25.5
SIDE:T.Y


「なあ、俺明日はちょっとやりたい事あるんだけど」

報告会の前に史香ちゃんに声をかけた影山。
俺はその様子を遠くからボーっと眺めていた。
正直お腹いっぱいで既に眠い。
それにアープの塔で結構歩いたから疲れたし。
だから視界に入った二人をそのまま観察することにした。
影山って、何か保護者的っていうか……史香ちゃんの事凄く気にしてるよな、と思う。
好きなんじゃないのってツッキーと一緒にからかった事もあったっけ。
あの時は凄い形相で追いかけられてマジビビリしたけど。

「やりたい事?何?」
「やっぱ転職したいと思って」
「え、これまた何故に。魔法使いは転職しちゃったら勿体無いって言ったじゃん」
「…………まあ、理由は置いといて、魔法使いが転職するのに賢者だったら申し分ないだろ?」
「確かにそりゃ申し分ないけど……でも賢者になるには元々の職業が遊び人であるか、特殊なアイテムを手に入れなきゃならないよ?」
「特殊なアイテムって何だ」
「悟りの書っていう本」
「それなら山口が持ってる。おーい、山口!ちょっといいか」

おお!?俺、呼ばれてる?
まさか自分に声がかかるとは思わなかった!
半分寝そうになっていたのでビクッと反応した後、慌てて立ち上がる。
そして二人の元へと近づいた。

「なに、影山」
「あのさ、お前悟りの書持ってるだろ?」
「悟りの……ああ!報告するのすっかり忘れてた!持ってるよ」

そういえばガルナの塔で手に入れたんだっけ。
前回の報告会でみんなに伝えるの忘れてた。
でも一緒にいた他の面子も忘れてるんだから別に俺だけの責任じゃない……よね!

「それ俺にくれ」
「え……影山、賢者に転職すんの?」
「おお」
「なんでまた突然」
「突然ってわけじゃないけど……まあ、コイツに負けてるっつーのがちょっと癪に障る」

コイツって言った影山の視線を辿ると、史香ちゃんが不機嫌そうな顔をしていた。
そんな言い方したら不機嫌になるのは当然だってわかるだろうに。

「なに、私に負けてるって……呪文の量とか?もしかして転職したい理由ってそれなの?」
「…………別にそれがメインの理由じゃねえけど」
「え?何て?」

呟いた声が小さすぎて、その言葉はきっと史香ちゃんには伝わってない。
影山って素直じゃないよなあ。
心の中では史香ちゃんより強くなって、守ってやりたいとか思ってるんじゃないの。
それ本人に言ってあげればいいのに。

「何でもない。とにかく明日の探索は俺抜きで頼む」
「んー、まあ……いいけど……」
「悪いな。山口、それ貰っていいか?」
「俺一人の判断じゃ決めかねるんだけど。他のみんなの意見は聞かなくていいの?」
「魔法使いが賢者に転職するっていう事に関しては、今後覚えるはずだった事も無駄にならないから誰も文句は言わないと思うよ」
「史香ちゃんがそう言うなら……はい」
「おお、さんきゅ……って、何だよ!」

はい、と差し出した瞬間、フェイントで素早く自分の元へと戻した。
だってさ、どうせだったら俺も史香ちゃんより強くなって頼られたいと思うんだよ。
影山だけにオイシイとこ取りされるのも悔しいっていうか……そんな事は絶対言えないけど。

「転職するって事は、影山その後レベル上げするよね?」
「ん?ああ、するけど」
「そのレベル上げに俺も連れてってくれるならこれあげるよ」
「は?っていうかそれ山口のモノってわけでもないだろ」
「確かに俺のじゃないけど。でも今持ってるのは俺だかんね!それに影山が一人でレベル上げするよりは俺も一緒に居たほうがいいと思うよ」
「……ぐっ……確かに、レベル1で一人っつーのはキツイか……。わかった、山口。一緒に来てくれ」
「そうこなくちゃ!じゃあ今度こそ、はい」

よし、これで俺も更にレベルアップできる。
折角転職したんだから、頼りになる男にならなきゃ!

「ねえ、私もそのレベル上げ一緒に付いていこうか?」
「森永はダメだ!」
「史香ちゃんはダメだよ」
「!?」

影山と意図せず言葉が揃ってしまった。
まあ、そりゃそうだよね。
考えてる事はきっと同じだもの。

「なんでだ!なんで私はダメなんだ!」
「これは男同士の秘密ってやつ?」
「……山口、お前もしかして」
「影山だって同じ事考えてるだろ」
「まさかの同士か」
「……多分ね」

ハッキリと言葉にはしないけど、史香ちゃんを守りたいっていう気持ちは一緒。
だって俺達の大事なマネージャーだし。
この世界に来てから一番頼りになるのが紅一点のマネージャーって、カッコつかないじゃん。
知識が足りない分、せめて彼女より強くありたいっていうのはきっと誰もが思ってる事だと思う。
死ぬのは三回までっていうなら尚更、彼女を危ない目には遭わせたくない。
出来ることなら俺だって賢者になりたかったけど、悟りの書はひとつしかないし、今から遊び人に転職するなんて絶対嫌だし。
だから今回は影山に譲ってあげようと思う。

男同士の秘密って何よー!とむくれている史香ちゃんには申し訳ないが、明日の計画は影山と俺抜きで立ててもらう事にした。







一話ってほどでもなかったので25.5話という扱いで。


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