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「こっちの宝箱もからっぽじゃん」
「てーことは日向達はくまなく探検しつつロマリアに向かったんだねー」

残念そうに空の宝箱を見つめるツッキー。
盗賊という職業柄、宝箱を発見したときの目が輝いていたのに今ではその瞳が曇ってしまった。
影山もガッカリした様子だが、ツッキーのほうがガッカリ度が高そうだ。

「まあ、あっちには主将も縁下さんもいるから……しっかり考えながら進んでんだろ」
「山口もいるよ!」
「わかってるよ、別に山口が使えないとかそういう意味で言ったんじゃねぇよ」
「あ、そうなの。なら安心した」

山口だってやれば出来る男なんだからね!
優しいし、何度かマネジの仕事手伝ってくれたこともあるんだから。
だからそんな山口の名前が出てこなかったのが少し寂しくて口を挟んだ。
そんな影山と私の会話をツッキーは呆れた表情で見ていたけど、ツッキーだって山口にもう少し優しくしてあげたらいいんだ!

「それだけしっかり探索しながら進んでいるにも関らず、魔物は止め処なく出てくるって……どういうシステムなんだろうな」
「魔物精製機でもあんのかねー」
「森永、やっぱバカなの?そんなのあるわけないじゃん」
「どうせバカですけど……」
「魔物精製機っつーよりも魔王の力でどっかの空間から送り込まれてるっつー方が信憑性あるよな」
「おや珍しい。意見が合うじゃないか」
「だって魔物精製機はねぇよ」
「だよねえ、ないよねえー」
「二人が私をバカにしたいのは良くわかった。わかったからもうこの話は止めましょうぞ」

この二人の気が合うと口じゃ勝てないから嫌になる。
助けて山口!ツッキーの保護者だろ、どうにかしてくれ。
この場に居ない山口にそんな念を送ってみるが、反応などあるわけがない。
ドラクエにテレパシー系の呪文があればいいのに。






いざないの洞窟を抜ける頃には大分経験地もゴールドも増えた。
だが、私はひとつ大事なことを見落としていたようだ。

「あのさー、すごろく券なんて……持ってないよね」
「「持ってない」」
「ああー、やっぱりな!すごろく券がないんじゃすごろく場に行っても何もできない……!」
「どっかで手に入れないと駄目なのか?」
「すごろく場なんて言うからてっきり持ってるのかと思ったのに……やっぱり森永はバカだ」

この日何度目のバカという言葉を言われただろうか。
でもこればかりは言われても仕方がない気がする。
ていうかツッキー、気づいてたなら一言聞いてくれても良かったのに……なんて責任転嫁したって仕方ない。

「すごろく券はね、民家のタンスとかツボとか、そういったところに落ちてたりするんだよ。ドラクエは民家のタンス、ツボ、タル、袋を漁って道具や小金を手に入れるのがセオリーだったから」
「それじゃ泥棒じゃん」
「でもそういうゲームなんだもん」
「じゃあ盗賊である月島に盗ってきてもらうってことできねえの?」
「僕は盗賊であって泥棒じゃないんだけど」
「似たようなもんじゃんか」
「似てない、一緒にするなよ」

まあ、確かに盗賊と泥棒は違うよね。
ツッキーに盗んできてくれとは言えないし……ロマリアの民家で譲ってもらうように交渉するしかないか。

「とりあえずロマリアまで行こう。そこに住んでいる人で持っている人がいれば譲ってもらえないか交渉してみるよ」
「おお、じゃあロマリアに行ってから手分けして探してみるか」
「不本意だけどそれしかないね」

正攻法ではないが、これですごろく券が手に入ればいいな、と思う。
ゲームじゃなく実際に動いている人達の前でタンスやツボを漁るわけにもいかないしね。
きっとそんなことしたらこの警備兵に捕まること間違いナシだろう。

そうと決まれば早速ロマリアへ。
洞窟から出て北へしばらく進むと、壮大なお城が見えてきた。
きっとここがロマリアだろう。
ゲームではお城の画像なんて全部一緒なのだが、実際はそれぞれ違った建物になっている。
アリアハンのお城も豪華なものだったが、ロマリアもこれまた圧巻、である。

城下町も結構な広さで、到着と同時に手分けしてすごろく券探しに出かけることにした。
集合場所と大まかな時間を決め、三方向へバラバラに歩き出す。

仕方ないとはいえ、正直一人でうろつくのは心細かった。
この世界に来たのは日向以外みんな一緒だったし、行動する時はグループ行動だったから一人になることはなくて。
城下町だから然程心配することもないのだが、そこは私も乙女だったということだ。
自分で言ってて気恥ずかしくなったので、気を取り直して街中を歩く。
進んだ先に目に飛び込んできたのは武器・防具屋。
手当たり次第行くべきよね、と思い、お店の扉を開けた。

「あれ?史香ちゃん」
「お?山口!どうしたのー??」
「日向達が王様に会いに行ったんだけど、ホラ、俺は武器や防具を買ってきて欲しいっていうのも頼まれてたでしょ。だからこの時間を利用して色々仕入れをしているとこ」
「忠実に頑張ってくれているということですね!」
「うん、まあそういうことかな。そういう史香ちゃんはどうしてここに?ツッキーと影山は一緒じゃないの?」
「私達はすごろく場に向かおうとしてたんだけど、直前になってすごろく券を持ってないことに気づいてさー、今手分けして探しているとこ!」
「ああ、それならこれあげる」

はい、と手渡されたのは捜し求めていたそれ、すごろく券だった。

「え!なんで持ってんの?」
「道具屋の近くに置いてあったタルを何となしに覗いてみたら入ってたんだよね。あとこれも」

ポケットから出して見せてくれたのは、なんと小さなメダル。
ていうかタルの中ってやっぱりそういうものが入ってたりするのか。
そして山口さすがドラクエ経験者だ、目ざといな!

「他にも探してみたら色々見つかりそうだね、流石に民家のタンスとか漁るのは無理だろうけど、今後外に放置されているタルとかツボとかは注意して見たほうが良さそうだ」
「ああ、やっぱ民家は駄目かぁ」
「史香ちゃん、まさか……」
「やってないよ!まだ!」
「まだ、っていうことはやろうとしたんだね」
「…………試してみようかな、とは思ってた」

へへ、と笑うと、山口からは苦笑が返ってきた。
やはり民家は駄目ですか、わかりました、地道に探す事に致します。

「嬢ちゃんはすごろく券が欲しいのかい?」

それまで私達の会話を傍観していたであろう店の主人が突然話しかけてきたものだから、思わず体がビクリと動いた。

「はっはっは、話に割り込んでしまってすまねぇな!兄ちゃんの仲間なんだろ?そこの嬢ちゃんは」

その言葉に顔を見合わせる山口と私。

「「はい、仲間です」」

同時に出た言葉に思わず笑った。

「そんなら尚更だ。兄ちゃんが大量に色々買い込んでくれたお礼にこれやるよ」
「え、これ……」
「すごろく券、欲しいんだろ?」

主人から渡されたのは10枚近くもあるすごろく券。
突然こんなに渡されたものだから、驚きを隠せない。

「俺はすごろく場には興味ないんでね、いいからもらってくれよ。それにしてもアレだ、嬢ちゃんがすごろくに挑むのかい?」
「あー、まあそうですね。私だけじゃなくて仲間も挑戦すると思いますけど」
「そりゃご苦労なこった。くれぐれも気をつけて挑戦してくれよ!」
「はい、ありがとうございます!」

満面の笑みでお礼の言葉を贈り、山口と一緒に店を出た。

「あのおじさん凄くいい人だったねー!」
「うん、俺が買う時も色々まけてくれた」
「そういえば大量に買い込んだって言ってたけど、その物はどこに?」
「ああ、何かルーラ便を使ってアリアハンへ送ってくれるって言ってたよ。便利だよね、ルーラ便なんてさ」

メール便ならぬルーラ便て。
ゲームに忠実なのかそうじゃないのか良くわからなくなってきた。
出来る範囲のことは全て有り得ることってか?
世の中不思議がいっぱいだ。

確かにルーラ便なんて便利だよね、一瞬にして荷物を運べちゃうんだから。
今後どんなに大量の買い物をしても問題ないってわけだ。
ひとつ勉強になった。

「そしたらこれだけすごろく券が手に入ったわけだし、とりあえずツッキーと影山と合流してすごろく場に向かうよ」
「うん、じゃあ俺はもうちょっと街中を探索してくる。史香ちゃん、本当に気をつけてね」
「ありがとう山口!おかげで助かったー!」
「俺はみんなのお金で言われたことをやってただけだよ」
「それでもいいの、感謝させてよ」
「うん……じゃあ、どういたしまして」

にへら、と笑う山口の微笑みは癒し以外の何物でもない。
さっきまで目つき悪いコンビと一緒に居たものだから尚更天使のようにも見える。
その目つき悪いコンビとまた合流しなきゃならないんだけど。
常に目つきが悪いってわけじゃないんだけどね、山口と比べたらね。
言わずもがな、ってやつだ。



山口に手を振ってその場を離れ、散らばっていった二人を探しに行く。
城下町だから人は多いが、二人とも身長も高いし格好も目立つだろうからすぐにみつかるだろう。
案の定5分くらい歩いたところで影山を発見した。

「かげやまー!」
「森永!見つかったのか?すごろく券」

小走りに近づくと、影山はすぐにこちらに気づいてくれた。

「見つかったっていうか、武器屋のおじさんにもらった!」

山口との経緯を説明すると、なるほど、と納得した影山。
そしてすぐさまツッキーを探しに行こうという流れになったあたり、話が通じるのが早くて助かる。
影山がドラクエ経験者だったら主導権を握っているのはこの人だったかもしれないな、なんて思いながら先を歩く影山に遅れないようについていった。

しばらく探して無事にツッキーとも合流を果たし、ようやくすごろく場へ向かってロマリアを出発することになった。


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