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まず最初に話をしたのは、このゲームの基本的な部分……要するにRPGの基礎から。
そんなことくらいわかってると言われそうだと思ったけど、意外にも皆真剣に聞いてくれた。
約一名ツッキーだけはどうでも良さそうな顔をしていたが。
そんな顔するならお前代われ!


ドラクエ3の始まりはアリアハン……つまり現在私たちがいるこの国から始まる。
そしてここから北にあるレーベに行って、情報収集。
そこからナジミの塔へ行ってからとうぞくの鍵を入手するんだっけかな。
とうぞくの鍵を入手した後はレーベに戻ってどこかで魔法の玉を手に入れて、それから洞窟へ行って旅の扉からロマリアへっていう流れだったような気がする。

それを全て説明した後、レベル上げやお金稼ぎも必要だということを伝えた。
レベルはそこそこなので冒険の序盤を進めるには余裕だと思うから問題はないだろう。
旭さんはね、レベル上げからはじめないとキツイかもしれないけどね。

「そういえば日向はレベルいくつなの?」
「おれ?おれは……レベル…………レベル…………いち……」

問答無用で全員が吹きだした。
当然この私も一緒に。

いち!?
いちって!
いくら何でも勇者がレベル1とかないだろ!
寧ろ勇者だからなのか!?そうなのか!?

「……まあ、日向をサポートしながら進めばいつの間にかレベルも上がってるでしょうから。最初のうちは弱い敵に出会ったら日向が率先して倒す。それ以外は前に出ないこと、いいね?」
「…………おす」

小さく返事をした日向はまた半泣きになりそうだった。
いや、それよりも影山の頭にサーブをぶつけてしまった時と同じ顔してるかな。

「大雑把に説明すると、今話したような流れで進んではいくんですが。要するに鍵とオーブを入手してから大魔王を倒しに行きます」
「オーブ?」
「オーブっていうのは、不死鳥を蘇らせるのに必要なもので。まあオーブが入手できたらまた説明するけど」
「不死鳥?なんかすげえスケールの話だな……」

影山が混乱するのも無理はない。
普通に生活してたらオーブも不死鳥も幻想世界のものであって、一切無関係なものだからね。
それを普通に口にしちゃってるんだもん、ほんと変なことに巻き込まれちゃったなあって思う。

「それで、パーティー編成……外に出るにあたって、基本的にはこのゲームは四人までしか一緒に行動できなかったんですけど。ここではどうなのかな……?」

そこにタイミングよくルイーダさんが料理を運んできてくれた。
注文してもいないのに料理を運んできてくれるなんて、有難いやら申し訳ないやら。
お礼を告げるとあんた達にはこの世界のために頑張ってもらわなきゃいけないからね!それに王様から酒場の資金は援助してもらってるんだ!遠慮しなさんな、と笑って返された。

「ルイーダさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「旅に出るのに人数制限ってあるんですかね」
「人数制限?なんでまた……そんなのあるわけないじゃないか」

呆れたように言われてしまった。
ですよねえ。
ゲームじゃないから人数縛りの法則なんてないですよねえ。

「まあでも……大人数で行動するとまとめて狙われた時に分散し辛いし、損害は大きいよね。今までの冒険者には4人程度をオススメ、とは言ってきたけど」
「なるほど」

それは一理あるかもしれない。
ルイーダさんはもういいかい?まだ仕事が残っているから、と再び厨房へと潜ってしまった。

「じゃあやっぱり4人くらいで行動したほうがいいんだな……とは言え、勇者がいないとイベント起きなかったりとかするんじゃないのかな?」
「ああ……スガ先輩の言うとおりですね。確かに日向が居ないと起きないイベントあったかもしれないです。けど、そんなには無かったかな?」
「そしたら4人ずつのグループを2つ作って、残り3人はここに残って様子見ってことでいいんじゃないか?勇者じゃなきゃダメな所だけ日向の居るグループに行ってもらうってことで、もうひとつのグループはレベル上げやお金稼ぎをするとかな」

ゲームをやったことが無い割りに順応が早すぎる主将。
頭のいい戦士って最強じゃないの。

「それいいですね。そしたら戦士と僧侶が二人ずついるから、その二人は連携取るためにも確実にペアを固めておいたほうがいいんじゃないですか?」
「ふむ。影山の言うとおり、そのほうがいい気がするな。それならば俺と縁下、スガと田中で組んでおくか」
「「「了解」」」
「後はその時の状況で適当に動くことにしよう。最初のメンバーは森永、お前が決めてくれ」
「わかりました、じゃあ私なりに決めさせてもらいますね」

最初なので適当でもいいかとは思ったが、バランスは取っておいたほうがいい。
なので日向、スガ先輩、田中先輩、私チームと主将、チカちゃん先輩、影山、旭さんチームに決めた。
ツッキーと山口とノヤ先輩は3人で残ってもらう予定だが、まだまだ序盤なので周辺探索してnot勇者チームみたいにレベル上げやお金稼ぎをしていてもいいんじゃないかと伝えた。
だが回復役がいないので程ほどに、と。

戦士&僧侶はペアで決めるって言ったけど、この二人が同時に行動しない時もあるなきっと。
そうじゃないと悪い言い方すると不公平になっちゃうっていうか。

目的が出来たからにはみんなで達成したいし、そうなったら偏りが出るのはどうかと思うもん。
その時はその時でみんなも納得してくれるとは思うけど。





「決めたからには早速行動開始としましょう。日向率いる勇者チームは今日の目標魔法の玉入手まで。他チームは主将、ノヤ先輩に指示をお任せします」
「よしわかった。それじゃあみんな気をつけて行けよ!絶対みんなで元の世界に帰ろうな!」

主将の一言に全員がおお!!と気合の入った返事をした。
本格的にこれから戦いに行く気分になってきた。
早く帰りたい気持ちもありつつ、不謹慎だけどどこかワクワクする気持ちが隠せない。
それはみんなも同じみたいで、みんなの表情もイキイキしてるようにも見える。
だって普通だったらこんな体験滅多に出来ないのだから。
そりゃあ現実世界がどうなってるかは未だに心配だけど。

田中先輩の言ったとおり、なるようになるしかないんだ。





「まずここから北のレーベに行くっていう話は覚えてますね?」
「ああ、そこは俺も記憶にあるよ。大して遠くも無かったよな」
「さすがスガ先輩!やっぱり私一人で進めていくって不安ですから、これからも思い出せた事があったら教えてもらえると有難いです」
「うん、極力協力出来るように頑張るよ」
「ありがとうございます!現時点で私とスガ先輩が回復魔法を使えますので、薬草等の購入の必要はありませんね」
「購入って……お金あんの?」
「いや、ナイ。ないけど一応そこの心配もしなきゃいけないでしょ?」

そう言うと日向は納得したように頷いていた。

「そして日向は王様からもらった剣……銅の剣があるからいいとして。田中先輩の武器がこん棒では心もとないので、そのお金稼ぎも頭の中に入れておきましょう」
「おお、俺も早く剣が欲しいもんだ!」
「ですよね。今のレベルならこん棒でも十分ですが、今後を考えるととても先には進んでいけませんもんね」

人数が多い分、武器や防具をそろえるのにお金がかかる。
みんなで一緒にっていうのは心強いけど、そこがデメリットだよなー……他のチームがどれだけお金を稼いでくれるか。
アリアハン地方ではそんなに稼げるモンスターもいないから最初は期待できないけれど。
ちなみにこん棒を持っているのは田中先輩だけじゃなく、私もスガ先輩も同じものを持っている。
僧侶や賢者ならそれなりに杖とかないと見栄えがおかしくてしかたない。
杖があるだけで魔力も強くなる気がするから、早く手に入れたい。

「そうだ、おれ王様からこれももらってた」

そう言って日向が渡してきたのは世界地図だった。

「おお!これがあれば大分冒険がラクになるよ。コピー機とかあったら全部のチームに渡せるのにね」
「さすがにコピー機はねえよな」
「あったらビックリだって」

田中先輩とスガ先輩が笑う。
釣られて日向も笑っていた。

地図は勇者代行チームが持ち歩くことにし、それぞれ集合した時に発見したものがあれば書き込んでもらうことにしようという事になり。

私達はいよいよ町の外へと出ることにした。






北の町、レーベを目指して歩くこと10分。
早速最初のモンスターの登場だ。

「日向!スライム!スライムが出たよ!」
「うっ、おっ、やんにょかこのやろ!」

私達を見つけるなり襲い掛かってくるスライムの集団。
4匹はいるだろうか、一番弱そうな日向に向かって飛び掛ってきた。
勇者なのに一番に狙われるって。
哀れ、日向。

呪文で助けてあげようとも思ったんだけど、スライム相手に呪文使うのは勿体無いし。
スガ先輩も同様の考えのようで、日向の近くにいるスライムをこん棒でごんごん殴っている。
田中先輩は戦士なので武器をフルに使うしかない。
極力日向にやらせないと日向のレベルがあがらないっていうのは二人共わかってくれているので、手助け程度に戦って。
私は、というとスライムがちっともこっちに寄って来ないのをいいことに傍観者と化していた。

「おしっ、まずはスライム4匹ぃ!」

最後の1匹を日向が薙ぎ払い、初めての戦闘が終わった。
倒されたスライムはそれぞれ灰になり、その跡にお金が落ちている。

「へえ、実際に戦うとこういう風にゴールドって手に入るんだ」
「モンスターがゴールドに変わるって変な感じですけどねえ」
「そうだね、ゲームだと文字で表示されて終わりだもんなあ」
「ですよねー」

スガ先輩が拾い上げたお金を、出てくるときにルイーダさんからもらった小銭入れに入れた。
袋なんて何も持っていなかった私達にとってルイーダさんの気遣いは大変有難いものだった。



しばらく進み続けて、足が疲れてきた頃。
ようやくレーベの街に到着した。
時間にしてみたら何時間くらい歩いたのかな。
その間モンスターとの戦闘も何度かやって、日向のレベルもひとつ上がった。
せめて早くルーラを覚えられるレベルになってくれると旅が楽になる。

頑張れ日向!


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