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昨日の話通り、影山と山口はダーマ神殿へと向かった。
転職後はスーの村付近でレベル上げをするという事なので、一度スーの村にルーラで送ってから私は再びアリアハンへ、そして二人はダーマへ向かったというわけだ。

男同士の秘密だ、とか言っちゃってさ、結局ちゃんとした理由なんて教えて貰えなかった。
賢者になってレベル上げして戻ってくるっていうなら別に文句はないんだけどさ。
みんなだってそれについての文句なんて一切言わなかったし。
寧ろ激励してたくらいだし。
日向もレベル上げに行きたそうにしてたけど、これ以上レベル上げに行かせてしまうと今度はクエストが進まなくなってしまうと思ったので最終的に二人だけ許可をした。
正直現段階でのこのレベルだと問題ないと思うんだよね。
何より辛い戦いになりそうな時は全員で参戦できるし。
ゲームみたいに人数限定がないっていうのはとても有難い事だ。

ツッキーも山口が行くんなら当然僕もじゃないの、っていう顔をしてたけどスルーさせてもらった。
許可、といっても結局は主将の判断次第だったけれど。


二人は強くなって帰ってくると信じて、私達はメインのクエストを進めていかなきゃ。
ということで今日は世界樹に行く班と、ランシールに向かう班の二つに分かれる。
ジパングにも行けるけど、そこで戦うヤマタノオロチは強敵だし……行くなら全員で、って思ってるから後回し。
もうちょっとレベルがあがって余裕を持たせてから行きたい、なんせヤマタノオロチには苦戦した思い出しかない。
すぐ行かなきゃいけないってわけじゃないから後回しでも全然構わないだろう。
そして商人の町も後回し。
せっかくやまびこの笛を手に入れたけど、町を発展させるっていうイベントをやらずに済むのならそんなに焦ることもない。

地図を見た感じではグリンラッドとかルザミとか、他にも行けそうな場所もある。
でもとりあえず自分でプレイしてた順序でクエストをこなしていくのが確実だと思うんだよね。
機転を利かしたつもりが失敗だった、なんてことにはしたくないし。

世界樹のある大陸まで船で行って、それからランシールへと向かう。
世界樹へは私が行こうと思ってたんだけどチカちゃん先輩が自分が行く、と申し出てくれた。
森永はメインで進めてって、って言われたのでお言葉に甘えてランシール班へと入ったのだ。
今日一緒に行動するのは日向、スガ先輩、主将、旭さん。
ツッキーと田中先輩とノヤ先輩はチカちゃん先輩と一緒に世界樹へ。

世界樹のある大陸からランシールまではちょっと遠いので、アリアハンへ戻ってから再スタート。
海の魔物を退治しながら、着々と船を進めていく。






そしてようやく到着したランシール。

「ランシールってこんなんだったっけ?」

その町の様子を見渡し、スガ先輩が言う。
見た感じ普通の町にしか見えない。
例えて言うなら、アリアハンの城下町が少し小さくなった感じの。

「もっと広々とした記憶があるんだけど……違ったかな?」
「いえ、あってますよ。ランシールのメインの神殿は脇道を進まなきゃ見えないんですよ」
「あ、そっか!神殿の場所が分かりづらいようになってたんだっけ」

ゲームで最初にランシールに来たときは、奥に続く道が全くわからなくて。
何度も攻略サイトを調べて、ようやく行く事ができたんだっけ。
わかってしまえば『なあんだ、こんな単純なことか』って思ってしまう。

「その神殿への道はわかんの?」
「うん、多分こっち」

日向に促されて、神殿へと続くであろう道を進んでいく。
少し歩いた後、木々の隙間に見えてきた建物は目的のモノに違いない。

「おお、開けた……!凄いな、ダーマ神殿みたいだ」

旭さんが感動の声をあげた。
確かにダーマ神殿とちょっと雰囲気が似てるかもしれない。
神秘的な感じなのは変わりないけど、ダーマ神殿よりランシールの神殿の方がより神に近いっていう雰囲気がある。
やたら綺麗なんだよね、何もかもが。

「で、これ中に入れるの!?」

日向の言葉に、神殿の入り口を見やる。
何箇所かに設けられた扉。
神殿の綺麗さとは裏腹に、そこだけが厳重に警戒されているような重苦しい鉄の扉だ。
入れるか入れないかって言ったら……

「……入れない、ね」

私の代わりにスガ先輩が答えてくれた。
日向の好奇心いっぱいの表情は、スガ先輩の一言によってガックリとした表情に一変した。

「入れないってなんでですか菅原さん〜……!」
「ここは最後の鍵っていうアイテムがないと扉を開けられないんだよ」
「ランシールって最後の鍵が必要なんだったっけ……」
「でもその最後の鍵を入手するためにはここに来るのも必要なんじゃなかったっけ?とりあえず周辺探索してみようよ」

独り言のつもりで呟いたのに、スガ先輩には聞こえていたようだ。
結局情報収集しないと先へは進めないか。
私の頭がもっとキッチリハッキリ内容を事細かに覚えていられたら良かったのに。
ゲームじゃ聞いた言葉を心に刻み込んで、それを思い出すっていう呪文もあったから楽だったんだけどな。
日向はそんな呪文覚えてる様子もないしな。

「そうですね、最後の鍵を手に入れる前にランシールに来たっていう記憶がありますから、きっと無駄ではないはず……!よし、情報収集しましょう!」


手分けして探索していると、途中で喋るスライムと出会った。
正確に言うと、旭さんが喋るスライムを連れてきた。
きっとはぐりんが発見したに違いない。
そしてはぐりんを連れているこの人だったら、と思ってついてきたに違いない。
喋るスライムを見たときの旭さん以外の反応は、喋る馬を見たときの旭さんとノヤ先輩と同じだったので思わず吹き出した。

じっと見つめると、円らな瞳でうるうると見つめてくるもんだから思わず顔を逸らしてしまった。
だって可愛いんだもんこいつ……!
そんな私をよそに、スライムは喋りかけてきた。

「君たちは消え去り草を持っているかい?」
「消え去り……そう?森永、知ってるか?」
「あ、はい。スーの村で購入してあります」

鞄から取り出して主将に手渡す。
薬草とはちょっと違った感じで、ワラビみたいな形をしている。
主将はそれをスライムに見せて問いかけた。

「これの事で合ってるか?」
「うん、それであってるよ。持ってるんだったらエジンベアのお城に行くといいよ」
「エジンベア?」
「あそこの門番は頭が固くて、よそ者は入れてくれないんだ。でもその消え去り草があれば中に入れるよ」
「ふむ……森永、エジンベアというのは次の行き先なのか?」

この先と言えば、先立っての目的は最後の鍵を手に入れる事。
その最後の鍵を手に入れる為には、エジンベアに行って渇きのツボを手に入れ、それから浅瀬でツボを使って祠に入る、と。
つまり結局のところはこの次はエジンベアに向かうことになるのだ。

「そうなりますね、多分」
「ひとまずランシールには用事はないはずだよ。最後の鍵を手に入れたらまた戻ってくる事になるけど」
「そうか、わかった。情報を教えてくれてありがとな」
「ううん、ボクにはこれくらいしか出来ないから。ボクは人間はいいものだって知ってるよ、だから助けてあげたいんだ」

ぷるぷると体を震わせながら言うスライム。
どうやらこの町の人間とは仲良く暮らしているらしく、他の魔物みたいに敵対心を持ってないみたいだ。
私達と喋ってる時点でそれはないって解っていたけれども。
旭さんがお前も一緒に来るか?と声をかけていたけれど、どうやら神殿の隅っこがお気に入りの場所らしく、フラれてた。
この調子だと旭さん、今後もこういう魔物見つけたら保護しようとするのかな。
情が移ったら元の世界に帰れなくなるぞ!
きっと帰るときには旭さん、泣くんじゃないだろうか。


とりあえずランシールで出来ることはなくなってしまったので、再び船に乗り込んで次なる目的地はエジンベア。
エジンベアはノアニールの西にあるので、一度ノアニールまでルーラをしてから西へと向かう。
少しでも距離を短縮できるのであればそれに越した事はない。
ルーラ様様だ。

「しかしいい加減この世界にも慣れてきたな。当たり前のように毎日魔物との戦闘、それから船に乗って旅したりとか」
「おー、大地もそう思う?俺も今おんなじこと考えてた」
「私達、別次元の人間なんですよねえ」

主将とスガ先輩が感慨深そうに話していたので、私も仲間に入れてもらおうと近寄った。
この三人で喋るのは主将の部屋で褒められた時以来かな?
日向と旭さんは甲板ではぐりんと遊んでいる様子。
ちなみに船を操縦しているのはスガ先輩だ。

「別次元っていうと大袈裟に聞こえるけど、実際自分の身に起こってみるとなんかそうでもないよな」
「このゲームだったからいいけど、もしこれが戦国時代とかに放り出されたとしたらんな悠長な事言ってられないんじゃん?」
「うわあ……戦国時代とか絶対嫌です、普通に死にそう」
「それでもみんな一緒だったら心強いって思うだろ?」

な、と言ってスガ先輩と私に笑顔を向ける主将。
思わずスガ先輩と目を合わせる。
そして、二人同時に笑った。

「そうですね、みんなと一緒だったら大丈夫かもしれないです」
「そーそー、頼りになるヤツらがこんなにたくさんいるもんな!」
「わ!スガ先輩何するんですか!」

ニコニコしながら私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるスガ先輩。
撫でてもらえるのは嬉しいけど、これじゃ貞子だよ!

三人で楽しく話していると、外からザァァァ、という音が聞こえて。
急いで甲板に出てみると日向と旭さんが大王イカ二匹と対峙しているのが見え、スガ先輩に操縦室を任せて二人に近づく。

「おっしゃー!焼きイカにしてやんぞ!」

日向は無駄に腕をぐるぐると回し、バッチリ戦闘態勢に入っていた。
旭さんははぐりんを無事な場所へと追いやり、それからすぐに置いてあった武器を手に取る。
レベル5で太刀打ち出来るんかね、なんて言ってた事が懐かしく感じる……!

大王イカは攻撃力があるから一撃が大きい。
喰らってしまうと痛いので、スクルトで守備力を強化する。

「フミ!今魔法使った?」
「うん、守備力上げた!でもダメージ食らわないように気をつけて!」
「おっけーわかったありがと!!」
「森永、俺より前には出るなよ!」
「はい、支援します!旭さん!」
「旭、俺も参戦するぞ!」
「おう!」

旭さんの隣に主将が並んで。
二人で剣を構えている姿はどこからどうみても頼もしい戦士だ。
その少し後ろで日向も負けじと攻撃を繰り出す。
最近覚えたらしいベギラマを放つ姿は、自ら感動しているようにも見えた。
うん、新しい呪文って嬉しいよね。
わかるよ日向!

という事で私も覚えたての呪文をお見舞いしてやる!
死の呪文を喰らうがいい!

「ザキ!」

唱えた言葉が魔物に届くや否や、紫の霧に包まれて。
あっという間に灰になって消えた。
残されたもう一匹も、旭さんと主将のダブルアタックによって倒され、同じく灰になって消えた。
それを見届けた次の瞬間、日向がぐわっ!!と勢い良く近寄って。

「すげー!!フミ、すげえ!!何その呪文!」
「一瞬で息の根を止める呪文だよ」
「えっ」

キラキラした目で捲くし立てる日向に教えると、日向は途端に青ざめた表情に。

「でもね、成功率は低いんだよー。大王イカは効きやすかったはずだから使ってみたんだけど、上手くいって良かった!」
「うん、お、おれフミには逆らわないようにするよ!」
「え?ちょ、ま、いやいや!まさか仲間に使うわけないじゃん!」
「わ、わかってるけどさーっ!」
「嘘おっしゃい!わかってたらそんな事言わないはずだ!そんな事言うのはこの口か!この口か!」
「ひでででで!ひゃめ!ひゃめへへへ!!」

日向の口をむぎゅっと摘んでいると、主将と旭さんにまあまあ、と宥められてしまった。
そしてはぐりんも近寄ってきて、私の頭の上にちょこんと乗った。
頭を冷やせっていう意味なのだろうか、確かにひんやりして気持ちいいけれども。
でも日向が失礼なこと言うからいけないんだ。




「……い、おーい!」


操縦室の方からスガ先輩の呼ぶ声が聞こえたので、ひとまずみんなで操縦室へと戻る事にした。
操縦室へ入ると、少しむくれた顔のスガ先輩がジト目で私達を見ていた。

「どうしたんだスガ、何でそんな顔をしてるんだ」
「俺も船の操縦じゃなくて魔物と戦いたかった」

どうやら自分ひとりだけ参戦出来なかったのが悔しかったみたいで。
ムスッとしながらもうすぐエジンベアに着くよ、なんて教えてくれたスガ先輩。
それはまるで親に怒られていじけてる子供のようで、なんだか可愛かった。


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