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「せせせせ、せんぱい!!どうしよう!!ひなたが!日向が落ち、落ち、落ちちゃった!!」
「やばくないか!?これやばくないか!?」
「あわわわわ日向……!!」

スガ先輩と田中先輩の服を掴んでガシガシ揺らしても、二人共動揺しまくっていた。
まじで、キメラの翼で先に帰ったんならともかく、塔の最上階から落ちたとか……!!
私まだザオリクもザオラルも使えないんだけどぉぉ……!!



「……−い、お……−い!」


「……?今、日向の声が聞こえたか?」
「俺も聞こえました」
「私も……」

扉の外を恐る恐る三人で覗いてみると、そこには元気にブンブンと手を振っている日向が。

「え!何で!めっちゃ元気そうじゃん!!」
「アイツ、魔法じゃなくて超能力が使えんのか!?」
「いやいや田中、ドラクエ世界に超能力はないから!!しかし何で……!」

こんな高い場所から落ちたらひとたまりもないはず。
それなのに日向は落ちても怪我も全くない様子で元気に、というよりも寧ろ嬉しそうに手を振っている。
塔の最上階から落ちて何が嬉しいんだ……!

「……?……あ!これ、もしかして落ちても大丈夫なのかな」
「「!?」」

スガ先輩までご乱心!?

「いやいや何言ってんスか、スガさん!こんな高いところから落ちても大丈夫なわけないでしょ!」
「そうですよ、スガ先輩!!落ちたらとんでもな…………あ?大丈夫、なのかな?」
「おお!?史香まで!一体どうしたっていうんだ俺にはわからんぞ!!」

スガ先輩の言葉で気づいたけど、もしかしたら本当に落ちても大丈夫なのかもしれない。
そういえばゲームでは塔の落ちれる場所から普通に落ちて一階に戻ってたりしたっけ。
そのシステムが適用されているのであれば、日向が無事だったのも納得がいく。

「ひなたー!!落ちたときどんな感覚だったー!?」
「えっとねー!!ふわっと浮いたかんじー!!」
「「やっぱり」」

おもわずスガ先輩と目を合わせて、同時に言葉を発した。
田中先輩だけはずっとわけわからんという顔をしていたが、これは説明するよりも実践したほうが早そうだ。

「田中先輩、私先に落ちますから。それを見て大丈夫だと思ったらスガ先輩と一緒に落ちてきてください」
「落ちるとか落ちてきてとかってお前、その台詞おかしいだろ」
「それがこの世界ではおかしくないんですよ、多分。じゃあいきます……ねっ!!」
「あっ!!史香!!」

飛び降りた瞬間はもの凄いスピードで。
あっという間に田中先輩の叫ぶ声は風の音にかき消されてしまった。
地上の日向目指して位置を定める。

「フミちゃん、こっち!」

日向が手を伸ばしてくれる。
日向との距離が縮まった時、体がふわっと浮いた。

「!」
「大丈夫、そのままそのまま……よっ、と!」
「わ!ありがと、日向!」
「へへ、どーいたしまして!」

着地する瞬間、日向が手を掴んで体を支えてくれた。
これはまるでリアル紐無しバンジーのようだな。
それで日向はこんなにも嬉しそうな顔をしているのか。

「田中せんぱーい!!スガせんぱーい!!!だいじょうぶでしたー!!!」

塔の最上階に向かって叫ぶと、スガ先輩が田中先輩の背中をドンッと押した。
うわあ、強攻策かスガ先輩……。

「おわあああああああああああ…………あああ……あ?」

田中先輩も私達に近づくと、ふわりと体が浮いて。
そして田中先輩のすぐ後に飛び降りてきたスガ先輩も、無事に着地。

「なんだこれ!すげえな!!」
「ですよねー!!おれ楽しかったです!!」
「大丈夫だってわかっててもちょっとヒヤヒヤしたけどな」
「その割にはスガさん、俺のこと突き飛ばして酷いっすよ!!」
「いやだって、そうでもしないとお前踏ん切りつかなそうだったから」
「それはそうかもしれませんけど……」
「まあまあ、無事に戻ってこれたんだからいいじゃないですか、日向が落ちた時は焦りましたけどねえ」
「それはおれもマジで死んだと思った」

日向の言葉に全員で笑う。
ほんと、良かった良かった。
縁起でもないが、きっとこの世界なら不慮の事故で死んでもザオリクで生き返ることができるだろう。
けどまだその呪文は誰も覚えてないし、覚えるまで棺桶状態なんて辛……ああ、教会があったか。
お金払えば生き返らせてもらえるんだっけ。
…………世知辛い世界だなあ。

「で?鍵を手に入れたってことはまたレーベの村に行くのか?」

田中先輩がレーベの村のあるだろう方向を指さす。
スガ先輩がそうだね、と言いながらキメラの翼を取り出した。

「じゃあみんなつかまって。行くよ、レーベの村!」

全員でスガ先輩に掴まり、レーベの村へと瞬間移動する。

「キメラの翼って便利だなあー、あの羽にルーラの魔力がこもってるのかな」
「どんな人が発明したんだろうねえ」

独り言のように呟いたのだが、日向が反応を返してくれた。
そうだね、どんな人が発明したんだろう。
この世界には説明つかない道具が多すぎて。
そんな道具がたくさん作れるんなら魔王でも大魔王でもちょちょいと倒せそうなモンだけど……そう甘くはない、か。

話をしつつ、再び村の奥の大きな家の前へ。

「日向、鍵を」
「おす!」

スガ先輩に促され、日向が扉の鍵を開けた。

「すみません、おじゃまします」

日向を先頭に中へ入ると、村長らしき人が仁王立ちしている。

「なんの用じゃ」
「えっ、あ、あの……おれ……フミちゃん、なんだっけ」
「魔法の玉」
「あ、そうだ!魔法の玉が必要なんですけど、知りませんか?」
「魔法の玉?……お前はもしかしてオルテガの息子か?」
「オル…………誰だそれ」
「本来の勇者のお父さん」
「そうです、その息子です!」
「おお、それなら魔法の玉をあげよう。ついてきなさい」

日向の斜め後ろからボソボソと手助けをしつつ、会話を成立させた。
それにしても村長さんなんだろうけど、随分と軽いノリでくれるって言ったな。
こんなんで大丈夫なのか。
そう思ってスガ先輩をチラ見すると、スガ先輩も苦笑してた。

村長さんらしき人についていくと、家の一番奥の宝箱の前に案内されて。
わざわざ日向にそれを開けさせ、普通に魔法の玉を渡してくれたのである。




「……なんか、スムーズに手に入っちゃったけどいいのかな」
「ゲームじゃこんなスムーズにもらえないモンなのか?」
「いや、ゲームでも結構アッサリしてたとは思いますけど、ほらゲームとはいえ実際リアルに動いて生活している人達じゃないですか。それなのにこんな軽いノリなのかな、と」
「確かにフミちゃんの言うとおりだよなあ。でもまあ……とりあえず目標達成ということで良しとしようよ」
「そっか、今日はこれで目標達成なんですね!おれお腹すいたなあ」
「ああ、そういや俺も腹減った」
「私もそろそろお腹空いたかな……アリアハンへ戻りましょうか」
「だね、皆ももしかしたらルイーダの酒場に帰ってるかもしれないし。とりあえず戻ろうか」


そして再びスガ先輩に掴まり、私達のチームはアリアハンのルイーダの酒場へと帰宅した。
酒場に到着し、すぐに目に入ったのは工事中の看板。
屋上に何かを作ろうとしているようだ。

「……ルイーダの酒場って工事中だったっけ?」
「いや、出発する時は何もなかったと思いますけど」

屋上を見つめるスガ先輩の隣に並ぶ。
すると、ルイーダの酒場から既に帰宅済みな様子の影山が出てきた。

「おっ、帰ってきたんだな」
「ああ、目標は達成したから帰ってきた!」

日向が影山に魔法の玉を差し出すと、へえ、これが……と言いながらまじまじと見ていた。

「ねえ影山、ここ何の工事してるの?」
「ああ、なんか俺達が寝泊りする場所を作ってくれてるんだって言ってたぞ」
「寝泊り……つまり私達の部屋を作ってくれてるってこと?」
「まあ、そういうことだな。主将がルイーダさんと話してるのが少しだけ聞こえたんだが、ここを拠点にするって言ったらじゃあ部屋を作らなきゃね、って」
「そんな凄いことに……」
「王様から援助金もらってるみたいだし、いいんじゃねえの?」
「王様が王様って言った……アイタ!!」

思ったことを口にした瞬間、影山からげんこつをくらった。
地味に痛い。

「うるさいお前黙れ」
「なによ殴る事ないじゃんよ!」
「お前がニヤニヤしてるからだ」

ニヤニヤなんてしてないわ、失礼な。
この顔は生まれつきだ!
そんなやりとりを影山としていると、スイッと横を素通りするスガ先輩と田中先輩と日向。

「おーい、お二人さん。俺達は中に入ってるぞー」
「あ!待ってくださいよー、私も行きます!」

先に行ってしまった三人の後を追い、私も中へと入った。
その後ろから影山も。
中では全員が揃っており、主将がスガ先輩に話しを聞きに来る。

「おー、ご苦労さん。成果はどうだ?」
「ああ、ちゃんと目標どおり魔法の玉を手に入れたよ。これで明日は次へ進めるな」
「そうか、ご苦労だった。飯の後に報告会をしようと思うんだが、いいよな?」
「報告会は必要だもんな、もちろんだよ」
「よし、じゃあ皆戻ってきたことだし、飯にしよう」


夕飯もルイーダさんが作ってくれたのかな、と思っていたら、今後はお城の兵士と同じ食事がお城から運ばれてくるらしい。
その日その日で夕飯のある無しも変わってくるだろうから、それは主将からルイーダさんに、ルイーダさんからお城の人へと伝言されるんだそうだ。

その上私達の部屋まで作ってもらえるなんて、至れり尽くせり……!
完成はまだ先の予定らしいけど、どんな部屋になるのか今から楽しみだ。


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