29
大地先輩を先頭に奥の部屋へと進めば、そこには宝箱が。
開けてみると中には渇きのツボが入っていた。

一応王様に報告をしに行けば、謎を解いたのはお前達なのだからそのツボは持って行ってよろしいとのお言葉を頂いた。
持ってっていいって言われなくとも持っていく気満々だったけど、正式に許可が下りたところでみんなも安心したようだった。

「とりあえず、今日の所は帰るか?」
「そうですね。世界樹の大陸に寄ったりランシールに寄ったりでなんだかんだ結構遅くなっちゃいましたもんね」
「そんならおれルーラします!」

ハイッと挙手した翔ちゃんにみんなが掴まる。
ルーラと唱えれば、あっという間にアリアハンの城下町へと帰ってきた。

ルイーダの酒場に帰ると他の皆は既に帰宅していたようで、お腹を空かせて私達を待っていたらしい。
気づけば私のお腹もぐぅ、と音を立てていた。
今日は結構遅くなってしまったので、食事と同時に報告会が行われる。

「私達は渇きのツボを手に入れたので、明日は最後の鍵を手に入れる事ができると思います」
「最後の鍵ってなんかカッケェな」
「名前だけかっこよくても仕方ないでしょ」

影山の言葉にツッキーが茶々を入れる。
そんな姿ももう見慣れたもので、皆は話を続けた。

「こっちは世界樹の葉を手に入れたけど……爆弾岩がたくさん居て、結構梃子摺ったよ」
「爆弾岩……メガンテ使われませんでした?」
「うん、ずっと様子を見ているっぽかったからその隙にみんなで叩いてすぐ離れてってやってたらとりあえず大丈夫だった」

流石は経験者のチカちゃん先輩である。
何も予備知識がなく爆弾岩に出会ったらきっと爆発に巻き込まれてお陀仏になってるよね。
ツッキーも居たからその辺は心配ないんだろうけど、田中先輩とかノヤ先輩も思い切り暴れたんだろうなあ。

「で、史香。明日はどうするんだ?」
「「史香!?」」

大地先輩の言葉に、田中先輩とノヤ先輩が過剰反応をする。
あ、そうか。
私が名前で呼ばれるようになった事は知らないんだっけ。

「今日から名前で呼ぶことにしたんだ。な、史香」
「はい、大地先輩」
「うお……!なんだその仲良さ気な雰囲気はァァ!!」
「俺だけじゃないぞ」
「おれも翔ちゃんって呼んでもらえるようになりました!」
「何!?日向まで……!!オイ史香、俺も下の名前で呼べ!」
「えぇ!?りゅ、龍先輩?」

ノヤ先輩が龍って呼んでいるからその方がいいのかな、と思えば田中先輩は至極満足そうに鼻息をフンッと鳴らした。

「俺も!」
「ゆ、夕先輩……」
「うおー!なんか新鮮でイイな!」

うほおー!と騒いでるふたりの後ろで、他の面子が不機嫌そうな顔をしている。
なんだ、なんでそんな顔をしてるんだ。

「オイ、史香」
「え」
「俺も名前で呼べ」
「ええと……」
「面白そうだから僕も名前で呼んでもらおうかな」
「何を……」
「じゃあ俺も!」
「…………飛雄くんと蛍ちゃんと忠くんでよろしいでしょうか」

そう言うと、頷いたのは影山と山口で。
ツッキーはなんとも言えない表情を見せている。

「なんでちゃん付けなの」
「蛍くんっていうより蛍ちゃんの方が言いやすいから」
「じゃあ飛雄ちゃんでもいいじゃん」
「おいコラ月島、俺を巻き添えにすんな!」
「飛雄ちゃんっていうと及川さんみたいでなんか嫌」
「…………仕方ないからいいけど別に」

仕方ない、っていう割には不満そうな表情が元に戻ってないよ!
でも、こうやってみんなを下の名前で呼ばせてもらえるのって嬉しいな。
仲が深まったって感じで、仲間なんだなって実感できる。
元の世界に戻ったら清水先輩も潔子先輩って呼んでみようかな!

「さ、呼び方に関してはもういいだろう。明日の予定を早いとこ決めて、さっさと体力回復させるぞ」
「あ、そうですねスミマセン。じゃあ予定を決める前にちょっと質問。影……飛雄くんと忠くんはどのレベルまでいったの?」

影山、と言おうとした瞬間に物凄い勢いで睨まれたもんだから思わず言葉が詰まりそうになった。
咄嗟に名前で呼べた私、偉い!

「俺は27だよ」
「俺は25までいったな」
「何!?忠、27だったら俺と一緒じゃねえか!黄金の爪返せ!」
「コラ、西谷。一度後輩にあげたものを取り替えそうとするんじゃないよー」
「じ、冗談っすよスガさん!やだなあハハハ!!」

冗談に聞こえなかった、と冷や汗をかく忠くん。
そして私は飛雄くんのレベルに追い抜かれたことに若干のショックを受けていた。

「たった一日で追い抜かれるなんて……」
「俺達も必死でレベル上げしたかんな。妥当な結果だ。な、山口」
「え。ああ、うん」

目配せをしているあたり、また男同士の秘密とでも言うのだろう。
もういいよそれは!
でも飛雄くんと忠くんが少しでも仲良くなったんならそれはそれで良し。
でも蛍ちゃんがヤキモチ妬いちゃうよきっと。


「まあ、とりあえずみんな大体同じくらいのレベルになったって事でいいですね?」
「同じってほどでもないけどな……」

一番レベルが低い旭さんが呟く。
でも今日はレベル上げできなかったし、また追いつくチャンスもいくらでもあるから、と孝支先輩が慰めてあげていた。
私だって機会があればまた飛雄くんを抜かし返してやりたい気持ちはある。
こうやって切磋琢磨し合えばみんなのレベルがどんどん上がっていくのはいい傾向だ。

「それで、明日なんですけど。まず最初に最後の鍵を取りに行きます。これは全員で。そこから班分けをしてそれぞれ散らばってもらうって感じですかね」
「班分けは今決めるのか?」
「はい。今のうちに決めておいた方が後々スムーズにいけるかと。と言っても結局最後の鍵を使える場所が限られているので、途中まではまた皆での行動になりますが」

最後の鍵が手に入れば、いよいよオーブ集めが主流となってくる。
そうなったらルーラやキメラの翼で色んな場所に分散できると思うんだよね。
レベルも結構上がってるし、大概の敵は上手く交わせるんじゃないかな。

「ええと、最後の鍵を手に入れたらまずはルザミに行こうと思います」
「忘れられた島ってやつだったっけ?」

チカちゃん先輩の言葉に頷く。
確かルーラでは行けない場所だったはずだから、ストーリー上関係なかったとしても一度は寄っておきたいと思った。
情報は結構入ったと思うし。

「アリアハンの南東にあったと思うので、そこに行ってからグリンラッド、サマンオサの流れでいけるかな……」

段々と自信がなくなってきて、私の声は次第に小さくなっていった。
すると、蛍ちゃん……ううん、やっぱり言い辛いな、蛍ちゃんって。
まあいいや、彼が案を出してくれたのでその話に乗っかる事にした。

「最後の鍵を手に入れた後ってきっと鍵がないと進めないんでしょ。だったらジパングとランシールにも分かれて行った方が時間の短縮になるんじゃないの?」
「うん……そうだな、ヤマタノオロチと戦うには人数が欲しいとこだけど……このレベルならどうにかイケるんじゃないか?」
「スガさん!ヤマタノオロチって……」

ヤマタノオロチという名前を耳にした途端、龍先輩が青い顔で孝支先輩に聞いた。

「ん?ああ、その名の通りだよ。日本神話とかに出てくるアレ」
「うお……!マジっすか!そんなバケモノいるんすか!」
「中ボスの中では結構苦労したなー」
「ひぃ……!」

龍先輩に釣られて翔ちゃんと夕先輩までもが震えだした。
やっぱ強敵には全員で、って思ってたけどここは一度試してみても良さそうだ。
結局の所、ランシールは別に勇者じゃなくても良かったんだよね。
だから誰がどこの配置になってもいいけど……うーん、どうしよう。
みんなが強くなるに連れ、班分けにかなり悩んでしまう。
もうこうなったら。

「今回はくじ引きで決めようと思います!っていうか今後勇者必須の場所じゃない限り、くじ引きでもいいですよね」
「史香……おまえ、面倒になったな」
「嫌だな飛雄くん。公平を期すためだよ」

そしてサラリと下の名前を呼ばれてちょっと吃驚したわ。
大地先輩は難しそうな顔をしていたが、余りにも偏るようならばちょちょいとメンバーの入れ替えを行えばいっか、という意見を孝支先輩が出してくれて。
それで全員納得してくれたので早速くじ引きを作ることにした。


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