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「さて、レーベに到着したところで情報収集に入りましょうか」
「なあフミちゃん、なんの情報収集するんだ?」
「えーと、確か魔法の玉の情報をここで聞けるんじゃなかったかなあ」
「そもそも魔法の玉って何に使うの?」
「えーとね、魔法の玉がないと次の目的地へ行けない……っていう感じ?確か洞窟の封印を魔法の玉で解くとかそんなんだったと思うけど。スガ先輩は覚えてます?」
「俺も同じような感じでしか覚えてないなあ。どっちにしろ必要なものだから手に入れるには変わりないけどね」
「あの奥にある家がこの村の村長とか住んでそうじゃないか?」
「田中先輩めざとい!行ってみましょうか」

私の記憶ではレーベは街だと思っていたのだが、街と呼べるほど大きなものではなかった。
どっちかというと集落のようなイメージで、住人はレーベの村と呼んでいるようだった。

奥の大きな家を目指して目の前までやってきた。

「…………スガ先輩、この赤い扉って……」
「うん、鍵がないと開かないやつだね」
「もしかしなくても冒険の順番間違えましたかね」
「うーん……でもほら、日向の経験値稼ぎには丁度いいんじゃないの」

くっそおおおおお
優しいなスガ先輩!
最初にナジミの塔へ行って盗賊の鍵を手に入れてくるべきだった!
それなのに間違いと言わないでくれるなんて……!
いや、でも最初に私言ったもん!
私だって全てをきっちりと覚えているわけじゃないですので、その辺ご理解いただきたいですって言ったもん!

……だがしかし序盤から躓くとは思わなかったんだ。

ガクリと肩を落とすと、田中先輩にポンポンと叩かれ慰められた。

「いっそのことなじってください……」
「バカ、来ちゃったもんは仕方ねえだろ!また戻ればいい話なんだから元気だせ!」
「田中先輩いいいいい!」
「うおっ、おまっ、ヤメロ!」

思わずガシッと抱きつくと、ベリッと勢い良く剥がされた。
なんだよ感動したんだから少しくらいのスキンシップいいじゃないか。
田中先輩のケーチ!ケチ!

「ゴールドそこそこ拾ったし、キメラの翼一個買っちゃう?それでアリアハンに戻ってナジミの塔に行けば早いんじゃない」
「そんな便利なものがあるんですねー、おれ買ってきましょうか!?」

日向の顔がキラキラしてる。
きっとこの世界で買い物してみたいんだなと思って日向にお金を渡すと、教えてもいないのに道具屋へと走っていった。
本能の成せる技だろうか、ちゃんと道具屋の看板の場所に日向が入っていくのを見て安心する。
少し待っていると、キメラの翼らしきものを片手に日向が戻ってきた。

「これをどうするの?」
「放り投げて行き先叫べばいいんじゃないかなあ」
「ふぅん。やってみよう!……それっ、アリアハン!」
「「「あ」」」

キメラの翼を放り投げ、アリアハン!と叫んだ日向の姿が一瞬にして消えた。

「あ、の、ばかやろう〜〜〜!!」
「ま、まあまあフミちゃん落ち着いて……!日向はドラクエ経験者じゃないみたいだからさ、ホラ」
「それでも最後まで聞かずに実行するなんてあの動物脳め……!!」
「しゃあねえな、もう一個買って来て俺達も早く戻ろう」

握りこぶしを作りながら血管の浮き出ている私の顔を見るなり、スガ先輩と田中先輩が宥めてくれた。
しょうがないけどさ!
もう、アリアハンに戻ったらキッチリ怒ってやんなきゃ!

その後スガ先輩が道具屋で買って来てくれたキメラの翼を使って三人でアリアハンへ。
ちゃんと私も田中先輩もスガ先輩に触れてたからね、一緒に帰ってこれましたよ、ええ。

アリアハンの入り口には正座待機の日向が。
これは怒られる覚悟があるってことでいいね?

「ひぃ〜なぁ〜たぁ〜!」
「ヒィッ!ず、ずびばぜん!!!」

再び宥めるスガ先輩と田中先輩を振り払い、日向にはこってりお説教をしておいた。
わからないものを勝手にひとりでいじるんじゃない!と何度も同じ台詞を繰り返し、ようやく私の気がすんだところで日向を解放してやった。
これだけ怒れば流石に次は大丈夫だろう。

「反省タイムが終わったところで、ナジミの塔へ行こうか」
「はい、お待たせしてすみませんでした」
「ずびばぜんでじだ……」
「まあ、日向も今後気をつけろよ?」
「はい……田中先輩……」
「で、史香はナジミの塔にどうやって行くのかわかるか?」
「確かアリアハンの西に洞窟があったはずなので、そこに向かいましょう!」


念のためにまだ余っているゴールドでキメラの翼を購入し、それから西の洞窟へ向かった。
洞窟の中にももちろんモンスターはいて、日向には率先して戦ってもらった。

そんな風に進んでいる先からガヤガヤと声が聞こえてくる。

「あれ、この声って大地達じゃない?」
「そうみたいッスね。同じ場所に来ちゃったのか」

そのまま主将チームに追いついたので、とりあえず声をかけてみる。

「お疲れ様ですー!調子はどうですか!」
「あれ?森永。なんだ、この洞窟は目的の一部だったのか?」
「そうなんです、この洞窟を通ってナジミの塔へ行くんです」
「それにしちゃ随分と遅くないか?」

影山の言葉にグサッと来たのは私と、先ほど失態を犯した日向。
すかさずスガ先輩のフォローが入る。

「情報収集しながら進んでたからね、それでも着々と目的に近づけてるよ」
「そうなんスか。こっちは旭さんのレベルがふたつ上がりましたよ」
「おお、こっちも日向がみっつ上がってるぜ……ってことは旭さんがレベル7で、日向がレベル4ってとこか」

田中先輩の言葉を聞いて、旭さんはまた苦笑していた。
そんな旭さんをチカちゃん先輩が慰めている。
でもちゃんとレベルは上がってるんだから心配なさそうだ。
真面目に戦う遊び人ってのも不思議な感じだけど。

「俺達はもう少しここで経験値稼ぎするけど、お前等は先に進むんだろ?」
「ああ、行ってくるよ」

主将とスガさんがハイタッチを交わした。
強気にニヤリと笑う二人は頼もしく感じる。

「気をつけてな!」
「旭さんも頑張ってくださいねー!」
「ああ、ありがとう」

チカちゃん先輩も頑張ってください、と言い残し、私達は先に進む。



そして洞窟内を歩き続けること数十分。
ナジミの塔への入り口へと辿り着いた。

「史香の話ではこの最上階にいる老人が鍵を持ってるんだったな?」
「そうですね」
「おし、最上階目指して行くぞ!」
「は、はひ……!」

さすがに日向が疲れてきたようなのでホイミをかけてあげるとたちまち元気にシャキシャキと動き出した。

「すげー!!魔法の力ってすげー!!」
「これでまだ頑張れるよね?」
「おう、ありがとフミちゃん!」
「どういたしましてー」
「しかし、俺もそうだけど魔法を使えるって変な感覚しない?実際にはもっとちゃんと詠唱とか必要なのかと思ったけどさ、普通に唱えるだけで使えちゃうもんな」
「そういうこと考えるんですね、スガ先輩。とか言ってる私もそれは考えましたけど……簡単に使えるなら有難いことですよ、きっと詠唱なんて覚えられないですもん」
「言えたら言えたで格好良さそうだけどなー」

そんな私達の会話を聞きつつ、田中先輩は『魔法が使えるヤツぁいいよなー』と寂しそうにしていた。
でも田中先輩は魔法使いっていうより戦士でピッタリだと思う。
だからいいんじゃないかなと思うけど、やっぱり魔法に対する憧れって誰でも持ってるみたい。
世の中にはそうじゃない人もいるんだろうけど。




塔の内部で出てくる敵はスライムに加えて、フロッガーやバブルスライムなど。
外で戦ってた敵よりも少しレベルアップしているので日向は多少苦戦していたが、いい経験値稼ぎになる!と意気込んで戦っていた。
そのおかげで塔の最上階手前に着いた頃には日向のレベルもさらにふたつ上がって。
現在勇者・LV6である。
ついでに私達のレベルもひとつずつ上がった。
回復するだけでも魔法を使うという行為そのものが経験値を稼げるみたい。



塔の最上階へと続く階段を上がると、そこは部屋になっていた。

「うお、なんじゃこりゃ。塔の最上階って人の家なのか」
「ここの塔だけ特殊なんだと思いますけど……あ、でもたまに洞窟内に住んでいる人とかもいたりしますよね?」
「そうだね、他のシリーズでも居た気がするよ」
「ほへぇ……なんかすげえ……」

それぞれが思った言葉を口にし、ガヤガヤしていると部屋の中央で椅子に座っていた老人がこちらに気づいたようだった。
ていうか寝てたね、あのおじいちゃん。
起こしてしまって申し訳ない。

「おお……ようやく来なすったか、勇者ひな……勇者代行日向よ」

おじいちゃんはゆっくりと立ち上がり、そして日向の前まで来た。

「今確実に言い直しましたよね、代行って」
「ああ、言い直したな」
「うん、言い直したね」

別に言い直さなくてもいいじゃないか、なんだこの面倒なシステム。
言い直された当の本人は気にしてないようで、おじいちゃんの行動を見守っている。

「幾度となくおまえさんに鍵を渡す夢を見たのじゃ」

おじいちゃんは懐から鍵を取り出し、そして日向に渡した。
とうぞくの鍵だ。

「幾度となく夢を見たって……今日現れた人物の夢を?」
「あのおじいさんの頭の中では元々の勇者と日向の顔が摩り替わっちゃってんじゃないの」
「じーさんだし、仕方ないッスね」

おじいちゃんの目には日向しか入っていないようなので、蚊帳の外な私達は好き放題にボソボソと話した。

「この部屋についている扉をその鍵で開けてみるとええ。今後同じ赤い色の扉ならその鍵で開くぞい」
「おお……!ありがとうじいちゃん!」
「ふぉふぉふぉ、この世界を頼んだぞ」
「おう!」

日向とおじいちゃんの会話が終わったようで、早速部屋の扉を開ける。
カチャリとすんなり回った鍵。
そして扉を開けると、そこは一面の空。
日向は第一歩を踏み出したのだった。




……………………空?



「う、わあああああああああああああああ!!!!!」
「「「ひなたあああああああああああああああああ!!!!」」」


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