23
夜になったのでアリアハンへ戻り、全員が戻ってくるまでの間自室で寛いでいると。
コンコン、というノックの音が聞こえたので扉を開いた。

「あ、主将!お帰りなさい!スガ先輩も山口も……あれ?」
「「「…………」」」

無言のみんな。
そして主将が引っ張る紐の先にあるのはゲーム内では見慣れたアレ。
HPゼロになった人が入るやつ。

「あのう……その棺桶はもしかして……」

ぽそりと声を掛けると、誰も目を合わせてくれなかった。
冷や汗すら掻いているように見える。
ていうかね、主将、スガ先輩、山口がいる時点で誰がその棺桶かっていうのはわかっているんだよ。
あえて口にしたくないだけで。
だってゲームの世界とは言え……ねえ。
言いたくないじゃん…………死んじゃった、なんて。

「こうなった理由を聞いてもよろしいでしょうか。と、その前に部屋に入ってください。その棺桶ごと」

廊下でこんなデカイ棺桶持って話してたら目立つ事極まりない。
みんなの目に触れるのもどうかと思うので、部屋へと招き入れた。

「で?」
「えーとな。レベル5までは順調だったんだ。持ってるお金で聖水を買って、メタルスライムを発見したら山口と旭が聖水をばら撒くっていう作業を繰り返して」

ああ、そうか。
この状況だったら普通に打撃とかで叩くよりも聖水で倒した方が早い。
きっとこれはスガ先輩か山口のアイデアだろう。
ゲームを経験してないとメタル系に聖水でダメージ与えられるっていうのは知らないはずだ。

「レベル5になったあたりでな、旭がメタルスライムの大群に囲まれて。逆襲されたっていうかなんていうか……素早かったもんで、俺達が助けに入ろうとした時には既にこの状態になってたんだ」
「この状態っていうのはコレですか」
「ああ」

コレ、といいつつ目線を送ったのはもちろん目の前の棺桶。

「俺もさ、ザオラル覚えたから何度か掛けてみたんだけど……中々生き返ってくれなくて。そんでMP切れちゃったんだよね」
「え!スガ先輩ザオラル覚えたんですね!」
「あー…………その反応、もしかしてフミはまだだったりする?」
「ザキは覚えましたけど、蘇生系はまだ何も」
「そっかあー、お金も全部聖水に使っちゃったから、教会にも行けなくてさ。もしフミがザオラル使えたら生き返らせてもらおうと思ったんだよね」
「ああー……すみません、ザキしか……」

ザキはもうわかったから、という山口のツッコミが。
棺桶状態の人にザキなんてとんでもない!って思ってるんだろな。
私だってそう思うよ。
でもザキしか覚えなかったんだもん、仕方ないじゃない。

「とりあえずこっちの班の分は私がお金持ってるんで、一緒に教会行きましょう」
「助かったー、良かったな、旭!生き返れるぞ!」
「まったくこのヒゲチョコは……」

主将とスガ先輩と山口が棺桶を担ぎ、アリアハンの教会目指して歩く。
その間にテドン班のみんなとすれ違ったが、一瞬にして全員の頭の上に『!?』のマークが浮かんだような顔をしていた。
そうだよね、そんな反応になっちゃうよね。
そしてその間を無言ですごすごと通り過ぎる三人プラス私。
どうか旭さんが生き返ってもイジらないであげて。










「こんな夜更けに教会を訪れるなんて……一体どうしたと…………おお、生き返らせるのかね」
「はい、この人を生き返らせて欲しいんです」

代表で神父さまにお金を渡したのはスガ先輩だ。
主将はやり方を知らないのでとりあえず見てるという感じ。
うむ、と頷いた神父さまはお金を受け取り、私達に少し離れているように命じた。

「おお、我が主よ!全知全能の神よ!忠実なる神の僕、アサヒの彷徨える御霊を今ここに呼び戻したまえ!」

お決まりの台詞を呪文のように紡ぐ。
すると神父さまの手に光が集まり、その光が注がれた棺桶がゆっくりと消えていき、中にいた旭さんの閉じていたはずの目がゆっくりと開いた。

「……あのう、ご迷惑をおかけしました……」


生き返った最初の旭さんの言葉がこれ。
集団で襲われちゃったんなら仕方ないことだと思うけど……なんか、この世界での旭さんの不幸っぷり半端ない。
しかし当然の如く他のみんなは安心した表情で、幾分力が抜けた様子だった。
それは私も同じ事だが。
無事に生き返ることが出来てほんとによかった。








夕食のために集まった皆の旭さんに注がれる視線はそれはそれは暖かいものだった。
誰もが気遣ってあげてるような気がする。
当の本人は恥ずかしいやら嬉しいやら、といった様子。
でも死ぬも生き返るもほんと軽いなこの世界。
棺桶になったのはあっという間だったっていうし、あっさり生き返ったし。
死んでも心配ないって素敵。
それでも死ぬのは嫌だけど。

夕食後の報告会では、テドン班がグリーンオーブを手に入れたらしく、それをみんなに見せてくれた。
思ってたよりも小さく、手のひらサイズのオーブは透明感のある緑色で、とても綺麗だった。
上手く説明はできないが、ガラス玉が更に綺麗になったみたいな感じ。

「オーブってこんな簡単に手に入るものなのか?」
「いや、今回がたまたま簡単だっただけだと思うよ。日向ひとりで行かなきゃ手に入らないところもあるし」
「え!?おれ一人!?」

影山がまじまじとオーブを見つめながら質問したその答えに、日向が思い切り反応した。

「ああ、地球のへそ?」
「そうそう」
「勇者しか入れないとこだった……よね?」
「だからおれ一人なのか……!」

ツッキーに相槌で返すと、山口が補足してくれた。
一人という言葉に落ち込んでいるかと思いきや、興味の方が強いみたいでちょっと楽しそう。
正直、確か先頭にいる人しか入れないって場所だったような気もするんだけど……実際プレイする時は攻撃も回復も出来る勇者一人でやってたしな。
日向自身興味があるなら否定することもあるまい。

「でもまだまだ先の話だから、それまでレベル上げを怠らないようにしなきゃな!」
「菅原さん!おれ頑張ります!」

それから、やはり武器や防具も買っておいてくれたようで、みんなに配ってくれた。
さすがである。
で、ガルナの塔班は山口は聖水を全部使い切ってLV12まで上がったみたいなんだけど、旭さんは話に聞いていた通りでLV5。
今度ははぐれメタルで一気に稼いでもらうしかないな。
スーの村付近ではぐれメタルが出現したような気がするんだよなあ。

「あのさ、みんなにひとつ報告しなきゃいけないことがあるんだけど……」

申し訳なさそうに、それでいて絶対に伝えなきゃっていう雰囲気で手を上げる旭さん。
その手に全員の視線が集まる。

「なんだ、旭」
「さっき俺、一回死んじゃったじゃん?」

うお、と誰もが思ったに違いない。
そこに関しては触れずに居たのに、っていうみんなの心の声が聞こえる。

「で、その時棺桶の中で声が聞こえたんだよね」
「声?声って誰のッスか」

身を乗り出して旭さんに近寄るノヤ先輩。
旭さんの話は今後にとって重要な事になるのだろうか。

「誰っていうのは良くわかんないんだけど。低い声で『三回死んだらゲームオーバーじゃ』って言われた。森永、ドラクエって三回死んだらゲームオーバーなの?」
「え!いや、そんな事はないです。何度死んでも呪文で生き返ったり教会にお世話になったりだとか……」

死ぬのに制限なんてなかった。
それなのに、私達に関しては回数制限があるとか一体どういうことだ。

「もしかして、このゲームに俺達を引き入れたヤツが勝手にルールとして決めた、とか」
「引き入れたヤツ?スガ、それはどういうことだ」
「うん、今までちゃんとした原因っていうものを考えてなかったけどさ。ただ、ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるってことはわかってたけど……このゲームには黒幕がいるんじゃないか、って話」
「黒幕って、おれたちの世界にってことですか?」
「いや、それはわからないよ日向。俺達の世界にいるかもしれないし、この世界にいるかもしれないし」
「でも、このゲームに僕たちを引き入れたヤツがいるって考えたら東峰さんが聞いた声っていうのはその犯人とみていいんじゃないですかね」
「ていうか、三回死んだらどうなっちゃうんだろ」

ツッキーの台詞後の山口の呟きに、背筋にゾッとしたものが走った。
現実世界に強制送還ならまだいい。
でも、ここでのゲームオーバーが現実世界でもゲームオーバーだったとしたら……その先にあるのは、死…………

「や、やだ!みなさん絶対死なないように気をつけましょう!これまで以上に回復薬とか多めに持ち歩くなりして、誰が出遅れてもフォローし合えるように……!」

考えただけでも怖くなって、不安を隠すために早口になる。
それを察してか、影山が私の頭をポンポン、と叩いた。

「大丈夫だ、俺達はどんなヤツにだって負けねぇよ」
「お!影山良いこと言う!そうだよフミ、おれたちみんなで力を合わせたら絶対無事に帰れるよ!」
「そうそう、強い味方がたくさんいるんだからなっ!」

影山の隣で拳を握り締める日向。
日向の隣では田中先輩がドヤ顔。
他の皆も、不安な気持ちは同じなはずなのに……私が落ちてたらダメだよね。
ちゃんとしっかりしなきゃ、この世界事情に詳しいのは私なんだから。

「ま、とりあえず今一番心配なのは旭だから」

そして主将の何気ない一言に旭さんはガクリと崩れ落ちた。

「じゃあやっぱり旭さんのレベル上げが第一ですかね。今後の進路でスーの村っていうのがあるんですけど、その付近にはぐれメタルが出現したと思うんです。そこでガードをかっちり固めて聖水を使えば……」
「はぐれメタルだから今度は更に一気にレベルが上がる、ね」

ツッキーの言葉にうん、と頷く。
メタルスライムとはぐれメタルの経験値は比じゃないもんね。
千と一万の違いは大きい。

「そしたら森永、明日の班分けをしてくれるか?他に情報もないようなら今日はそれで終わりだな」

主将がみんなの顔を見渡して。
これといって新しい情報も出てこなかったので、後は私が班分けをして明日の説明をさせてもらうことにした。

…………結局コート作りとか、やりたいのに出来ないような気がする。


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