8
やってきました、すごろく場。
マスの大きさは結構なもので、進むにもちょっと疲れるんじゃないかって思う程度には広かった。

「ようこそ、すごろく場へ。ここではお一人様ずつでしか遊べません。すごろく券はお持ちですか?」

気の良さそうな若い兄ちゃんが店番――店番と言っていいのかわからないが――らしく、入ってきた私達に話しかけた。
他に客は見当たらないんだが、すごろく場は栄えているわけではないのだろうか。

「おひとりさま……?これって一人ずつしか入れないのか?」
「あれ、言わなかったっけ」
「聞いてねえぞ」
「おや、影山クンは一人で進むのが怖いんですかぁ」
「はぁ?んな意味で言ったんじゃねえだろうが」
「ああ、なるほど」
「お前も納得すんな!」
「った!

冗談で乗っただけなのに。
何故私ばっかり毎回叩かれるんだ、叩きやすい位置に頭があるとか言ったら蹴りいれるぞ。

「暴力はよくないんじゃないかなあ」
「っ、誰のせいだと……!」

ツッキーの挑発に影山の右手がぶるぶる震える。
ツッキーも殴られてしまえばいいと思うんだ。
何故私ばっかり。

「お客さん、やるの?やらないの?」
「あ、やりますやります!はい、これチケットね!とりあえず三枚渡せばいいんですか?」
「三人とも入るなら三枚ね」

その言葉に二人の顔を見上げると、もちろんだ、という様に頷く。
三枚のすごろく券を渡すと、店番の兄ちゃんは満足そうに『確かに』と受け取った。

「じゃあ誰から行く?……っとと、その前にこれ、二人に渡しておく」
「ああ、森永は回復呪文使えるもんな」
「そうそう。だからこれは二人で使って」
「ドーモ」

自分の持っていた薬草と毒消し草を二人に半分ずつ渡した。
回復呪文の使えない二人は素直に受け取ってくれたので安心だ。

「呪文を使えても体力少ないんだから、無理なんてしないでよね」
「言われなくても無理しないよー、そのかわり二人とも頑張ってよね!」
「それこそ言われなくても、だっつの。とはいえ俺もそんなに体力のある職業じゃないみたいだしな、月島に期待だな」
「うわ、変なプレッシャーきた」
「そんじゃ、そんな月島クンから一番に行ってもらいましょー!」
「はいはい、行ってあげますよ」

ツッキーの背中を押すと、押すな、とでも云う風に逆に体重をかけられた。
いつでもどこでも嫌がらせが出来るなほんとにこの男は!

店番からサイコロを預かって、けだるそうに振る。
出たマスまで進むと、またサイコロが現れて振れるようになるという仕組みらしい。
進んだ先で魔物が出てきたら嫌だなと思う反面、ちょっと楽しそうだ。
それに魔物が出てこないとレベルアップにも繋がらないから、出てこないのも困るか。

「そしたら次、影山行く?」
「ん、俺は最後でいいよ」
「え、なんで?」
「お前がミスした時に先に行っちゃったら助けてやれないだろ」
「……!影山、私ちょっと感動した……!」
「はいはい、いいから先行ってくれ」
「うん、じゃあお言葉に甘えて先に行きます!」

ぶっちゃけお一人様専用のすごろく場だからさ。
ヘマしたところで自分のケツは自分で拭くしかないわけであって。
でもそれを知らないからこそ影山はああやって言ってくれたんだよね。
ならばその気遣いをぶち壊すこともあるまい。
そう思って店番の兄ちゃんにサイコロをもらった。

なるべくいい目が出ますよう……にっ!

思い切り振ったサイコロは、マスの端にガコンと当たる。
出た目は四。
四マス目を目指して進むと……おお、早速宝箱のマスに当たった。
幸先良いな、と思いつつ宝箱を開けると、中に入っていたのは聖なるナイフ。

聖なるナイフかあ、きっと山口がロマリアでもっと良い武器を仕入れてくれたと思うんだよね。
とりあえずこれは売却決定かな?
まあ、こんぼうよりはマシだから今のうちは装備しておこう。


この第一のすごろく場のサイコロの上限は10回。
大体すごろく場ってサイコロの回数が足りなくなって終わっちゃうんだよなあ。
出来るだけいい数が出るように頑張らねば。
といっても、サイコロなんて運次第なんだけど。
ギャンブルを生業としている方々なら狙った目を出すのなんて朝飯前なんだろうけど、真っ当な一般人である私にはとてもそんな芸当できやしない。

そして今回が5度目だろうか。
良かったのは最初だけで、後はちまちま進んでいた私はいつの間にか影山に追い抜かされてしまった。
抜いていく瞬間の影山の残念そうな顔ったらない。

出た数字は二。
ニマス先は……ああ、うん、やっちまったなあ。
私の見間違いじゃなければあれはきっと落とし穴のマスだ。
あれだけデカデカとある解りやすい落とし穴なんて珍しいよね。
『落とします!』って言ってるようなもんだ。

嫌だなあ、あれ行かなきゃいけないのかなあ。
ニマス後ろに戻れないかしら、なんて後退しようとすると、足が後ろには動いてくれなかった。
一体どんな仕組みなんだ……魔法がかかってるにしても酷い。
仕方なしに覚悟を決めて落とし穴のマスへと進む。
きっと落ちる瞬間はナジミの塔のてっぺんから落ちた時みたいになるはずだから、怖くない。
怖くない……!


「ひゃあ!!」

自分から落ちるのと、落とされるのはやっぱり違うわけで。
情けない悲鳴を残し、私の体はすごろく場から消えた。

ドスッ
「ぐえっ」


鈍い音と、蛙のつぶれたような声が響く。
ひとつ断っておくが、この蛙の潰れたような声は私ではない。
ということは……

「森永、お、もいッ!」
「うわっ!ごごごごごめん影山!!」

先に穴から落ちていたんですね、影山くん。
私と同じ運命を辿ろうとは……合掌。

「なんだよお前も落ちてきたのか」
「そういう影山だって落ちたんじゃないのよ」
「すごろくなんて運なんだから仕方ねーだろ。ていうかせっかく先に行かせたのに結局俺より進み悪いし」
「それこそ運なんだから仕方ないじゃない!」
「…………まあ、なんだ。こんなところで不運争いをしてても無駄だな。再挑戦、出来るんだろ?」

影山は先に立ち上がり、私の手を引っ張って起こしてくれた。
さり気無い紳士だな。

「うん、券さえあれば何度でも挑戦できるよ、あそこの階段上ればさっきの場所に出ると思う」
「よし、じゃあ行こうぜ」
「おっけー」

再挑戦するべく、私と影山は階段を上って再び店番の前へ。

「アレ、二人とも何処行ってたの」
「落とし穴から落っこちた」
「同じく落っこちた」

サイコロの回数が終わってしまったのだろうか、ツッキーがスタートの位置に立ち、私達を見て『ププッ』と笑っている。
あれ、でもすごろく券は全部私が持っているはず。
ならなんでツッキーはスタートに立っているんだろうか。

「そう言うツッキーはなんでそこに立ってんの?大分先に進んでると思ってたんだけど」
「………………振り出しに戻されたんだよ」
「てめっ、人のこと言えねえじゃねえか」
「落とし穴よりマシだと思うけど。とりあえず残り回数分振ってくるからさ、戻ってくるまでそこに居てよね」

振り出しに戻されるも落とし穴も似たようなモンだと思うけどねえ。
まあ、回数残ってるだけ振り出しのほうがまだマシなのかもしれない。
結局ツッキーは残り回数を使い果たし、入り口まで強制送還されてきたので再び三枚のすごろく券を店番に渡して、先程同様の順番で挑んだ。





「よっし、ゴール!」
「おおおお」
「マジか……!」

ゴールしたと思われるツッキーの叫び声が、遠くから聞こえた。
ちなみに、私と影山が居るのは入り口である。

あれから何度かサイコロを振った後、私は再び落とし穴に落ちた。
今度は影山が先に落ちてるというミラクルな出来事はなかったので、変な悲鳴を上げながらも着地は普通にふわっと降りることができた。
そして影山はサイコロの残数がなくなって、最初のツッキーのように強制送還でここに居る。

それにしても、まさか二回目でゴールへたどり着くとは……!
きっとツッキーは運のポイントが高いに違いない。
それならば遊び人は運が良かった気がするから、旭さんだったら一発クリアしてたのかもしれないな、なんて思ったが……魔物と出会ったらそう簡単にもいかないか。

叫び声からしばらくして、ツッキーが階段から上ってくる姿が見えた。

「おかえりー!景品ってなんだった?」
「鋼の剣と500ゴールド」

はい、と手渡されたその剣。
手になじむ感触からして、どうやら私には装備可能なようだ。

「ツッキーには装備できないの?」
「そうみたい。だから森永にあげるよ」
「あ、ありがとう!じゃあこれ、聖なるナイフ使う?」
「いや、僕は途中で手に入れたブーメランがあるから大丈夫。影山にあげたら?」
「そんなものまで手に入れてたとか……すごいなツッキー。じゃあ影山、これどうぞ!」
「お?ああ、さんきゅー」

早いとこ杖とか手に入れたいよなー、とかなんとか言いながらも影山は聖なるナイフを受け取ってくれた。
私も鋼の剣を装備できるのは嬉しいし、有難いことなんだけど。
やはり僧侶なら僧侶らしく杖で呪文を使ってみたいものだ。
それにしても盗賊も剣の類を装備できそうだと思ってたんだけど、違ったのか。
アサシンダガーとか短剣だったら装備可能だったかな?

「とりあえずすごろく場はもうこれ以上用事ないんだろ?まだ少し時間があるから、ロマリア近辺で経験地稼ぎとゴールド稼ぎでもするか?」
「そうだねえ。どうせ帰っても何もする事ないだろうし」
「じゃあ明日の下見ってことで、シャンパーニの塔付近まで行こうよ」
「うし、じゃあ行くか」
「りょーかい」

明日は誰がシャンパーニの塔へ行くかはまだ決めてないけど。
それでも行っておく事は無駄ではないだろうと思って提案したのだが、二人とも素直に賛同してくれた。

最初の頃にギスギスした空気が漂っていたのがほんと、嘘みたいだ。
今でも嫌味を言ったりイジッたりすることはあっても、こうやって連携が取れてるところを見ると、ちゃんとチームメイトで仲間なんだって思える。

どんなに反発しあっても、一度認めちゃうとすんなり自分の中にその人の存在が入ってくるものなのかもしれない。
私も男の子に産まれてたら、みんなの仲間として入れてもらえたかな。

男の子って羨ましい。

そんな風に思っていると、私の顔はニヤニヤしていたようで。
変な顔してっと置いてくぞ!と影山に言われ、慌てて二人の後を追いかけた。


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