられる。

だけど恐怖で身体が動かなかった。

何これ、怖い、怖い、怖い

私も、食べられちゃうの?

さっきの人のように?




掴まれそうになった時、何かに思い切り身体を突き飛ばされた。

「しっかりしろ!お前っ、あ、はっ、人類の、ああっ、希……ああああ!!!!!」

驚いて飛ばされた方向を見やれば、それは私と同じ人間だった。
その場に動けなかった私の代わりにその人が巨人に掴まれて。

まだ見えている上半身だけで何かを必死に訴えている。


どうして、何でこんな事になってるの、

何で私の目の前で人が食べられていくの、


……ここはどこなの……!



「逃……げ…………」



最後まで言葉を言えず、もうその姿は見えなくなってしまった。
当然のように巨人は再び私を見据えた。



逃げろ、

逃げろ、

逃げろ。


逃げなきゃ死ぬだけだ。




でも、やっぱり駄目なんだ。
どうしても足が動かない。

何でこんなに揺れてるのかと思えば、巨人の歩く振動なんかじゃなくて。

自分の身体が、物凄く震えているんだ。


今度こそ、死ぬ。


「ひ、あっ、……」



またもや掴まれそうになった瞬間、今度は身体が浮いた。


「リヴァイ!お前さっきから何やってんだ!立体起動装置はどうした!」


……リヴァイ?

立体起動装置?

言われて自分の身体を見た。
調査兵団の制服に、装備されている立体起動装置。

…………リヴァイ……そうだ、私は……俺は、調査兵団の……?


立体起動装置に触れてみると、損傷した部分が無残な形になっていた。

「立体起動装置は、壊れた。俺はもう……」
「バカヤロウ!!弱気になるな!!リヴァイ、お前は人類の希望なんだぞ!お前が死んだら全人類を絶望させる事になるんだぞ!」
「……違う、そんなんじゃない」
「違くないだろ!誰よりも強いお前が希望を捨てるなよ!!」
「違う、強くなんか……」


違う、強くなんかない。

私は、私は違う、リヴァイじゃない!

こんな世界なんて知らずに普通に生きてきただけのただの人間なのに。





……これが、……リヴァイの見てきた世界だというの……?





「俺の装置を使え、お前なら出来る」
「何を、やれと……」
「まさか!作戦を忘れたのか!?オイ、しっかりしろ!今はそんな場合じゃないんだぞ!」

カチャカチャと音を立て、自分の装置を私のそれを交換する兵士。

遠くからは巨人の足音がいくつも聞こえてくる。
周りは闇に包まれたままだ。


どうして、貴方は私のために自分の装置を譲るの。


こんな恐怖の中で私に何をしろと言うの。


「これでよし、さあ、行ってくれ!」
「…………無理だ……、無理だよ」
「何故だ!本当にどうしたってんだよリヴァイ!!」
「違うよ、私はリヴァイじゃないんだ!」
「何を言って……っ!囲まれ、た!!早く!時間が惜しい!!」

そう叫んでいる間にも、無防備のまま巨人へと突っ込んでいく兵士。

なんで?

この装置がないと敵うわけがないんじゃないの?


ふ、と後ろに気配を感じた。

その直後、強い衝撃を受けて、身体が浮いた。
突き飛ばされたわけではない。
下を見れば、大きな手。

恐る恐る振り向けば、ニンマリと口を開けている巨人の顔。



「あ、あ、あああああああ!!!!!」


怖い、怖い、怖い

死ぬ、死んじゃう


「…………い、」


嫌だ、まだ死にたくない


「や、だっ、怖い……!!」

「……い、おい、オイ!!起きろ弥生!!」


口の中に放り込まれるその瞬間。
ぎゅっと目を瞑ったはずなのに、目がバチッと開いた感覚がした。

そして、視界に入るのはいつもの自分の部屋。



…………夢、だった……の……?


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