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夕食後、少し休憩時間をとって。
この後は報告会とのことだったのだが、夜は酒場が営業中なのでなんとお城の会議室を借りれることになった。
学校の会議室を借りるみたいに簡単に貸してもらえちゃったので、結局この世界は軽いノリで大丈夫なんだな、とか思った。

お城に入ってからは兵士の人に案内されて。
みんな最初はお城の中をキョロキョロと見渡して感動している様子だった。
そんな中、日向が割と大人しいなと思ったら……そうか。
日向はお城に来るのが二度目なんだったっけ。



「よし、皆座ったな。それでは報告会を始める。まずは日向達の今日の成果を」

主将はスガ先輩ではなく、日向を促しているようだった。
代行とはいえ勇者だしね、日向にも自分が何をしなきゃいけないのか理解してもらおうとの事だろう。

「はい、ええと。ナジミの塔を攻略し、とうぞくの鍵を。それからレーベの村で魔法の玉を手に入れました。明日は魔法の玉を使ってロマリアへ行くそうです!」
「うん、順調で何よりだ。次は西谷達はどうだった?」
「俺達は基本的にレベル上げ……っていうよりも道具とお金稼ぎしてました」

ノヤ先輩の話によると、商人である山口と一緒に行動をしていたためにモンスターを倒した時に普段よりもゴールドが稼げたこと、盗賊であるツッキーも居たので、モンスターから道具を盗んだりして結構な成果を得たそうだ。
そして主将たちのチームは旭さんのレベル上げを中心に、アリアハン付近の探索を。
こちらもそこそこ経験値とゴールドを稼ぎ、旭さんのレベルはあれからまたふたつ上がったらしい。
これならレベル20に到達する日も遅くは無いな、と思った。
ダーマ神殿に到着する頃には余裕かな?

今後は余程のことがない限り毎日夕食後に報告会という名のミーティングが行われることになった。
みんなでやるからには情報の共有は必要だし、一人ひとりの体調チェックなどもあったほうがいい。
知らない世界での不安は出来るだけ解消しておいたほいうがいいもんね。
ルイーダの酒場の私達の部屋が完成したら、その内のどこかの部屋に集合する形になるみたいで、このお城の会議室を使わせてもらうのはそれまでの期間ってこと。

「では明日についてなんだが、森永はどう考える?」
「明日は……そうですね、ロマリアに行って王様に謁見するでしょうから今回も日向にはメインで進めてもらうことになります」

日向には主将とチカちゃん先輩、それから山口についていってもらい、山口にはロマリアで何か良い武器を安く買ってこれるようにお願いした。
商人ってことで値切りも上手いだろうと思ってのことだ。
魔法の玉はチカちゃん先輩と山口がいるから使うのにも困りはしないだろう。

で、旭さんはレベル20になるまでは頑張ってほしいのでノヤ先輩にサポートしてもらおう。
そしたらスガ先輩と田中先輩にも一緒に行ってもらおうかな。

ツッキーには申し訳ないが、今回も残りメンバーとなってもらう。
そして影山と私も残留メンバー。

残留とは言えども、好き勝手に移動してみたいと思っているからルイーダの酒場に残るつもりはないけれど。

自分の考えをみんなに伝えると、反論してくる人は居なかったようで安心した。
今日持ち帰った分の道具やお金の振り分けは明日でいいだろう。
実物をここまで持ってきたわけではないし、今分けたところでどうしようもない。

「では、今日のところはこの辺で終わりにしよう」

主将の言葉にも全員が賛同したので、初日の報告会はこれにて終了となった。
酒場の上に自分達の部屋が出来るまでは、それぞれ宿屋の指定された部屋へ向かう。
寝床が用意されてるだけ有難いというものだ。
最悪野宿とか考えたりもしたけど、今までの様子からして余程のことがない限りそれは大丈夫だろう。

日向の場合はアリアハンに勇者の家があることだし、そこで休んでも良かったみたいだけれど。
本人がみんなと一緒がいいと強調したので本人の意思が汲まれることになった。









「で、今日僕達はどうすんの」
「どっかに金稼ぎに行くのか?」

既に出発したほか二つのグループを見送って、残ったのは予定通りツッキーと影山と私。

「うーんと。日向達がロマリアの王様に謁見している間にシャンパーニの塔に行って、冠取り返してきてもいいんだけど……シャンパーニの塔への到達レベルはこれだとちょっと足りないしなあ……」
「シャンパーニの塔?もしかして僕ら三人でカンダタと戦うつもりだったの?」
「カンダタって誰?」
「最初にぶち当たる中ボスみたいなヤツ。少なくとも戦士がいないとキツイって思えるようなヤツだよ」

影山の問いに答えるツッキーは、入学当初に比べて大分雰囲気が柔らかくなったと思う。
意地悪なところに変わりはないけど。

「影山のレベルは到達レベルに達してるし、シャンパーニの塔で魔物退治していけばそれなりに私達のレベルだって上がるだろうし。戦士がいなくても結構いい戦いが出来ると思うんだよね」
「まあ、戦うからにはちゃんと勝てる万全の体制でいくつもりなんだろうけど……まさかそう来るとは思わなかった」

ハァ、と、お決まりのため息を頂きました。
ツッキーからもらったため息の数はもう数えてられない程だ。
以前『ツッキーの幸せ逃げまくりだね!』なんて言ったことがあったが、頭をスコンと叩かれた覚えがある。

「もしそのシャンパーニの塔ってところに行かないとしたら、どうしようと思ってたんだ?」
「すごろく場があればそれもいいかなって」
「すごろく場?」
「あれはファミコン時にはないシステムデショ。これはファミコンからこっちの世界に来たわけだし、すごろく場はないんじゃないの?」
「だよねー、やっぱツッキーもそう思うか。あ、すごろく場ってのはね、サイコロ振って出たマス進んで魔物と出会ったり武器や道具みつけたりする……体の張った遊び場なんだよ」

すごろく場のシステムを知らない影山にそう教えると、引きつった笑みを浮かべていた。
きっと体を張った、という部分が引っかかったのだろう。
しかもアレ、お一人様専用だしね。

クリアするといい武器が手に入ったりするんだけどな。
ツッキーの言うとおり、ここはファミコンから来た世界だし……すごろく場は設置されてないんだろう。
となると、やはり最初に戻ってシャンパーニの塔に登るか。

「じゃあとりあえず私達もいざないの洞窟を抜けないといけなくなったって事だな…………いやいや、ちょっと待って!やっぱりすごろく場、あるんじゃない?」
「?その根拠は一体どこから」
「だってさ、ツッキーって盗賊じゃん?ファミコン版には盗賊って職業なかったハズだよ!」
「…………ああ」

言われて思い出したようだ。
そうだ、確かに盗賊が職業として仲間入りしたのはSFC版からだったはず。
いくらこの世界にファミコンを通じて来たとしても、盗賊という職業がある限りすごろく場の可能性だってあるはず。

「どうせ日向達はロマリア王に謁見したらそのカンダタってヤツを倒しに行くんだろ?」
「王様に頼まれるはずだから、多分ね。ただ日向のレベルだと今日中には無理だと思うけど。多分シャンパーニの塔に入ってレベル上げして帰ってくるような気がする」
「そんならまあ、カンダタは明日でもいいんじゃないの。僕らはすごろく場探してみる?」
「うん、折角だからそうしよう!でも結局すごろく場もカザーブ……ロマリアへ行ってから行く場所だったと思うから、どっちにしろいざないの洞窟は抜けなきゃならないね」
「そうと決まったらさっさと行こうぜ」

すごろく場に向かう事になった私達は、先に行った日向達を追っていざないの洞窟へ。
場所はレーベから東だったと記憶しているので、まずはルーラでレーベへ向かう。
私がルーラを使おうとすると、影山が俺に任せろと言ってきたので素直に任せることにした。
勇者じゃないのに俺に任せろってどうなん。
心の中でそう思ったが、呪文を唱える事が楽しそうだったので口には出さないでおいた。

レーベに到着し、それから東へ向かってフィールドを歩く。
緑の草原をひたすら歩き続け、たまに岩山の影から魔物が出てくるのでそれを倒しつつ、地道に経験地とゴールドを稼ぎながら。

魔法が使えるのは大分ラクだった。
武術だと基本的には一匹ずつ仕留めていかねばならないが、魔法だと一気に蹴散らすことができる。
魔物には悪いけど、ちょっとしたストレス発散だと思えば楽しくなくもない。
これがどんどん手強くなってきたらそんな余裕も吹っ飛ぶんだろうな。

そうやってしばらく歩き続け、それらしき場所へとたどり着いた。
入り口の壁が破壊されていることから、日向達は無事に魔法の玉を使って先へ進んでいることが伺える。

「では、私達もさっさか突破しようではないか!」
「何キャラだよそれ」
「どうでもいいから行くよ」

影山のツッコミが無かったら少々寂しい思いをしているところだよわたしゃ。
どうでもいいとか酷いよツッキー!

「そういやツッキーはとうぞくのはなはまだ使えないんだっけ?」
「んー、まだ出来ない」

鼻をひくひくさせてみせるツッキーはなんていうか……うん、可愛かった。
しかめっ面でやってみせるんだよ、本人自覚ないんだろうけどさ。
笑ったら絶対怒られるから我慢するけど!

「とうぞくのはなって?」
「フロアにある宝箱の数を嗅ぎわけることの出来る、盗賊の凄い技だよー」
「へえ!そんなのあるんだ、凄ぇな!」
「これは盗賊であるツッキーだけの特技だからね!」

えへん、と威張って言うと『なんで森永が威張るんだよ』とツッキーにゴツリと殴られた。
結局殴られるんだったらさっきの鼻ひくひくの時も笑ってやればよかった、ちきしょう!

「とりあえずここを進めばいいんだよな?」
「そういうこと!ナジミの塔よりは強い敵が出てくるから、気をつけて。確か毒を持った敵も居たはずだから」
「そういう森永が一番危なっかしいって知ってる?」
「月島の言うとおりだな。一番危ないのはお前だ、森永」
「ええ、ちょっと何でよ!予備知識がない影山が一番危ないんじゃないの」
「身体能力の問題だよ、戦闘においては」
「私が鈍臭いっていうのか!」
「「…………」」

二人とも無言の後、軽く目を逸らした。
そこまで鈍臭いつもりはないぞ、私。
鈍臭かったらマネジなんて出来ないだろおおお!誰が日々のフォローしてると思ってんだ!

「足手まといにならないように気をつけますゥ」

わざと嫌味っぽく言ってやれば、二人は肩を震わせて笑いを堪えている様子。
……からかわれたんですね、これは。

伊達に賢者やってんじゃないんだからね!
自分で選んだ職業じゃないけど、賢者は賢者なんだから!
凄い呪文がいっぱい使えるんだから!
いつか二人に『森永は頼りになるな』って言わせてやる。

未だ笑いを堪えている二人の間を通り、私は洞窟の先へとずんずん進んだ。


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