24
スーの村に向かうのは旭さん、ノヤ先輩、ツッキー、私。
素早さのある武闘家と盗賊にはぐれメタルを追い込んでもらい、旭さんが聖水でトドメを刺すっていう戦法だ。
私の役割は主に回復、補助系呪文。
あとは旭さんのレベルが結構上がってきたら私もはぐれメタルを倒して経験値を稼ぎ、そしてレベルアップして早くザオリクを覚えたいと思ってる。
僧侶ってレベルいくつでザオリク覚えるんだったっけかな。
40くらい?だったっけ?
何にせよまだレベル21だから頑張らないと。

残りのメンバーはスーの村から南南西にあるアープの塔へ向かってもらうことにした。
アープの塔ではやまびこの笛が手に入るはず。
近くにオーブがあるところで吹くと、やまびこが返ってくるというスグレモノ。
これがあればオーブ探しも少しは楽になるはずだ。

これが終わったら次は最後の鍵探しをしなければならない。
エジンベアとランシールで鍵に関する情報が手に入るはず。





まずはムオルまでルーラ。
それから東に向かえばアープの塔が見えるので、そこでみんなを降ろし、私達はこの大陸の真ん中にあるスーの村を目指す。
そういやゲーム内ではルーラの時に表示されない場所もあったけど、ここでは関係ないみたい。
一度行った場所ならとりあえずどこでもルーラで行けちゃう。
ゲームでも一度行った地名はどこでも行けるようにしてくれたらいいのにな。
何度も船で出向くのとか面倒だし。


「なあ史香、あの一軒家ってなんなんだ?」
「一軒家?どこですか、ノヤ先輩」
「ホラあそこ」

あそこ、と指を差された場所の先に小さく見えるのはまさしく一軒家。
あんなところに家なんてあったっけ?

「あ、これイベントじゃん」
「は!?なに月島、イベント?」
「商人を連れてこないとこの場所って発展しなかったはずです。それで、イエローオーブが手に入るっていう。だったよね、森永」

ノヤ先輩がバシバシとツッキーの背中を叩く。
不快そうに顔を歪めながらも話を続ける彼は凄いと思う。
ちなみに旭さんは船の操縦をしてくれている。
操縦というと畏まった感じだけど、実際にはコントローラーだからね。

「そんなイベントもあったねえ」

ぶっちゃけそんなの忘れてましたがな。
スーといえばイエローオーブが手に入る、っていう風に勘違いで覚えてた。
イエローオーブはスーの村じゃなくて商人の町なんだったっけ。
商人をここに置いてって、そんで町を発展させてもらわなきゃいけなかったんだっけ。

「森永、忘れてたの?」
「忘れてたっていうか勘違いしてた。イエローオーブはスーで手に入るもんだと思ってた」
「へえ、商人の町を発展させるのって結構大変なイベントだったはずなのに、そんなの忘れてるなんて」
「うるさいなー!私だって全部覚えてるわけじゃないって言ったでしょうが!」

ツッキーは口に手を宛てながらニヤニヤしている。
くっそ、わかってて弄るのはやめろ!

「じゃあ山口が転職するのは早まったかもなー」

ノヤ先輩の言うとおり、一瞬早まったと思ってしまった自分が憎い。
ダメだ、こんなところに山口を置き去りにもしたくないし、何よりこの町に置いてかれた商人って最後は好き勝手して牢屋入りじゃなかったっけ。
これはノヤ先輩に真実を伝えねばなるまい。

「ノヤ先輩、その商人って……あれ?ねえ、ツッキー」
「何」

ツッキーの袖をクイクイ、と引っ張ると、今度は不快そうな顔を私に向けた。
そんな顔しなくても……!

「もしかしなくてもあの一軒家の奥のほう……って既に発展してない?」
「ん?んー……確かに、賑わってる雰囲気はあるね」
「じゃあ何だ、イベントは既に済んでるって感じか?……おお、確かに一軒家の奥にも町があるな」

船で移動するうちに見えた一軒家の奥の町。
最初に見たときは周りが木々で囲まれちゃってたからわからなかったけど、この角度からだったらその奥に発展した町があるのがわかる。

「えっと」

ツッキーをチラ見すると、ツッキーも私をチラ見した。
どうすんのさ、と口で言わなくてもその目が物語っている。

「とりあえず今日は先にスーの村へ進んで、それから後日そこの町にイエローオーブを探しに行きましょうか。アープの塔でみんながやまびこの笛を手に入れてくれればオーブがあるかどうかも確認できますし」

ね、とノヤ先輩に言った後、再びツッキーをチラ見すれば、今度はフイッと顔を逸らされた。
それでいいってことですね、はいはいわかります。ありがとうございます。

「おお、史香がそう言うんなら任せるぜ」
「ありがとうございます。そしたら私、旭さんと交代してきますね」
「わかった!気をつけろよ」
「はい、二人とも魔物に気をつけて!」

階段を下りてドアをノックすれば、中から旭さんの返事が聞こえた。

「旭さんお疲れ様です!船の操縦は慣れましたか?」
「慣れたっていうか、本当にこんなに簡単に進める事ができてビックリだよ」

へにゃ、と笑う旭さんの顔は和む。
無表情だとコワモテなのに、ヘタレ部分が混じってるからこの人はどうあっても可愛い人だ。

「私もこんな簡単に操縦できるなんて思ってませんでしたよー、映画のように海賊みたいにやんなきゃいけないのかなって思ってましたし」
「不思議っていう言葉がいくつあっても足りないよな」
「そうですね、ってことで旭さん!私と交代です!」
「交代?」
「はい、海の魔物も結構強いのが出ますから!いい経験値稼ぎになると思いますよ」
「それってレベル5の俺でも太刀打ちできるのかな」
「…………トドメの一撃だけやらせてもらえばいいんじゃないですかね」

そう言うと、旭さんは複雑そうな笑みを残して部屋を出て行った。
申し訳ない気持ちはあるんだ。
申し訳ないんだけど、それでもやっぱレベル5じゃ……大王イカとか出現しちゃったらまたお陀仏なんてことになりかねないし。
ツッキーとノヤ先輩の今のレベルだったら問題ないと思うので、旭さんは最後の一撃だけ、ということで。
それでも平等に経験値が入るんだから、有難い話だ。







しばらく地図どおりに船を進めて。
途中でドォン!とかゴガッ!!とかそんな音が聞こえたけどきっと海の魔物と戦闘中なんだろうと思って気にしない。
ツッキーとノヤ先輩が旭さんの事を守ってくれてると信じてる!
薬草だって大量に渡してあるし、大丈夫。
……なんか旭さんってか弱いお姫様の役割みたいな感じになっちゃってるなー、と思うのは私だけではないはずだ。
どうせなら私が姫役になりた……いや、姫なんてガラじゃないわな。
旭さんのお姫様もレベルが上がるまでの話だしね、レベルが上がったら戦士として十分に活躍してもらおう。


音も静かになり、ようやく目的地へと到着したようだ。
岸に船を近づけ、操縦室を出た。
最初に旭さんが気づいてくれて、お疲れさん、と声をかけてくれた。

「お疲れ様でしたー、少しは経験値稼げました?」
「うん、オイシイとこ取りさせてもらったから」
「そッスよー、早く経験値貯めてレベルアップして欲しいッスもんね、旭さんには!」
「西谷と月島が率先して戦ってくれたよ、おかげでレベルひとつ上がった」

ツッキーは褒められて恥ずかしいのか、こちらを見ようともしない。
耳が少し赤くなってるっつーの、このテレ屋さんめ。

「ところでスーの村に用事はあるのか?」
「お、それ俺も気になってた」

旭さんとノヤ先輩に聞かれ、必死に思い出す。
……が、これといって重要な事はなかったはずだ。
なんせイエローオーブがスーじゃないって思ったら途端にスーの村の影が薄くなったもんな。
私の中で、の話だけど。

「イベントは何もなかったかもしれませんが、この先の情報は集められるかもしれませんね。レベル上げに余裕が出てきたら町に寄りましょうか」
「どうせなら拾えるものも拾っておきたいしね」
「え?ツッキー、スーで拾えるものとか覚えてるの?」
「そうじゃなくてさあ。大体の町で何かしら手に入れたりできるだろ。冒険者としての常識だよね」

冒険者とか……響きがカッコいいとか思っちゃった自分、バカじゃないのか。
ツッキーが意味有り気に言うからいけないんじゃないか!
反論すると倍になって返ってくるから言いませんけども。





気を取り直し、村の周辺ではぐれメタルが出そうな場所を探す。
しばらく別の魔物と戦い続け、中々出現しないなーと思っていたその時。

「!あれ、史香!居た!!」

ノヤ先輩が突然私の手をぐいっと引っ張った。

「わわっ、どこですか!」
「うおっ」

その勢いで私は旭さんの手を引っ張る。
だって旭さんがメインだからね、今回は!

「ほら、あそこ。2、3匹固まってる」
「おお……ようやく発見出来ましたね……!!じゃあツッキーとノヤ先輩、作戦通りお願いします!」
「言われなくても」
「おう、任せろ!」

それぞれ、らしい返事をしてはぐれメタルの両脇に回り込む。
両脇から追い込んでこちらに逃げてきたところで、旭さんの出番だ。

「旭さん、聖水の準備は大丈夫ですか?」
「ああ、ちゃんと持ってる!」

ちゃんと持ってる、とビンを何本もみせてくれる旭さん。
何故そんなにもドヤ顔なんですかあなた。
まあこれだけ持ってれば一匹くらいは仕留められるだろう。
それだけでも大もうけだ。

「月島!」
「はい!」

タイミングを合わせ、ノヤ先輩とツッキーがはぐれメタル達に飛び掛る。
予想通りにびっくりしたはぐれメタル達はこちらに向かって凄い速さで逃げてきた。
そして。

「ごめんなあっ!」

そう叫んで、旭さんは持っている聖水をはぐれメタル達にぶちまけた。


……ええと。

確かに可哀想だとは思うけど。
あんな円らな瞳しちゃってさ、魔物っていうには可愛い部類のやつらだけれども。
だからといってごめん、と言いながら倒しにかかっているからやられてしまったんじゃないですかね、旭さん。

私は旭さんの背中をじっと見つめ、喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。
目の前のはぐれメタルが消えた瞬間、旭さんの頭の上でレベルアップの音が鳴った気がした。




********************
※経験値はしっかり計算してないので、かなり大雑把にレベルアップさせていっております


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -