25
はぐれメタルは確かに消えた。
さっきは確実に仕留めた……よ、ね?

「え、ちょ、なにアイツ生き返ってねえか!?」

ノヤ先輩の指差す先には、むくりと起き上がったはぐれメタルが。
そして。

「……東峰さんのこと、尊敬の眼差しで見ているような気がします。ねえ森永、ドラクエ3って魔物は仲間に出来なかったよね」
「うん、出来なかった……けど、この状況って所謂『はぐれメタルは仲間になりたそうにこちらを見ている』ってやつじゃないの」
「やっぱり。僕もそう思う。東峰さん、どうするんですか?」
「え!俺!?」

自分を指差した旭さんに、みんなが頷く。
ノヤ先輩はきっとなんのこっちゃわからないだろうけど、旭さんが決めなきゃいけないことだっていうのは悟ってくれたようだ。

「ええと……」

どうしようかと悩む旭さんに、じーっと見つめるはぐれメタル。
なんなんだこの状況。
旭さん困っちゃってる。
いきなり仲間にしてくださいと言われても、そりゃどうしていいかわからないよね。
や、言われてはいないか、じーっと見つめられてるだけで。

「旭さん、罪悪感を感じてるなら一緒に連れてってあげればいいんじゃないですか」
「え、なんで俺が罪悪感感じてるってわかったの」

なんでって。
そりゃあ聖水振り掛けるときにごめんなあ、なんて謝りながらやってればそりゃ旭さんが本当は魔物といえどこんなに可愛いやつらを倒したくないんだろうな、って思ってることくらい容易に想像が出来る。
私じゃなくたってわかるよ、旭さん。

「とにかく、旭さん次第だと思いますよ、結局」
「……連れて帰ったらみんなどう思うかなあ」
「敵意がないってわかれば皆も可愛がってくれるんじゃないですかね?私だって懐いてくれたら可愛いなって思いますもん」
「そうか。…………じゃあお前、一緒に来るか?」
「!」

その一言が嬉しかったようで、はぐれメタルは旭さんに近寄り、頭の上へと飛び乗った。
凄い跳躍力だ。
ていうかやっぱりああやってじゃれてると可愛いなあ、スライム族って。

「おっ!おま、ちょ、前が見えない!」
「なんかほのぼのしてんなー」
「そうですね、最早飼い主とペットの図ですよね」
「はあ……まさか魔物が仲間になるとは思わなかった。きっと職業があったら魔物使いは間違いないな」

この世界に魔物使いっていう職業があったら旭さんは確実に魔物使いだな、って事だろうか。
意味不明の言い回しをしたツッキーは、腕を組みながら小さくため息を吐いた。






はぐれメタルが仲間になったということで、お決まりのはぐりんという名前をつけてあげた。
だって旭さんが『名付け親は森永にお願いしたい』っていうんだもん、オーソドックスなのしか出てこなかったよ。
変なの付けて私のセンスが疑われても嫌だしさ。
仲間になったときにデフォで付いてくる名前だ、と言えば私のセンスうんぬんの話にはなるまい。
そもそも旭さんが自分で付けたら良かったのにとか思ったり。

その後の戦闘ははぐりんを頭に乗せたままこなした旭さん。
なんというか……器用すぎて笑える。
笑う、といっても心の中でだけど。

そしてしばらく戦闘を続けていると旭さんのレベルが20になったので、一度レベル上げを終了させ、スーの村へ向かう事になった。
私はというとレベル24になり、やっとこさザオラルを覚えられたとこで。
ザオリクまでの道程はちょっと遠そうだなあ。
世界樹の葉って、もう手に入れられたりするんだっけ?
もしザオリクを覚えるまでに時間がかかりそうなら、先に世界樹の葉を取りに行きたいな。
パーティーで一枚しか持てないものでも、確実に生き返られる保障があるのと無いのとでは気分的にも大分違う。
それ以前に死なないっていうのは前提だけど、念には念を、ってね。
世界樹は確かムオルと近かったはず。
明日の探索にでも提案してみよう。






「へえ、なんだか民族的な村だな」
「そうですねえ、今までとはちょっと違った感じですね」

村の入り口にて、ノヤ先輩が見渡しながら言った。
遠くに見える村人の装飾品とかを見ても、一般的に言うアフリカ民族とか、インディアンとかそっち系の衣装って感じ。

「じゃあそれぞれ情報収集に出かけます?東峰さん、それは服の中にでも隠しておいてくださいね」
「ああ、そっか。魔物って分かったら襲われちゃうかもしれないもんな。わかった。ごめんな、狭いけどここに入っててくれ」

ツッキーに指摘され、旭さんがはぐりんにそう言うとはぐりんはぎゅるぎゅる、とかれろれろ、とかそんな風に聞こえるような声を発し、素直に旭さんの服の中へと入っていった。
面白いな、はぐりんの鳴き声。
鳴き声って言っていいのか定かではないが、日本語でどうやって説明していいかわかんない。
聞こえ方だって人それぞれ違うかもしれないしね、私にはぎゅるぎゅるって聞こえても他のみんなにはきゅるきゅるかもしれない。
……まあ、そんな事は別にどうだっていい話だ。


はぐりんが旭さんの服の中に入ったのを確認し、みんなで情報収集に出かける。
ここはそう広い村ってわけでもないし、みんなバラバラになっても問題ないだろうということで一人ひとり行動することになった。
私はお金を預かっている身なので情報収集の前に道具屋とか武器、防具屋へ行こうと思う。

歩いていくとそれらしき店があったので、中に入る。
雰囲気からして武器、防具屋に違いない。
中に入るとカウンターの奥に店員らしきおじさんが座っていた。

「すみません、この店の売り物って何があるんですか?」
「お、いらっしゃい。えーと、バトルアックスとか魔法の盾とかがお勧め商品だよ」

気さくな感じで話しかけると、これまた気さくな返答をしてくれたおじさん。
しかしバトルアックスを買うにはお金が足りないし、魔法の盾は呪文のダメージを軽くしてくれるっていうスグレものだけど……現段階では必要なさそうな感じだったので、今回は何も買わずに店を出た。
道具屋の場所を聞いて、今度は道具屋へと向かう。
できることなら聖水を買い足しておきたかったんだけど、どうやらここの道具屋には売ってないみたいで断念した。
しかし消え去り草を発見したので、これは迷わず購入。
後々イベント……エジンベアで使うんだったかな、とにかく絶対的に必要なものだったので予備も含めて人数分とちょっと。
そこそこのいい値段だったけど、ギリギリ足りたので安心だ。

その後はノヤ先輩と旭さんと合流し、喋る馬のエドから渇きのツボの情報を得て。
二人は馬が喋った!なんてビックリしてたけど、私はそういや喋る馬いたな、なんて思いながら二人のリアクションと言動を傍観してしまった。
実際話しかけられた時にはビクッてなったけどね。
でも知ってたから素直に受け入れる事が出来たんだ。

「渇きのツボは西の海の浅瀬の前で使う、これメモっておかなくて大丈夫か?」

旭さんが心配そうに言う。

「とりあえず大丈夫だとは思いますが……念のため地図の裏にメモっておきましょう」
「じゃあそれは史香に任せるよ」
「はい、責任持って記しておきます」
「つーか渇きのツボってなんなんだ?」

キョトンとした顔で聞いてくるノヤ先輩。
そうだよね、一概に渇きのツボって言われてもわかんないよね。

「重要アイテムのひとつですよ、それをさっき言われた西の海の浅瀬で使うと、ほこらが出現するんです。最後の鍵っていうこれまた重要なアイテムを手に入れる為には必須なんですよ」
「へえ、スゲェな!そんなアイテムもあるのかー……なんかカッケエ!よし、そしたら月島と合流しねえとな!」

ツッキーと合流するためにノヤ先輩が先導して歩き、その後ろから私と旭さん。
旭さんは少し気を使ってか私よりも斜め後ろに居てくれている。
レベルが上がったことだし、何かあった時のために私を一番後ろにしないでくれてるのかなとか思ってみたり。
だとしたらさり気無くカッコいいことしてくれるじゃないか……!
私の勘違いだったら恥ずかしいけど、思っておく分にはタダだ!

しばらく探して、ツッキーと合流し。
お互いに持ってた情報を交換し合って、それからルーラでアリアハンへ帰ることとなった。

今日は旭さんのレベルも20まで上がったし、私もザオラルを覚えられたし。
はぐりんも仲間になった……のは、ちょっと予想外の出来事だったけど。
これでみんながアープの塔にてやまびこの笛を手に入れてくれていれば、次はまた3つに分かれてオーブ探索かな。
あ、そうそう世界樹にも行かなきゃ。

明日はどうしようかな、と考えつつみんなの帰りを待つことにして。
無事にやまびこの笛を手に入れたみんなが帰宅したのは、私達が帰宅してから1時間後の事だった。

旭さんの頭に乗ってるはぐりんを見た瞬間のみんなの顔は、写真に収めたいくらい面白いものだった。
この世界に携帯やデジカメが無いのがとても残念である。


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