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「全員いるか?」
「森永はいますよー」
「おれもっ!日向もいます!」
「俺もいるぞー」
「俺も!」

全員分の返事が聞こえた所で安堵のため息を吐いた。
最初にゴタゴタした後はみんな付かず離れずの状態でお城の中まで入れたみたいだ。
次第にぼんやりと日向の姿が見えてきた。

「あ、そうか。翔陽はちょっとだけ先に使ったもんな」
「え、おれもう見えてるんですか?」
「ああ、効果が無くなったみたいだな。俺達ももうすぐ見えるようになるっしょ」

孝支先輩が言い終わったと同時にみんなの姿もうっすらと見え始めて。
持続時間としては5分くらい?
消えるってだけでも凄いけど、どうせならもうちょっと持続したほうが商品としてはいいんじゃないかなあ……ああ、でもそれじゃ犯罪が増えるか。
5分透明人間になれるだけでも十分犯罪を起こせると思うけど。
実際私達は無断進入という罪を犯したわけだし、たった今。

「で、この後はどうするんだ?」
「渇きのツボの情報がもらえたはずなので、王様に会いに行こうかと思ってます」

そう答えると、大地先輩は難しそうな顔で考え込んでいた。

「なした、大地」
「いや、俺達門番に正式に通してもらったわけじゃないだろ?それなのに王様に会いに行くとか……大丈夫なのかなって思ってな」
「俺達もしや犯罪者!?」
「シッ!ヒゲチョコ声がでかい!」

おお……さっきまで私が考えてた事と近いな。
確かに正式に通してもらったわけじゃないけど、ゲームの進行の妨げにはならなかったから問題ないと思うんだけどなあ。

「こんにちは、田舎の人!」

突然声を掛けられて、それぞれの体がビクッと跳ねた。

「こここ、こんにちは」

反射的に日向が挨拶を返す。

「観光に来たんですか?ゆっくりしてって下さいね、田舎の人」

言いながらお城の兵士っぽいその人は横を通り過ぎてしまった。

「あ、れ……?何も言われなかったな」
「中に入るな!的な意思を見せてるのが門番だけだから、実際中に入っちゃえば問題ないんだと思います」
「そうか、そういうもんか」
「そうですそうです。この世界の事ですから、悩んでも仕方ありませんよ」

そう言えば、大地先輩はなるほど、と納得をしていた。
いちいちツッコミ入れてたらそれだけで疲れちゃうんだもん。
何事にも動じない心が欲しい。

「じゃあ王様にも普通に会いに行って大丈夫なんだよね?」
「うん、多分」
「それじゃっ、早速行こう!」
「日向、ちょ、引っ張るなー!」

日向が私の腕を掴み、ずんずんと動き始めたと思ったらピタリと止まった。
そしてムスッとした顔で私を見る。

「ん?何?」
「フミはさー……」
「?」
「大地先輩と孝支先輩と旭さんのことは名前で呼ぶのに、なんでおれのことは名前で呼んでくんないの?」
「えっ」

後ろから『おっ、翔陽ヤキモチか』なんて声が聞こえて、何を言われてるのか実感した時にはうっかり顔が赤くなってしまった。

「おれだってフミって呼んでるのにさー!苗字じゃないのにさー!」
「わ、わかった!翔ちゃんでいい!?これなら苗字じゃないでしょ!」
「おお、フミに翔ちゃんって呼ばれると新鮮……!」

どうやら満足してくれたようだ。
他の先輩方みたいに翔陽って呼ぶのはなんとなくストレートすぎて恥ずかしかったので、妥協して翔ちゃん。
先輩方は下の名前でも先輩、とかさん、とか付いてるからまだ平気なんだけど。
キパッ!と呼び捨てにするのはちょっとね。

これから王様に会いに行くっていうのに、なんだか気力を使い果たしてしまった気分だ。
満足した日向の翔ちゃんは、私の腕を掴みながら再び歩き始めた。
段々歩き辛くなってきたので途中で離してもらったが、本人は無自覚だったらしく、顔を赤くしながらしどろもどろの謝罪を受けた。



王様の部屋に行く途中に何人かの兵士さんや使用人らしき人とすれ違ったが、その人たち全員に『こんにちは、田舎の人』と言われた。
ゲームでもムカッと来た覚えがあるけど、実際に言われると余計に腹立つな。
それはみんなも同じだったみたいで、挨拶を返す度に引きつった笑顔を見せていた。

そして、王様の部屋に到着。
翔ちゃんを先頭に、私達はぞろぞろと中へ通してもらった。

「おお、よく来たな田舎者!わしがエジンベアの王じゃ」
「こいつもか……」
「フミ、堪えろ」

思わずボソリと声に出してしまった。
すかさず孝支先輩からのツッコミが入る。
黙って王様の話を聞こうとすると、聞いてもいないことをペラペラと喋りだす王様。

「この城の地下じゃが……あれはもう何代も前の王の頃から三つの岩の謎が解けなくてな。何が起こるかわしにもわからんのだ。はっはっは!」

あんたそんな重要な情報を見知らぬ田舎者にホイホイと……。
とは思ったものの、これがドラクエだと言い聞かせて。

「あの謎を解く自信があるのならば、挑戦するのは自由だぞ。そして解けたらわしにもその内容を教えてくれ」
「わかりました、有難うございます」

その言葉に大地先輩が代表で返事をし、部屋を後にした。

「さて、この城の地下とか言ってたな」
「んだね。さっさと地下に行くべー」
「そうですね、さっさと行って目的果たして田舎者呼ばわりから逃げましょう」

相当うんざり来てんのね、と孝支先輩が哀れみの目を向ける。
言われてるの私だけじゃないんだからね、孝支先輩だって入ってんだからね!
それなのに余裕綽々って感じでなんだか悔しい。


そして地下まで来てみれば、三つの大きな岩と青い台座が。
台座といっても高さがあるわけではなく、あの岩を乗せるためのものだ。

そういえば、これ結構苦労した覚えがあるな……。

「この岩を動かしたりすんのか?って、スゲー!何コレ重い!!」
「うん、これを上手く動かしてあの三つの青い台座に載せなきゃいけないのよ」
「っていうことは、岩を押すルートがあるってことだな?」
「さすが大地先輩!そうなんですけど、これ私も過去に苦戦したんですよね」
「じゃあ一番背の高い旭がそこの塀の上に乗って指示を出せばいいんじゃない?」
「ええ!?スガ、なんちゅう無茶振りしてくれてんだ!」

孝支先輩の言葉に、全員で旭さんをジッと見つめる。
確かにここを囲っている塀の上からだったら全体が見渡せる。
旭さんの身長だったら尚更だ。

「旭さん、ぜひともお願いしたいです」
「史香まで……うーん、わかった。自信ないけどやってみるよ」
「ヘマしたら承知しないぞヒゲチョコ」
「大地酷い!」

みんなの期待を背負って、旭さんは塀によじ登った。
岩は私と大地先輩が一緒に押し、もう一方では翔ちゃんと孝支先輩が一緒に押すことになった。
力配分を考えれば一番力のある人と一番軟弱な私が組んだ方が迷惑もかけないもんね。

「そこ、右」
「うおっ、詰まった!旭!どうなってんのこれ」
「……あー、ゴメン。もう一回やり直しでオネガイシマス」

凄く申し訳なさそうに謝る旭先輩。
なんだか段々可哀想になってきたが、これは出来るまでやるしかないのだから仕方ない。
一度全員で部屋を出れば岩は最初の配置に戻っているので、何度でもやり直しが出来る。
でも翔ちゃんの言ったとおりに岩が結構重いものだから、入る力なくなってしまう。

「史香、大丈夫か?」

後ろから支えてくれる大地先輩の声が耳元から聞こえて、一瞬ビクリとなってしまった。
こんないい声で後ろからとか、無駄に緊張するからやめてください大地先輩!

「だ、大丈夫です。頑張って早く終わらせましょう」
「今だけでも旭と史香の身長が交換出来たらなあ」
「あはは。私が指示出ししたところで同じ結果になってると思います」

史香が出来ないんだったら誰も怒らないさ、と言う大地先輩の声色はとても優しいものだった。
嬉しいけど旭さんにとてつもなく申し訳ない気分だ。


そして何度目かのやり直しをした時、ようやく三つの台座に岩が収まった。
部屋の奥でゴゴゴ、と地鳴りのような音が聞こえて、私達は音の聞こえた方向へと向かった。


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