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まずは正攻法から。
何事もやってみなきゃわからないって言うじゃない。

だから、エジンベアのお城に入れてもらおうと門番に掛け合ってみたんだけれど。

「ここは由緒正しきエジンベアのお城!田舎者は帰れ帰れ!」

何を言ってもこの一点張りで、話を聞いてくれようともしない。
ランシールのスライムが言っていた通り、相当な頑固者だ。
あまりにも理不尽な門番にムカついた日向が、強行突破しようと隙を見て通り抜けようとしたんだけど、それも全部両手で抱えている槍で道を塞がれてしまった。
この調子では通れたとしても直ぐに追い出されてしまうのがオチだろう。

仕方が無いのでやはり消え去り草を使う事にした。

「ここまで来ればあの門番からは見えないよな?」
「うん、死角になってるから大丈夫だね」

お城の門から50メートル程離れたところで塀の影から門番の様子を伺う主将とスガ先輩。

「大地、早速消え去り草で姿を消してみようよ。フミ、人数分あるよね?」
「はい、もちろんですよ!大地せんぱ……主将、どうぞ!」

スガ先輩に釣られてうっかり大地先輩って言いそうになってしまったじゃないか!
うわあ恥ずかしい、冷静を装って言い直したけどみんなからの視線を感じる……!!

「なんか新鮮だな、森永に大地先輩って言われると」
「新鮮っていうか今まで主将としか言ってなかったからね、初めてじゃない?何、俺に釣られたの」
「……その通りです、スガ先輩に釣られて」
「いいじゃん、俺だって旭って下の名前で呼ばれてるし、この際大地も主将から大地先輩に変えてみたら?」

ニコニコと提案してくる旭さん。
旭さんは名前っていうより苗字感覚でそう呼んでるから違和感なかったんだけど、大地先輩って呼ぶには割と勇気がいることだよ?

「おれも!おれも大地先輩って呼んでいいですか!!」
「もちろんだ、ひな……いや、翔陽と呼ぶか?名前で呼んでもらえるとより一層仲間意識が強くなった感じがして嬉しいよ。な、史香」
「うお!それ卑怯です、主……大地先輩……!自分だけサラッと呼んじゃって、こっちに選択権なんて無いようなもんじゃないですか」

それ卑怯です、って私は恋する乙女か!
日向は翔陽と呼ばれて凄く感動しているみたいだ。
私はやっぱり恥ずかしいっていう気持ちが前面に出ちゃう。
何人かは名前で呼んでくれてたりするけど、今まで一度も呼ばれたことの無い人に名前で呼ばれるとドキッとするよ。

「なら俺も、スガ先輩から卒業したいなあ」
「孝支先輩ですね!!」
「そうそうそれそれ。日向……この際俺も翔陽って呼ぶか、翔陽が言えるんだからフミが言えないってことないよな?」
「何故だ……何故こんなことになった……!」
「史香が大地の事を間違えて呼んじゃったんだからそれが発端だろー」
「旭さんんんん!あなたまでそんなサラッと名前呼んじゃうなんて!!旭さんはそんなキャラじゃないと思ってましたよ!!」

嘆く真似をしてみせると、旭さんはだってこの際だから便乗しようと思って、なんて肩を竦めていた。
いや、いいけどさ!
嫌ってわけじゃないんだけどさ、普通呼び方変えるって勇気のいるもんじゃないの?
スガ先輩や主将ならともかく、あんたぁ普段ヘタレのくせして……!!

「わかりました、極力努力しますよ」
「極力の努力をしないと俺達の名前は呼べないってことか?」
「っ……こ、快く呼ばせてイタダキマス!」

ちょっと黒い笑顔で主……大地先輩に言われたら否定なんてできるはずもなく。
スガ……孝支先輩と旭さんに苦笑いを向けられながら、私は引きつり笑いで答えた。

「さて、話も纏まった事だし。さっさと消え去り草使って城に潜入するべ」
「潜入……!スパイみたいでカッコいいですね」
「スパイ気分もいいけどヘマしないでよー?」
「うっ、フミ酷い!おれそんなヘマばっかしないよー!」

……どうだかね。
あなたの今までのヘマ具合はみんなの表情を見れば一目瞭然ですよ、と言いたかったけどこれ以上日向のやる気を削ぐ事もあるまい。

「ところでこれ、どうやって使うんだ?」
「「…………」」

旭さんの言葉にドラクエ経験者の私と孝支先輩は顔を見合わせた。

「薬草は食べれたけど、これってどうなんだろうなあ……このまま売ってるってことはこれも食べるんじゃないかな?フミはどう思う?」
「私もこのままの姿で売られてるんなら、と思いますけど……粉末状にして振り掛けるとかじゃあ時間かかっちゃいますもんね」
「史香のことだから予備も買ってあるんだろ?一回試してみたらいいんじゃないかな」
「あ、そうですね。さすが大地先輩わかってらっしゃる。ということではい、日向」
「えっ!?おれ!?」
「先輩方に試してもらうわけにはいかないでしょ」
「だからってなんでおれ……フミも一緒に試そうよ!」
「そんなに無駄にするわけにもいかないから、いいからホラ!」
「んぐっ」

有無を言わさず日向の口へと突っ込んでやった。
最初はムスッと、そして怪訝な顔でもしゃもしゃと食べる日向。
最後に一瞬悲惨な表情をしたあと、フッと姿が消えた。

「おお、消えた……!ってことは使用方法は薬草と一緒なんですね」
「そうみたいだな。で、翔陽はまだそこにいるのか?」
「…………」

大地先輩が問いかけるも、日向からの返事は返ってこない。
まさか既にフラフラしてるとか?

「おーい?翔陽?どこ行った?」
「…………み、」
「ん?今目の前から声が聞こえたぞ」

孝支先輩も旭さんも、目の前に向かって手を伸ばす。
すると手ごたえがあったようで、どうやら日向はまだその場に居るらしかった。

「み、みず……」
「え?」
「みずううう!!フミ、水ちょうだい!!すげえまずいよこれえええええ!!!」
「うわっ!!」

叫び声と同時に鞄がフワッと浮いた。
そしてガサガサと探り当てた水が、目の前に浮かぶ。

「び、びっくりした。日向脅かさないでよー!」
「…………プハー!!助かった!そんなこと言われたってくそまずかったんだからしょうがないだろー!ていうかおれ、ちゃんと消えてる!?」
「おー、消えてる消えてる。今も水が勝手に浮いてるようにしか見えないぞ。ていうか……そうか、まずいのか……」

ニコニコした顔ながらも気落ちしている孝支先輩。

「どうだろう、ここはジャンケンで負けた人が行くとか……」
「だまれヒゲチョコそれでも男か」
「うっ……」

まずいものを食べたくないっていう気持ちはわかりますけどね、旭さん。
情けない発言に思わず笑っちゃったよ。

「こうしてる間にも日向の効果が薄れてきちゃうと思うんで、思い切って食べますよ!」
「ああ、さっさと食べてさっさと城の中に入るぞ」
「……仕方ない……か……史香は漢らしいとこあるよなあー」
「ちょっと聞き捨てなりませんよ旭さん」
「まあまあ旭、最悪なのも一瞬だってきっと」

三者三様の反応をみせつつ、消え去り草を受け取る先輩方。
ていうか漢らしいとか。
そんな失礼な事言う人には無理やり口の中突っ込んだろか、と思った。

「食べたらすぐに門を超えるからな。翔陽も大丈夫だな?」
「はい、おれは大丈夫です!」
「よし、それじゃあ……」

みんなで一斉に消え去り草を口に含む。

最初は良かったんだ、最初は。
だけど噛んでるうちにすっごい苦い味わいが口の中に広がって。
これは日向の反応を見た時点で噛まずに飲み込むべきだった、と後悔したところでもう遅い。

「みんな消えたな、行くぞ!」
「ハイ!」
「…………おす」
「…………はい」
「…………ああ」

一足先に復活した日向だけが元気な声で返事をした。
大地先輩はさすがですよねー、ハキハキした声が聞こえるってことは噛まずに飲み込んだんですね。
孝支先輩と旭さんは私と同じ運命を辿ってしまったのですね。

しかしこのままこの場所に留まるわけにもいかず。
私達は門に向かって歩き始めた。



…………の、だが。


「うおっ!いてっ!!」
「ぐあっ!旭か!?ど、どいてくれ重い……!!」
「ス、スマンスガ……」
「ヒャッ!!」
「え!?フミ!?ごごご、ごめん……あれ、なんだこの柔らかいの」
「バカ日向バカ!!!早く手どかして!!!」
「えええええなになになんだよ!?ごめんってば……!!!」
「……おーい、お前ら大丈夫か」

大地先輩以外の全員がお互いにぶつかり合って躓いた。
しかも見えないからしょうがないけど日向今私の胸触ったぞ!!
見えないからしょうがないけど!!!

もうお嫁にいけない……等とは思わないけど、ショックは結構大きかった。


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